「あなたは我が家で言う【斥力】を持っていますね。」
楠原君も言っていた。霊が寄ってこない特質があるらしい。
「あなたは小さい頃から訓練できていたんですよ。諦念、拒絶、乖離。自分の欲望を遠ざける、他人に期待しない、甘えない、自分の事さえ拒絶してきた。
その繰り返しで、結果的に知らないうちに【斥力】の訓練が出来ていた。そのあなたが切り離したくて切り離せなかった欲望。やっと失えたのに、今更取り戻す事など、ただでさえ自己欲求が弱いあなたには出来ません。
こと、何かを【欲しがる】ことほど、あなたにとって苦手なものはない。」
確かに欲しがるのは苦手だ。
けど、楠原君の為なら。
「出来ませんよ。どんなに息子を助けたいと願っても。息子の意思の方が強い。
息子には、あなたには戻さないという決意と、あなたを守りたいという欲求がある。
あなたの願望は、【失いたい】と【息子に守られたい】だった。
才能じゃないんです。意思の強さなんです。
そして何より。
人間は自分の願望には勝てません。
息子なら大丈夫です。私も協力しますし、すぐに通常に戻しますよ。しかし、寺に戻ってもう少し安定する処置が必要です。息子を連れ帰りますね。」
楠原君のお父さんが楠原君をかかえて車に去っていく。
私は、どうすることも出来ずに、ただ、車を見送った。
消してほしいと願ったのは私。
楠原君に頼ったのも私。
甘えすぎたのも私。
けど、思い出す。
あの化物が私に何を言っていたかを。
どんな風に苦しめられたかを。
楠原君は私の過去を視たのかもしれないが、全てを視たわけじゃないだろう。
あの化物が見せる映像を今、楠原君は見ている。
「ふざけんな……。」
自分と楠原君の両方に向かって言う。
「自分だって、自分だって! ずっと辛かったくせに! なんで他人の分まで引き受けてんだよ!」
願望には勝てない?
勝ってやる。
その願望は、女の子のアタシの願望だ。
勝ってやる。打ち崩す。
楠原君の意思にも、自分の甘えた願望にも逆らう。
言ったはずだ。【お前が辛い方が嫌だ】と。
忘れやがって、馬鹿野郎。
私は、走り出した。
考えろ。
どうやって、奪い戻すか。
作戦を立てる必要がある。