※審査時の問題点


注意深い観察と正確な判断と分析は審査員にとって絶対に必要なものである。経験豊かな審査員のみが熱戦の勝者を決める事が出来る。
 我々は審査員の権利や特権を尊重すべきだと語ってきたが、それは正しい意見や判定への正しい批判を妨げてまでも審査員を守らなければと言う事では無い。
 審査員として適切でない人なら批判を受けるであろうが、プロの批評家や飼い主やハンドラーが、審査員の判定を批判する時は世間一般の礼儀として、紳士的なやり方で抗議する。
 審査員としての職務を果すのは大変難しい事なのだと知って居る人達は審査員を妬んだりはしないだろうが、犬への愛情が深過ぎて犬の能力を過大評価したりしている人の中には、自分の犬が負けたりすると判定や審査員への不当な抗議までしてしまう人が、少しは居る事だろう。
 狩猟家が自分の持って居る犬こそが「世界で一番良い犬だ」と思う事は理論的には差し支え無いが、実際にはそうではない、美的観念が各々人によって異なる様に鳥猟犬への観念も違って来る。
 然し乍ら、この違いがトライアルを作ってゆくのである。アメリカのトレーナーとして、又トライアルの審査員として有名な、ウイリアム・W・タイタス氏が、カリフォルニアのヘンリー・L・ベテン氏に当てて、「トライアルの審査について」書いたものを取り上げてみよう。
「審査員として可成り長い間の私の経験によると、審査員の中で一定の結果を生み出す様な方式を取って居る人は少ない様に思う。

審査員の多くは多少行き中りばったりのその場限りの方法で判定を下して居る様に思える。
審査方式を持たず、考え方が一定して居ないので、ある時は厳しく、次の時は甘い判定を下す事もある。
 私自身の方式は第一シリーズでは高級なものだけを取扱う。この方法を採り入れる為に一番重要な事は、一つの種目に出走する全ての犬の段階を考える事である。
 第一シリーズが終ると、その種目に出場した犬の中からハイクラスの犬のみを選ぶ。高級な犬のみを選ぶ基準は曖昧な、はっきりとしない考えでなく、私が判定を下す種目毎に既に定められた基準である。
この方式によると、能力のない犬は第二シリーズに入れない。次はこれ等の選ばれた犬が競技し、狩猟鳥への実際に示された能力によって優勝犬、第二位、第三位が決められる。
 今日判定を下す時に良く起きる問題は審査員が簡単な方法で、判定を下し易いという事である。
その様な審査員は、運良く一頭の犬が大層目立つ働きをすると、その犬を優勝犬と定めてしまい、二位、三位も推定か何かで決めてしまう。この様なトライアルの判定では優勝犬が本当に優秀な能力を持って居るのか運良く入賞したのか解らない。                     


猟鳥が不足して居ると正しい判定が下せない、と言うのは猟鳥を扱う完全なテストが行われなければ、能力のない犬でも運や、たやすい条件の下で良い点を得る事が出来るかも知れないからである。完全なテストならば能力をごまかす事は出来ない。各階級の犬を良く考慮し鳥を扱う能力の審査が適切になされる様有能な優勝犬を生み出す事が出来る。
この方法によりトライアルの判定は首尾一貫した堅実なものとなり、一般の人達やトレーナーは勝利犬となるには何が望ましいか、どうして犬が勝利犬とならなかったか、が解るであろう。
所謂、高級な犬の全てが猟犬ではないし、必ずしも多くの猟犬が高級な犬ではない。
然し、高級な犬だけが第2シリーズに入れられ、猟鳥を扱う能力を試験されるならば、勝利犬は高級な犬で、又猟犬としても優秀な能力を持って居る犬である事が立証される、とベテン氏が付け加えている所によると、一般的な規定や判定の基準は幾らか違って来て居るとは云え、30年の間大きな変化はない。
過去に於て、有能な審査員が賞讃した様な働きをする犬は、今日でも立派な審査員によって探し求められて居る。尊敬され得る審査員とは聡明で、仕事への素晴らしい判断力を持ち、自分自身の結論に恐れずに到達する人である。

 初めて審査員となる人や経験の少ない審査員の手本となる様な豊かな経験を持った審査員も居る。彼等の理想や審査の手順は他の審査員によって歓迎され、トライアル競技に貢献するであろう。アメリカのアマチュア・フィールド・トライアル・クラブはフィールド・トライアルの法則の本を出版する為に、実際には審査の為の討論会を持ち、トライアルの立派な審査員の意見を述べる為に、「審査員の研究会」の委員会を開いた。
 トライアル審査の慣例や手順についての小冊子を作り、それが承認されたトライアルで審査員となる人の手助けとなる事がアマチュア・フィールド・トライアル・クラブの目的であった。
適切な手順の説明や規則、意見の解説や、トライアルの審査をする時起きる全ての状況を始め、起きるかも知れない特別の問題の出来る限りの正しい分析がされて居る。
 この様なトライアル審査の慣例に関する本がアマチュア団体に多く貢献して居るとは言え、本だけが立派なトライアル審査員を生み出す訳ではない。

 オール・アメリカン・フィールド・トライアル・クラブ書紀のT.ベントン・キング博士の断言を述べると、
「トライアル・クラブは犬の改良に尽し、有益な土地やトライアルの勝利犬を求めるだけでなく、猟場で狩猟家の楽しみを増し、成功度を高めるために優秀な犬の改良に尽す事も、トライアル・クラブの目的でもある。
 トライアル・クラブ、審査員、飼い主やハンドラーは犬のスピードやレンジを非常に重視するが、所謂鳥を扱う能力と言う言葉で示される隠れ場や猟鳥への認織とか、良く効く鼻等の基礎的能力には余り注意を払わない様である。また、調教方法も軽視されて居る。
 犬のスピードもレンジも、やり方を知らないハンターにとっては何の役にも立たないし、犬がどれ位のスピードやレンジを持って居るか、遺伝の可能性がどれ位あるか解らない飼育者にとっては何の役にも立たない。


※審査員への教訓


(1) 審査員は犬の形や他の犬との競技に於ける走行等から犬の素質を見分ける判断力を有して居なければならない。
(2) 最もハイクラスなトライアルの理想とは、その場の必要に応じて早い又は遅いベースで機敏に、又はスムースに行動する様な犬を飼育する事である。必要に応じて頭の切り替えが機敏に行える様な犬にさせる為には、先ず、トレーニングが必要とされる。
(3) 足跡の臭いを嗅いで、きちんとした目的を持たない様に見受けられる犬でも、常に鼻で臭いを嗅ぎ分ける能力を持ち乍ら行動はして居るので、正確に鳥の居所をつきとめる事が出来る事もある。
 一般に犬は体臭によって行動するものであるとされて居るが、足跡や巣の臭いで行動をするものではない。
 ハンドラーは犬が獲物の所在を示した場所の近くで鳥を見つけられると思うが、若しそこに居なかった場合には、犬が誤った場所を教えた事になる。
 例え犬がハンドラーの指示なしに獲物の所在を示したり行動したりしたとしても、それは差し支えない。空ポイントをした場合、犬は正確なポイントの能力をもたないものとして点がつけられる。
(4) オールエイジ犬は、鳥が一斉に飛翔した後でも「行け」と言う命令が出る迄は静止して居なければならない。


※鳥猟犬の働きの基準


 著者の意見として、ポインター、或はセターの働きで代表される鳥猟犬の猟野、或はフィールド・トライアルに於ける鳥猟犬の働きの基準を言葉で言う事は至難に近い。
 この章では所謂猟犬と言われるものについて述べると共にライチョウ、キジ、エリマキライチョウ、ヤマシギについての鳥猟犬の働きを考察してみよう。


※ライチョウ(プレイリー・チキン)の猟犬


 カナダのライチョウの居る草原では夏にはプロの訓練者がキャンプをして猟犬の訓練や調教を行う。
 ライチョウは充分臭いを発散し、鳥猟犬を訓練するのに役立つ様な色々の習性がある。良く訓練された犬なら、太陽の昇る前の涼しい時には、ライチョウは畑のへりの方に隠れて居る事が多く、日中になるに従って刈り株の方に飛んでいく事を知って居る。
 春先には若いライチョウは余り遠くに飛んで行かないので、訓練者は一羽、一羽、中てて鳥への犬の訓練を何度もする事が出来るし、狩猟鳥をポイントしたり、堅実にポイントを続ける訓練もする事が出来る。
 ライチョウを取扱う猟犬は機敏で、大胆で積極的でなければならない。
 プロの訓練家達は、犬の猟芸を成長・進歩させる為には、広々とした野原で実地訓練をするのが一番良い方法であると確信して居る。


※高価な鳥猟犬(キジ用)


 ウズラ用猟犬なら鳥の(ウズラ)居そうな隠れ場を早く正確に嗅ぎつける事が出来るだろうが、キジは普通色々な種類の隠れ場に潜んで居るので、キジ用猟犬はその場その場に応じて明敏に捜索をしなければならない。
 キジ用猟犬はウズラ用猟犬の様に居そうもない草地を調べずに通り過ぎる訳にはゆかない。ナショナル・フユザント・チャンピオンシップ・クラブは・ポインターやセターの中からの出走犬に単に悪賢いキジを上手く捌くだけでなく、芸術的な方法で処理する名犬の助長を第一の目的にして居る。唯単にゆっくりとベタベタうろつき廻る様な犬はハンターに対してキジに射撃はさせるかも知れないが、それに比べて、ハイクラスのキジ猟犬の示す演技は、敏速で、機敏な、スタイリッシュな犬は一番名犬に値するという事を証明している。
 狩猟家は犬身体が高級であると共に実猟にも使用出来る様望んで居る。又彼等ハンターはスタイルの良さやスピード、活気、判断力、聡明さ、明敏さや又立派な働きを、この犬に求めて居る。昔の弱々しく足臭を嗅ぎ廻る様なノロノロし、ベタベタした犬は、今日では捨てられて居る。今日では敏速且つ機敏な積極的に鳥を発見する犬達が讃美(褒め称える事)される。何故ならば、その様な犬は刈り株の中の競走者であるキジに対して恰も催眠術をかける様な魔法の才能を持っており、やがてキジをその場に竦めて止めてしまうからである。


※グラウス用の猟犬


 1919年10月ペンシルバニアで開かれたグラウス トライアルの時、ペンシルバニア・フィールド・トライアル・クラブは、クラブ役員や、会員の意見を集めて、理想的グラウス用猟犬の基準となるものを発表する様定めた。そのクラブの会長はジヤード M・B・レイス氏であった。優秀なグラウス用猟犬は如何なる仕事も忠実に活気を以て行い、グラウスを捜す時は独力で聡明な方法でなければならない。
 訓練者の声や口笛を正しく聞き分けて働ける様訓練されて居なくてはならない。


※理想的なニューイングランドの鳥猟犬


 ウイリアム・ハアンデン・フォスターが述べた標準は狩猟家達の賞讃を受け、彼の理想はニューイングランド鳥猟犬擁護会の賛成を得ました。
 人々は犬に一種類の猟鳥の扱い方を教えるのにも大変な長い期間を要するだろうと思うが、我々は四種類の猟島鳥を扱う事を教え始め、それが可能である事は解って来たがなかなか難しい事である。
 キジは湿地の牧草地や茂み、畑等にひっそりと隠れて居るので犬は大胆な突進と用心さと知力が必要である。雑草地のある場所にはウズラが居るであろう。   、
 ハンノキの窪地にはヤマシギが居るかも知れない。犬は見過ごしのない様に何の隠れ家も嗅ぎ分け乍ら規則正しく獲物を捜し廻る。若しヤマシギが居れば余り離れない所でポイントするだろう。
 エリマキライチョウは、よく木の茂った低地や、カシの木や森の囲いに居る。このエリマキライチョウを発見し、扱う為には鳥を扱う為の全ての能力と知識が必要である。
 一頭の犬でキジ、ウズラ、ヤマシギ、そしてライチョウの猟をする事が出来るのなら「理想的なニューイングランドの鳥猟犬」の目標に近付いたと言えるであろう。
 従順で良いスタイルで、明敏である事は勿論、犬は働きを素晴らしいものにする為にも、熱心且つ強固に猟鳥を狩りポイントする様にしなければならない。そして異なった様子の隠れ家を良く認識しなければならない。かくして経験と訓練を通して四種類の鳥を扱える様にしなければならない。
ニューイングランドではトライアル犬と銃猟犬は区別されるべきではない


※銃猟犬トライアル


 実猟犬或は銃猟犬種目は普通オールエイジ種目とは異なるものだと考えられて居る。言い換えれば、鳥猟犬の愛好家の中には普通のオールエイジ犬の働きと、銃猟犬の働きを審査する基準には違いがあると考えて居るが、実際には銃猟犬の為の特別な基準と言うものはない。
 若し狩猟家が狩をする時、いつも犬の後を歩き乍ら狩をするならハンドラーは必ず競技中歩かなければならない。狩猟家が馬に乗って狩をするなら、ハンドラーは馬に乗って競技を行う。
 アメリカでは高地猟鳥の狩をする時、大部分のハンター達は歩いて狩をするので、大部分のクラブは歩いて競技をする訓練がされる様奨励して居る。