日銀の金融緩和で円安誘導してはどうか、という話があったので、それについて考えたい。


円安にすれば、輸出が伸び、輸出産業には追い風である。 しかし、その一方で、原料やエネルギー、食料の価格は上がるので、輸入に関してはマイナスである。  以上のような考え方が極めて一般的な考え方であろう。


ところが、この円安、円高という問題は、短期と長期に分けて考える必要がある。 


円安に振れた場合、短期的には輸出産業の利益が上がる。 これは異論のないところだろう。


しかし、長期的にはどうかというと話は別だ。例えば今1ドル80円だとする。 これが160円になったとしよう。 すると輸入物価は単純には2倍になる。 そして長期的には、円がインフレにより実質実効為替レートが以前と同じところで、再び均衡する。 長期的には何も変わらない。


とはいえ、これには時間が掛かるので、そのタイムラグを利用して輸出産業は利益を上げることができる。 


それでは、このタイムラグを使うことにしよう。 これを実現すれば、輸出は伸びる、しかし、これは円高圧力になるし、諸外国も黙ってはいまい。 実現性やその持続性は不確実だ。


しかし、それ以上に問題なのは、円安にして本当に輸出が伸びるのかということだ。 これがかなり怪しい。 リスクシナリオとしては、円安にしても、輸出はそれほど伸びず、輸入物価の値上がりから経常収支が赤字になり、財政赤字のファイナンスが上手く行かなくなる可能性がある。  JPモルガンのチーフエコノミスト、菅野雅明氏は早ければ3-4年で経常収支の赤字化が起こると分析している。 もしそうなれば、円安に振れるが、輸出が思ったように伸びなければ、国内でインフレが大きくなり、クラウディングアウトからスタグフレーションになるだろう。 これは最悪のシナリオである。


リーマンショックまでの2003年からの景気拡大局面では輸出主導の回復がみられ、このときは円安だった。 しかし、このときはアメリカが金融バブルで好景気を謳歌していたわけで、今、日銀の金融緩和で円安誘導に成功しても、同じようなシナリオが機能するとは思えない。 



実際にこういうことをやった国が最近のイギリスである。 ポンドはユーロに対して、4割程度も安くなった。 輸出は多少伸びたものの、国内でインフレが昂進し、賃金は上昇せず、失業率は改善しなったというのは、前のエントリーで述べたとおりである。


インフレ転換する前に、景気回復の障害になっている財政を安定させることが先決問題ではないだろうか。 インフレ転換後に財政を安定させるのは極めて難しいからだ。