『ホテルローヤル』 | てこの気まぐれ雑記帳

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未だに続く去年の読書歴あんぐりピスケ

 

2016年11月22日、『ホテルローヤル』(桜木紫乃。集英社文庫)読了本

北国の湿原を背にするラブホテル。生活に諦念や倦怠を感じる男と女は‟非日常”を求めてその扉を開く――。恋人から投稿ヌード写真の撮影に誘われた女性事務員。貧乏寺の維持のために檀家たちと肌を重ねる住職の妻。アダルト玩具会社の社員とホテル経営者の娘。ささやかな昂揚の後、彼らは安らぎと寂しさを手に部屋を出て行く。人生の一瞬の煌めきを鮮やかに描く全7編。第149回直木賞受賞作。(裏表紙・粗筋より)

 

舞台が釧路郊外、作者が釧路市出身―というだけで選んだ小説。

「シャッターチャンス」「本日開店」「えっち屋」「バブルバス」「せんせぇ」「星を見ていた」「ギフト」の7編から成る、オムニバス形式の連作短編集だ。

小さなラブホテル「ホテルローヤル」という場所を借りて展開する、それぞれ事情を抱えた人たちの、官能的というよりむしろ、しみじみと哀しくなる物語。

 

第1話「シャッターチャンス」は、廃墟となったホテルの1室で繰り広げられるヌード撮影シーン。恋人のために投稿ヌード写真のモデルにはなったのだが……

男と女の心の奥の、微妙なすれ違い。

 

第2話「本日開店」。漁業に活気があって炭鉱が健在だったころには、観楽寺も檀家の支援とお布施で維持できたが、駅前通りがシャッター街となってからは……寺の大黒の幹子は、檀家の老人たちに奉仕することでお布施を受け取ってきたが、代替わりしてやってきた男との出来事は、奉仕ではなく快楽だった。

「ホテルローヤル」の社長・田中大吉が今際(いまわ)の際に「本日開店」と言って死んだ。が、遺骨の引き取り手がなく、観楽寺で預かることに。

 

第3話「えっち屋」とは、ラブホテルの部屋に備えるアダルトグッズを扱う商売をいうらしい。そんな仕事があるなんて、知らなかったわ~。

大吉の娘・雅代が高校卒業してホテルの管理をするようになってから10年が過ぎた。大吉は病気で入院し、高校教師と女子高生の心中事件があってからは閑古鳥が鳴いているホテルを閉めることにした。

住む場所も仕事もなくなった雅代の「今日は旅立ち。今日から自由。今日でお別れ。今日が始まり――。」

すっきりと出て行くために雅代が選んだことは――。

 

第4話「バブルバス」。姑の新盆で読経を頼んでいた観楽寺の住職が、予約ミスで来られなくなった。恵は財布から出る予定だった5000円が浮いたことが嬉しい。

「信心も、心と財布に余裕のある人間がやることだ。」

いかし、夫婦の寝る場所もない狭い家に帰っても、子供たちと、突然同居したいと押しかけて来た舅のための昼食作り……そんな時、「ホテルローヤル」の看板が見えた。

両手両足を伸ばし、裸で眠ることの幸せ、5000円の贅沢。

 

第5話「せんせぇ」。野島が尊敬しており、彼女を紹介してくれて仲人を引き受けてくれた人。

彼は妻の、20年も続いている恋人だった。

連休に単身赴任先から札幌の自宅に帰るか迷っている野島に、ベタベタした喋り方で呼びかけてきたのは、教え子のまりあ。母が男と駆け落ちし、父も家を出てしまったのでホームレスになったという。

帰る家を失った2人は、終着駅が一番遠そうな場所・釧路へと向かった。

 

第6話「星を見ていた」は、「ホテルローヤル」の掃除婦になって5年の、60歳になる山田ミコが主人公だ。

10歳年下の夫は漁師だったが、脚を痛めてからここ10年は働いていない。3人の子供たちは中学卒業後家を出て、音沙汰があるのは年に1度電話してくる次男だけだ。その次男が、殺人事件の容疑者に。

「一生懸命に体動かしている人間には誰もなにも言わねぇもんだ。聞きたくないことには耳をふさげ。働いていればよく眠れるし、朝になりゃみんな忘れてる」……黙々と働くミコに、周りの人は優しくなる。でも、、、、初めて、どこかでゆっくり休みたい、ひとりになりたいと思った。

 

第7話「ギフト」。田中大吉の夢は、湿原を見下ろす素晴らしい景色の所に、ラブホテルを建てること。

反対する女房と離婚などする気はない。肩に商売、片手に家族、片手に若い愛人るり子と赤ん坊。すべて背負ってゆくと決めた大吉だったが。

悪阻のるり子へのプレゼントに買った超高価なミカンの名前は「ローヤルみかん」。

 

この短編集の特徴は、時間の流れが逆になっていること。

第7話でホテル建設の話が出、第1話はすでに廃墟になっているホテルでの話。

 

登場人物は誰も、貧困という言葉が軽々しく感じられるほどに、貧しく孤独。

貧乏からの脱出を図って頑張ろう~なんて活力はなく、淡々と現状を受け入れて、誰を恨むこともなく底辺を生きている。どこかユーモラスでさえある暗さ。ラブホテルという非日常な空間の中で、一瞬煌めきを放ち、結果、かえって寂寥感が増すようだ。

日本が好景気に沸き、釧路も漁業と炭鉱で活気があった頃もあったが、いまや駅前通りはご他聞に漏れずシャッター通りとなっている。

登場人物の裏寂しさは、廃れ行く街の哀歓でもあろうか。

 

さくらぎ・しの=1965年4月19日、釧路市生まれ。釧路東高等学校卒後、裁判所でタイピストとして働いていたが、24歳で結婚を機に退職。夫の転勤で釧路市、網走市、留萌市などに住んだ。「北海文学」同人として活動し、2007年『氷平線』で単行本デビュー。02年「雪虫」で第82回オール讀物新人賞受賞、13年「ラブレス」で第19回島清恋愛文学賞受賞、同年「ホテルローヤル」で第149回直木三十五賞受賞。金澤伊代名義で詩人としても活躍。

15歳の時に父親が、釧路町でラブホテル「ホテルローヤル」を開業、部屋の掃除などを手伝っていたという経験がある。

 

 

💛昨日のJohn-Hoon(__viviano__さんインスタより)。

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