日本語のネット上に、次の論文の紹介が見当たらなかったので、ここで紹介します。

 

「Aerodynamic drag in cycling pelotons: New insights by CFD simulation and wind tunnel testing」
「自転車のプロトンにおける空気抵抗: CFD シミュレーションと風洞試験による新たな洞察」

 

 ※なるべく数式を用いることはここでは避けることにします。CFDとかRANS方程式、支配方程式、輸送方程式などなど、という言葉にピンと来た人達は、リンクを最後に貼っておきますので、直接御覧ください。

 

 この論文が2018年のものだといえば、比較的最近のものだということがわかるでしょう。実はこの論文が発表されるまで、プロトンの中心にいる選手は、単独の選手と比較して、空気抵抗の低減率は50%~70%程度であろうと考えられてきました。これは古い論文や学説の影響です。

 ところが、プロ選手や自転車の専門家からすれば、「いや、もっと低いだろう」という見解があったのです。

 そこで、アメリカのワシントンにあるクレイという会社のスーパーコンピューターを使用して、本格的な実験を行ってみて、結果を得たというのがこの論文の主旨です。

 

 実験では、人と自転車のモデルは厳密に次のように設定して、作られました。これが121体用意されます。

 

 それでは、結果から見ていきます。単独走行が100%の空気抵抗があると考えて下さい。

 すると、4人の菱形だと、先頭は100%ではなく96%に下がります。両脇は72%と74%、最後尾は43%になります。

 縦一列の4人だと、先頭は98%で、順に59%、50%、46%になります。

 

 いよいよ121人です。

 

 PelotonAとPelotonBの違いは、Aは前のバイクの後輪と後のバイクの後輪が接するかのように配置されているのに対して、Bは少し距離を取った配置です。バイクの横幅はどちらも同じです。(画像は拡大して見て下さい。)

 真ん中の最後尾は、4%や5%という数値が見られます。ぴったりくっつけば、そこまでも可能だということです。(室内の抵抗の低いローラー台で回しているのに近くなる!?)速度でいえば3.2~4.5分の1になるようです。

 

 この実験結果から、言えることは、これまでの50%~70%というのは間違っていたということ。集団になると、後方に限らず、先頭や最横も抵抗を減らせているということです。
 この論文の終盤にこんなことも書かれています。自然界を見ても、この法則が見られることは既に実証されています。それは、アヒルのフォーメーション・スイミング、イルカの親子の並んだ泳法、魚の群れ、V字編隊の鳥の群れ、これらのエネルギー消費が軽減されていることは既に実証されていたのです。

 

 「プロトンの腹部に位置するサイクリストは、ペロトンと一緒に移動するためにペダルを踏む必要がほとんどなく、エネルギー消費が非常に少ない」という自転車専門家や実際の自転車専門家の声明とよりよく一致しています。--- 最後のスプリントに向けた離脱やエネルギー節約などのサイクリング戦略を改善するために使用できます。また、サイクリングの数学的モデルの信頼性を向上させるためにも使用でき、離脱戦略を開発するためにも使用されることもあります。

 

 このように締めくくられています。

 

[参考文献]

「Aerodynamic drag in cycling pelotons: New insights by CFD simulation and wind tunnel testing」"Journal of Wind Engineering and Industrial Aerodynamics
Volume 179, August 2018, Pages 319-337"
「風(かぜ)工学と産業空気力学の学会誌」

 BY Bert Blocken, Thijs van Druenen, Yasin Toparlar, Fabio Malizia, Paul Mannion, Thomas Andrianne, Thierry Marchal, Geert-Jan Maas, Jan Diepens

 

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0167610518303751#sec6