無垢-陸 | ロガリズム

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読んだ本の感想と、戯言です。戯れてあげてください。

「貴様はこいつを見くびっている」

土方が言う。いわく、この女は人が亡くなることに誰彼構わず等しく心を傷めるが、
たとえ人斬りでも、鬼ではなく人のように扱ってくれる、
自分は確かに敵味方ともに血濡れた人斬りだが、自分が触れたところでこの女の価値は下がらない、
そんな女じゃない。


……黙れ、

貴様がそいつを語るな。

そんな事は知っている。

俺が一番知っている。

きっと俺が付いてきて欲しいと望めば傍に居てくれるだろう。

そして巻き込むのか。いつ死ぬともしれない世界に。
毎日毎日泣かせるのか、明日は我が身だと。

そんな世界に置き去りにして自分が死んだらどうするのだ。


ならば俺の気持ちなど知らない方がよいだろうよ。

気まぐれで女好きで冷たい男だったと。

馬鹿な男に惚れた過去だと笑い、幸せな生活をさせたい。

だから、

だから、

俺を嫌いになれ。

よりによって座敷に戻ってきたお前を乱暴な言葉で傷つける。
壁に背中を打ち付け身体をまさぐった。
酷い男だろう、嫌いになってしまえ、

「ひどい……」

そうだ、嫌いになれ。

「告白もさせてくれなかったくせに……」

「……っ」

駄目だ。

こらえろ。

だが抗えない。

口にしてしまう。

顔にだしてしまう。

ずっとずっとお前の事を想っていたと。

聰い女だ。少ない言葉でもすぐに気づく。

駄目だ、顔を臥せろ。目を見るな。

そう考えるのに吸い込まれるように瞳をのぞく。

つかの間ゆらぐ瞳。

信じられないという顔をした後に。

泣き腫らした瞳が切なげに微笑む。

至上の幸せを手に入れたような顔をする。

頼む、

やめてくれ、

俺を骨抜きにしないでくれ、

唇に指先がつつと触れ、おずおずと口付けをかわす。小刻みに震えたそれが俺を煽る。

2年も離れたあいだ、こいつが俺だけを想い、誰にも口付けさえ許さなかったのだと知らされる。

だが。

胸の奥でごぽりと水の音がした。まずい。

肩を押し返し、身体を離そうとするが、首を振って離れるのを拒まれる。

違う。駄目だ、離れろ。

ゴホッゴボゴボとひどい音を出して血を吐いた。

「高杉さんっ!」

人を呼んで無理矢理引き離させる。

「放して!高杉さん!高杉さん!いやぁぁぁ!」

朦朧とする意識の中で泣き叫ぶあいつの声が聞こえる。

伝染るな。

伝染らないでくれ。

やがて意識が途切れた。