「貴様はこいつを見くびっている」
土方が言う。いわく、この女は人が亡くなることに誰彼構わず等しく心を傷めるが、
たとえ人斬りでも、鬼ではなく人のように扱ってくれる、
自分は確かに敵味方ともに血濡れた人斬りだが、自分が触れたところでこの女の価値は下がらない、
そんな女じゃない。
……黙れ、
貴様がそいつを語るな。
そんな事は知っている。
俺が一番知っている。
きっと俺が付いてきて欲しいと望めば傍に居てくれるだろう。
そして巻き込むのか。いつ死ぬともしれない世界に。
毎日毎日泣かせるのか、明日は我が身だと。
そんな世界に置き去りにして自分が死んだらどうするのだ。
ならば俺の気持ちなど知らない方がよいだろうよ。
気まぐれで女好きで冷たい男だったと。
馬鹿な男に惚れた過去だと笑い、幸せな生活をさせたい。
だから、
だから、
俺を嫌いになれ。
よりによって座敷に戻ってきたお前を乱暴な言葉で傷つける。
壁に背中を打ち付け身体をまさぐった。
酷い男だろう、嫌いになってしまえ、
「ひどい……」
そうだ、嫌いになれ。
「告白もさせてくれなかったくせに……」
「……っ」
駄目だ。
こらえろ。
だが抗えない。
口にしてしまう。
顔にだしてしまう。
ずっとずっとお前の事を想っていたと。
聰い女だ。少ない言葉でもすぐに気づく。
駄目だ、顔を臥せろ。目を見るな。
そう考えるのに吸い込まれるように瞳をのぞく。
つかの間ゆらぐ瞳。
信じられないという顔をした後に。
泣き腫らした瞳が切なげに微笑む。
至上の幸せを手に入れたような顔をする。
頼む、
やめてくれ、
俺を骨抜きにしないでくれ、
唇に指先がつつと触れ、おずおずと口付けをかわす。小刻みに震えたそれが俺を煽る。
2年も離れたあいだ、こいつが俺だけを想い、誰にも口付けさえ許さなかったのだと知らされる。
だが。
胸の奥でごぽりと水の音がした。まずい。
肩を押し返し、身体を離そうとするが、首を振って離れるのを拒まれる。
違う。駄目だ、離れろ。
ゴホッゴボゴボとひどい音を出して血を吐いた。
「高杉さんっ!」
人を呼んで無理矢理引き離させる。
「放して!高杉さん!高杉さん!いやぁぁぁ!」
朦朧とする意識の中で泣き叫ぶあいつの声が聞こえる。
伝染るな。
伝染らないでくれ。
やがて意識が途切れた。