翁社長スピーチ⑤ | TEMnet.

翁社長スピーチ⑤


 もう一つの話をします。僕が伊藤忠商事に入ってから三年目ぐらいの


時にいきなり、本社からあるテレビ番組製作会社へ出向を命じられまし


た。ご存じの方は分かると思うのですが、外苑前の伊藤忠のビルはそ


れなりに立派なんですけど、そこから六本木の普通のマンションの一


室に移ったんです。それも10人くらいしかいない、「会社と言えるのか


な」と思ってしまうような小さい製作会社に1年半ほど出向しました。



 それから毎月、実際の労働時間が450時間。30日で割ってみていただ


ければ、どれぐらい働いていたかが分かりますよね。で、実際何をやっ


ていたかというと、撮影の現場で弁当を頼んだり、暑い日にはタレントの


後ろから扇子であおいであげたりとかですね。あと、撮影した後に編集


作業をするのですが、僕はその仕事はできないので、編集室にいるだ


け。誰かが「お腹がすいた」と言えば食べ物を買ってきたり、足りないも


のがあれば電話したりする雑用係でした。



 そのころの仕事で、深夜番組のロケでフランスに行くことになって「こ


れは一応、海外出張なのかな」と思ったんですけど、予算が非常に厳し


くて。パリで泊まったホテルが一晩で3000円ぐらいのところで、Tシャツ


を着て25キロの照明機材を背中に担いで、地下鉄を乗り降りして撮影し


ていたんです。



 その時思ったのは、「きっと僕の同期の誰かが同じパリに来たら、ビジ


ネスクラスでやってきて、五つ星のホテルに泊まって、スーツ姿でかっこ


いいファッション業界の人と話をするだろう。なのに、どうして自分はこん


なことをしないといけないんだ。大学院も卒業しているのに」ということで


す。でも、そんなふうに思うこともあったけど頑張って、その一年半やる


にはやったんですね。



 しかし、それが意外にいろんなところで役に立ってきたんですね。ま


ず、そこの取引先の社長が気に入ってくれて、私が会社を作って一番


資金繰りが厳しい時期に数千万円出資して下さったんです。



 それも特に理由があったわけじゃないんです。僕のビジネスモデル


が好きだったわけではないし、そもそもネットのことが分からない方で、


純粋に「翁君だったら応援してやろう」ということでお金を出してくれた


んです。そして現在に至るまでも、非常にたくさんの人脈を紹介してく


れたりしました。



 それから、そのころの仕事で会った人たちとは今のビジネスで接点


はないだろうとずっと思っていたのですが、去年に、一昨年かな、JW


ordのサービスのプロモーション活動で、いろんな雑誌に広告を出そう


としていたんです。



 そこで、読者数・発行部数の多いテレビ番組誌に出そうとしたときに、


何か関連性があった方がいいだろうと思って、ドラマのタイトルや人気


番組のタイトルをJWordを使って検索したら非常に便利にできますよ、


という内容の広告を作って載せようとしたんです。



 しかし、まずその番組のタイトルを使っていいか許諾を得ないといけ


ないと思って、いろいろなテレビ局に当たったんです。そうしたら「よく


分からないから、とにかくだめだ」とか「初めての話なので検討に数週


間かかる」という反応でした。しかし、それでは広告スケジュールに間


に合わなくなってしまう。



 そこで、「そういえば、昔一緒に弁当買っていたADの人がいたな」と


思い出して、いろいろな局に勤めているその人たちに電話したら、担当


の方につないでくれたんです。それで二日間でTBSとかテレビ朝日とか


局から承諾が出たので、広告の製作を間に合わせることができたんで


す。



 私としては、昔のあの時の人たちと今の仕事でつながるなんて夢にも


思ってなかったんですね。だから、何をしてても必ず、あとで、どこかで


役に立つことになるんだなと非常に深く思いました。