今回は、イスラエルのテクニオン工科大学を卒業されたA.M.さんのご紹介。日本人留学生はほとんどが聖書や歴史など文系が多いのですが、その中で理系大学を卒業した貴重な存在です。テクニオン工科大学は、創立にアインシュタインが立ち会い、4名のノーベル賞受賞者を輩出している優秀な工科大学で、近年日本の企業からも注目されています。
M.A.さんは卒業してすでに帰国。かの地で学んだことを活かしながら、自動翻訳をライフワークにとして研究を続けておられます。

● Q1:イスラエルに留学しようと思ったきっかけは何ですか?

私はクリスチャンの家庭に生まれたことから、両親や周囲の方からイスラエルのことを聞いて育ちました。また、科学技術にも大変興味があり、中学生の頃から将来は技術者として働きたいと考えていました。
イスラエルは、聖書の舞台であると同時に、現代では世界でもトップレベルの技術立国となっています。ユダヤ人の発想能力は凄いといった話も色々と耳にしていたので、いつかはイスラエルを訪れたいという気持ちを抱いていました。
高3の夏、イスラエルの各地を巡るツアーに参加する機会に恵まれました。そのツアーでは、イスラエルの歴史、聖書の舞台、荒野に農業・産業を起こす開拓精神や国防の精神など、多くの事に触れてすべてが感動でした。特に、絶望の中から立ち上がって祖国再建に尽くした不屈の精神に触れ、兵役を間近に控えた同年代のイスラエル人達と交流できたことは大きな刺激でした。
私は当時、日本の大学に進学して好きな分野を学ぼう、とぼんやりと考えて過ごしていましたが、イスラエルツアーから帰国しても感動が消えず、すぐにでもイスラエルに戻って現地の大学で学びたい、という思いが湧いてきて、高校卒業後すぐにイスラエル留学を目指しました。

> Q2:イスラエルでどんなことを勉強しましたか?

イスラエル随一の工科大学であるイスラエル工科大学、通称テクニオンでコンピューターサイエンスを学びました。テクニオンはイスラエル唯一の工科大学で、設立は百年以上前に遡り、イスラエル最古の大学でもあります。


同大学の創立には、かのアインシュタインらが立ち会っており、4名のノーベル化学賞受賞者や、数多の権威ある学術賞の受賞者を輩出していることで有名です。
授業や試験は全てヘブライ語で行われました。事前にヘブライ語を十分に習得してから留学に向かったわけではなかったため、大学レベルのヘブライ語についていくのが大変で、その上で専門分野を習得するのは本当に大変でした。ですが、多くの指導者や友人に恵まれて、諦めずに挑戦し続けることで卒業までたどり着くことができました。
コンピュータ分野の中で、特に力を入れて学んだのはネットワーク技術やハードウェア設計技術などで、卒業に必須であった「最終プロジェクト」という科目では、IntelやQualcommといった有名企業と共同でソフトウェアの開発に携わるような経験もできました。
また、工科大学でありながら人文系、特に外国語の単位科目も充実しており、私はその中でイーディッシュ、ロシア語、ドイツ語、フランス語なども学びました。実はそれが今の仕事にも繋がっています。

> Q3:イスラエルに来て嬉しかったこと、驚いたことは?

イスラエルで嬉しかったのは、現地の人々の温かさに触れる機会が多かったことです。イスラエル人というのは、困っている人を放っておけない気質の人が多いので、少々過保護なくらい、勉強の面倒を見てくれたり、食べ物を分けてくれたり、心配して声をかけてくれたり……。
私はどちらかというと人付き合いには苦手意識があるのですが、イスラエルでは向こうから積極的に関わってくる人が多く、お陰で多くの人脈に恵まれました。在学時はキャンパス内の学生寮で生活していましたが、ルームメイトと意気投合して、毎年のように新しい寮に引っ越しをするようなこともありました。



テクニオンのコンピューターサイエンスの教育水準は本当に高く、新入生の中にはイスラエル国防軍の情報機関出身の人々も多く、開始時点からレベルが違います。そういった心強い仲間に助けられ、引っ張り上げてきてもらったからこそ今があるし、同期の友人たちが今も世界中のリーディング企業やベンチャー企業、大学・研究機関や国防軍など、様々な舞台で活躍していることに誇りを覚えます。


> Q4:日本に帰国後は、何をしているのでしょうか?

卒業後は日本とイスラエルの架け橋として働きたい、という思いがありました。そして、現地で学んだコンピューターサイエンスと言語を生かして、機械翻訳(自動翻訳技術)をライフワークにしたいという願いが湧きました。帰国後、この機械翻訳の研究で博士号を取得し、現在は日本の民間企業の研究員として勤めております。
勤め先の企業は、古くからの数少ないテクニオンのスポンサー企業の一つでもあり、イスラエルに多くの関心を寄せています。現在の業務内容は直接イスラエルに関連しているわけではないですが、研究を通して多くのイスラエル人との出会いや再会があるのが何よりの楽しみで、モチベーションとなっています。
中国やデンマークでの学会発表でテクニオンの同期との感動的な再会も経験しました。

> Q5:今後の抱負や夢がありましたら、お願いいたします。

やはり、もっとイスラエルに行きたいですし、もっとイスラエルと繋がりのある仕事ができればと願っています。できることなら家族と一緒にイスラエルで長期滞在ができればと思っています。幸い、現在の勤め先には充実した海外派遣の制度があり、私の立案した研究計画が認められれば、家族一緒の海外派遣も夢ではありません。
将来的には、翻訳技術や言語サポートに特化した起業も視野に入れており、イスラエルの留学経験者を受け入れて、日本・イスラエルの交流を盛り上げていきたいと思い描いています。