『傑作はまだ』 | てこの気まぐれ雑記帳

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グータラ婆が気ままに、日々の出来事や思ったこと、感じたことを、適当に書き綴っています。なんでも有りの備忘録的雑記帳です。

読み終えてから2カ月も経ってしまった💦

 

2月24日(金)、『傑作はまだ』(瀬尾まいこ。文春文庫)読了本

「永原智です。はじめまして」。そこそこ売れている50歳の引きこもり作家の元に、生まれてから一度も会ったことのない25歳の息子が、突然やってきた。孤独に慣れ切った世間知らずの加賀野と、人付き合いも要領もよい智。血の繋がりしか接点のない二人の同居生活が始まる――。明日への希望に満ちたハートフルストーリー。(裏表紙「粗筋」)

 

 

*私の読書録は備忘録としての感想文。完璧ネタバレですm(__)m*

 

 

 

・第1章「息子が来た日」 ・第2章「今日は何を知る日」 ・第3章「二百四十一枚の写真の日」 ・第4章「きみを知る日」――の4章から成る。

 

大学卒業前に作家になった加賀野。

25年前、酔った勢いで好きでもないし興味もなかった美月と関係を持ってしまい……^^;

お互いに結婚相手とは思えなかった2人は相談。美月は子どもを産み育て、加賀野は成人するまで養育費を送ることとした。

「子どもの誕生を喜べない人に父親になる権利はない。顔も見せず口も出さず、お金だけ出してくれたら、それでいい」

 

生まれてから一度も会ったことのない息子が突然、「アルバイト店(ローソン^^)の都合で、しばらく住まわせて」とやって来た。

毎月養育費を振り込んだ後に、「受け取った」メモと子供の写真が送られてきたので、20歳までの顔はまぁまぁ分かるが、養育費を払い終わってから既に5年、戸惑いながら狼狽えながら、息子の智との共同生活が始まった。

 

読み始めて最初に不思議に思ったのが、そこそこ売れっ子作家の加賀野が、ほぼ引きこもり状態だということ。

作家とは、‟書く舞台”の対象を深く知るために、調べたり体験したり、出歩くことも多いのだろうと思っていたので。

でも現代では、知りたいことはネットで検索し、パソコンで書いてメールで出版社に送り、さすがにゲラはメールじゃなく郵送でやり取りするそうだ(この小説によれば)けど、何も本人が出掛けて調べる必要がないんだね、へぇー。

 

だけど、智に指摘されるまでもなく、感覚や感情は自らの経験や体験で生まれるものだから、パソコン打ってるだけでは、リアリティに欠ける表現・筋書になるだろう。

「人と話さなくても小説書けるってすごいな。っていうか、でたらめばかり書いてるんじゃないだろうな」

「百冊の本を読むより、一分、人と接する方が十倍の利益がある」

 

加賀野自身が、智に連れられて外出した時には、文章や映像で知っているありきたりな風景も、実際に見てみるとおもしろい‥と感じた。

さらに、人に対するアンテナの尋常じゃない鈍さ、周囲に対する無関心さに気付かされた加賀野。

これが、智がやって来た大きな理由だったんだね。

 

「現実の世界は小説よりもずっと善意に満ちている」

智が、明るくて優しくて気が利いて、本当に性格が良くて清々しい。

そんな青年に育てた美月の、でっかい肝っ玉母さん振り。

――自分よりも優先すべきものがあるのだ。そこには揺るぎない覚悟がいる。子どもと共にある日々は、どれほどの強さや寛大さを美月にもたらしたのだろう。

 

夫や、息子の父親としてはマイナス評価だったけれど、作家としての加賀野を好きだった美月は、ズ~ッと加賀野の本が出ると愛読していて、マンネリ化してきたことに不安を抱き、智を送ったということ。

加賀野には一切の連略をしなかったけれど、加賀野が縁を切ったかのように無視してきた彼の両親には、挨拶し気をつかってきた、本当に‟できる女”の美月が格好いい^^

 

父に見向きもされなかった息子と、人との関りを避けてきた父…怨嗟と哀しみに溢れていてもいいのに深刻にならず、登場人物みんなが優しくて善意に満ちている。

読み終えて、こちらまでギスギスした心がホッと安らいだ。

加賀野の次作はきっと、「傑作」に違いない。

 

せお・まいこ(本名:瀬尾麻衣子)=1974年1月16日、大阪市生まれ。大谷女子大学文学部国文学科卒後、中学校国語教諭として勤務のかたわら執筆活動。2001年『卵の緒』で第7回坊っちゃん文学賞大賞受賞し02年に単行本化。05年『幸福な食卓』で第26回吉川英治文学新人賞、08年『戸村飯店青春100連発』で第24回坪田譲治文学賞を受賞。11年教諭退職。13年咲くやこの花賞の文芸その他部門受賞。19年『そして、バトンは渡された』(2022.1.09記)が第16回本屋大賞を受賞。