第23話 前髪
夏休みが始まると、悟司と健太は毎日のように嘉岳の家に集まっては
ギターを弾いたりレコードを聴いたり・・・・時々ジャズ喫茶にいく・・・という生活をしていた。
嘉岳のこづかいは、湯水のように湧き出るといったものだったが、
健太や悟司にとって、ジャズ喫茶通いやレコードの購入の日々はそう長くはつづくわけはなく、
健太は家の稼業である電器屋の手伝いを時々やりながら何とかこづかいを稼ぎ、繋いでいた。
悟司のところは、バイトや家の手伝いより、・・・・とにかく勉強!という親の考えで、
塾の「夏期特別講習」コースに入り、この夏は集中的に勉強することになっていた。
なっていた・・・・それが過去形なのは、
塾に納めるはずの「夏期特別講習」コースの授業料は、ギターの弦から始まり、
ビートルズ武道館公演のチケット、真知子とのデート代、ジャズ喫茶通い、
レコードや音楽本の購入等に消えていた。
悟司の親は、そんなことになっているとは想像もしていなく、
毎日、塾に通っているものと思っている。
塾にいく・・・といっては嘉岳の部屋に転がり込んで、ギターをいじる毎日。
「熱いのに、頑張ってるねーーー♪」
「今日も塾なのかい?たいへんだね。少しは休むんだよ!」
時々、母や祖母が声をかける。痛い言葉だった。
その場をとにかく逃げつづけた。
いつかばれるだろうと思いながら・・・・・・・・・。
そんな悟司はふと立ち止まった。
母親のいう、
ビートルズやテケテケなんかやってる子は不良なんだから!という口癖が頭をよぎる。
成績は下がるし、長髪を真似すると服装が乱れていって、
そのうち、夜遊びが始まって、金使いが派手になって、
・・・・結局、最後はナンパ男に成り下がるんだから!
それって・・・・
まるで、今の俺のことだな・・・・
親の言ってることも、あながち間違ってはいないのか?
とつぶやきながら、夏休みを理由に、少し伸びてきた髪の毛を鏡に映していた。
「これが、不良ってか?・・・・・(ニヤリ)髪の毛の長さと不良度は正比例するのかぁ?
あはは・・・おれなんか、まだ中途半端だな・・・・!」
といいながら小さく笑って、櫛で前髪をゆっくり撫で付けてみた。
そして叫んだ。
「ナンパ男にはまだ遠いぜっ!!!」
第22話 内緒
悟司にとって、真知子は幼馴染み・・・・という枠からはみだしていた。
真知子は、目鼻立ちのしっかりした中にもまだあどけなさを残した可愛い顔をしていた。
微笑んだ時のふっくらした頬は、男性にも女性にも好まれそうな顔立ちだった。
晴美いわくは、真知子は他校の男子学生にもその可愛さは評判で、何人もの男子学生
から、キューピット役を頼まれるも、未だにまとまった話はひとつない。ということだった。
それは、晴美が裏でつぶしをかけている・・・などと陰口をいいだすものもいたよう
だったが、真知子と晴美はお互いを親友として認めていた仲だった。
晴美、嘉岳や健太は、この花水木商店街で生まれ同じ小中学校を卒業していたが、
真知子だけは違っていた。
母親がここ花水木商店街で念願の洋装店を開いたことで、
中学2年の春にここに引っ越してきたのだった。
中学の時、晴美と同じクラスになったことがきっかけで、悟司達の仲間とも知り合い、
家族ぐるみの仲のよい交流が続いていた。
悟司にとって健太や晴美は、下町の商売人の子ども・・・という何か同じ香りを感じる同士だったが、
真知子だけは、付き合いの歴史が浅い・・・という以前に、
何か今までの自分を含めた、商売人の子どもという同じ香りは感じなく、
どことなく山の手の香りを感じていた。
父はサラリーマン、母親はお針子を抱える洋装店の先生・・・この環境からくるものも
あったのだろう。
両親とも、客相手にものを売る・・・という環境だった彼らとは、見た目も違っているように
思えていた。
着ているものも、生活のスタイルもどことなく上品に感じた。
悟司は真知子に対して、晴美つながりの友人・・・仲間・・・という意識とは別の、
淡い恋心を抱きつつも、その友達以上の感情表現をどうすればいいのか?
いつもいつも、先送りにしている状態が続いていた。
悟司は、夏休みも近いある日の夜、晴美に電話をかけた。
悟司
「ビートルズの入場券のお金、この前出しそびれてたな・・・って思って・・・・」
真知子
「あぁ・・・それならいつでもいいわよ。こっちもちょっと押し付けたってとこもあるしね・・・
悟司
「ちゃんと準備してあったんだけど・・・・・・・・みんながいたし・・・」
真知子
「ほんとに、いつでもいいってば・・・・・」
悟司
「それはそれで返すとして、何か他に・・・気持ちっていうか・・・・
この前もいったけど、何か気持ちだけなんだけど・・・あげたい・・・っていうか・・・」
真知子
「そんなものいらないわよ!あははは・・・あれは冗談!あげたんじゃないんだし・・・
ちゃんとお金返してくれるって話なんだし・・・・」
悟司
「・・・・・・・・・・・・・。」
真知子
「・・・・・・・・・・・・・。」
ちょっとうれしはずかし・・・・な、間合いを感じた次の瞬間。悟司が思い切った。
悟司
「あのー、夏休みさあ・・・・どこか一緒にいかない?っていうか、
誘いたいところがあるんだけど・・・ 晴美たちに内緒で・・・・」
真知子
「何それ~?」
悟司
「ジャズ喫茶・・・・行ったことある?」
真知子
「いったことないけど・・・・・・・・それって、私をデートに誘ってる?(笑)」
悟司
「ジャズ喫茶に入るお金は、僕が例のお返しにってことで・・・・」
真知子
「わ・・・ちょっといってみたい!けど学校にばれたら・・・・そういうの一切禁止されれるから。」
悟司
「大丈夫だよ。ばれやしないさ!そんなとこまで、先公のやつら・・・来るわけないさ!
何かあったら・・・・・おれが守る!」
真知子
「守ってもらわなきゃいけないほど、危険なところなの?ジャズ喫茶って・・・・・・(笑)」
悟司は、春にジャズ喫茶の「新宿ACB」デビューを済ませていた。
真知子には、スパイダースを見せたい・・・・!いや、一緒に見たい!と思ったのだった。
スパイダース・・・・この切り札がよかったのか、真知子とデートの約束が取り交わされた。
電話の最後で、
「晴美たちには、内緒で!」という、悟司の念押しに、
真知子から、意外にも何もクレームとか疑問の言葉が出てこなかった・・・・
悟司は、電話を切ったあと、真知子の言葉を何度も思い出していた。
真知子
「うん・・・わかってる・・・みんなに内緒でしょ?」
第21話 成績
予想通り、悟司の期末試験は最悪な結果がでていた。
母和恵
「もう!!!どうするのよ!こんな成績じゃ、、、入れる大学なくなるわよ!
あんなテケテケやビートルズなんかに夢中になるから!!!
エレキに夢中な子は、だいたいが不良だし、勉強もできない。
みんな成績が下がるし、長髪を真似すると服装が乱れて、夜遊びが始まって、
ナンパ男に成り下がって・・・・。って、それはもう、とんとん拍子!
あんたはそうならないとは母さん言い切れない!
夏休み明けの試験結果で、志望大学を決めていくらしいじゃない?
夏休みはエレキとかロックンロールとか忘れて勉強しないと!
塾の夏期特講の申し込みしたよね!
2年の夏休みはとっても大事・・・・」
悟司
「わかってるよ!うっさいなーーー!!!もう同じ話、・・・何度も聞いた!」
悟司は、成績が落ち込んだことは認めるも、
テケテケが、ビートルズが、長髪が・・・・そのどこが悪いのか?なぜそれが不良なのか?
その部分には強い反発を感じていた。
それは母だけではなくあのころの世間の目・・・特におとなはそういう見方が強かった。
悟司の母親にとって、ビートルズは諸悪の根源・・・という扱いだった。
そのうるさい母親から逃げるために、自分の部屋に逃げ込む悟司。
逃げ込む部屋の先には、ギターとレコードがあった。
レコードを聴き、ギターを弾く、音楽雑誌の付録の歌集を見る、そしてまたギターを弾く。
そしてレコードを聴く。
母和恵のいうところの、エレキを忘れて勉強ではなく、
勉強を忘れてギターを弾く・・・・・・・・・・・レコードを聴く。の生活、高校2年の夏休みが
いよいよ始まろうとしていた。
その日の夜、
悟司は真知子に電話をした。
第20話 ギターの弦
悟司の高校2年1学期の期末試験は、ビートルズ来日騒ぎで落ち着きのないものとなった。
勉強に向かわなくてはいけない・・・その気持ちはあっても、
テレビやラジオ、音楽雑誌などの山のような「ビートルズ来日記念特集」
の誘惑には勝てなかった。
試験結果は出るのを待つまでもなく、下がっていく成績を自覚していた。
親もその様子は察しているらしく、特に母和恵のビートルズやエレキに対しての
風あたりは相当強かった。
「テケテケなんか、不良のやることでしょ!」と、口癖のようにいっては、
眉間にシワを寄せていた。
こんな状態で、ギターを買って欲しい。エレキが欲しい。などといえるはずはない。
それなら、バイトで稼いで買う・・・・という方法を考えるのは当然だったが、
親の、特に母和恵の猛烈な反対は、目に見えていた。
エレキではないけれど、まずはギターをなんとか弾けるようになれば、
この現実から一歩進めるかもしれない・・・
エレキじゃなければ、親をなんとか説得できるかも知れない。
そう思った悟司は、
家の物置にあったクラシックギターを出してくることにした。
そのギターは父の弟が戦後すぐ手に入れたものだったが、
その叔父が1度も弾いたのをみたことはない。
子ども心に、いつも物置の片隅に存在していたという記憶だけだった。
ギターケースはホコリだらけだったが、中のギターは思ったほど
痛んではいないようだった。
まず、ギターの弦を買うことにし、楽器屋で弦の張りかたを習ってきた。
1966年7月14日、
暦は悟司高校2年の夏休み直前、
悟司が入っていた受験塾の「夏期特講」の納めるべきお金の一部は、
この日、クラシックギターの弦に化けていた。
第19話 付録の歌集
嘉岳は、五光電器の店頭で早速テープレコーダー購入の予約をした。
当時はまだまだ高価だったテープレコーダーを即決して買える高校生。
それが嘉岳だった。、(株)斉藤興業の一人息子の家庭環境としては、
特別なことではなかった。
真知子
「大丈夫なの?買っちゃって・・・・・。」
嘉岳
「大丈夫さ!・・・・多分・・・(苦笑)」
健太の兄真吾は、サービスとしてテープ一巻を進呈することとは別に、
このビートルズの録音テープも一緒に付ける!!!と、店頭で豪語していた。
周りの音も一緒に録音されていた・・・・あの日の貴重なテープ(笑)は、
嘉岳の手に渡った。
想像以上に素直に喜ぶ嘉岳の顔を覗き込みながら、晴美がいった。
晴美
「さすが!嘉岳ぼちゃま!!!エレキ練習して、今度テープに入れて聞かせてね!
期待しないで、待ってるから・・・・・・・・。」
嘉岳
「おう!聞かせるぜ!!!なっ、悟司、お前もエレキするんだからなっ!」
悟司
「おう!そうだな!俺もやるさ!」
その場のリズムで嘉岳に軽く言葉を返した悟司だったが、
エレキを弾く・・・・・・・・には、何をどうすればいいのか?何も考えもなく、
このときの返事は漠然としたものだった。
5人の高校生達は、お腹が空いていることを急に思い出したかのように、
それぞれの家に帰っていった。
悟司が家に着くと、期末試験が近い悟司に、いつものことだが、
「いつまで遊んでるの?勉強しなさいよ!」と母和恵の声が茶の間にこだました。
悟司は、夕飯を済ませ自分の部屋でステレオをかけた。。。
勉強しないと・・・・と思う反面、
さっき嘉岳の部屋でみた真っ赤なエレキギターを想い出していた。
ステレオから流れてくるビートルズの楽曲と、武道館で実体験したあの会場の雰囲気が
蘇ってくる。
思わずギターを空で爪弾くマネをしてみた。
悟司
「・・・・・う~~~~~ん、かっこいいぜっ!」
部屋のドアを激しく叩く音とともに、和恵の怒鳴る声が聞える。
和恵
「ま~ぁだ、テケテケなんか聞いてるの?うるさいからっ!・・・
早く勉強しなさいよっ!」
「もうテケテケとかいわないからっ!加山雄三や寺内タケシじゃないから!
俺のは、ロックンロール!!!これからはビートルズだから!」
と部屋の外に向かって反撃しようとした悟司だったが、その言葉をとりあえず呑み込み、
素直にステレオの針を戻し、静寂を装った。
なんてことはない・・・・・・・・・・ステレオがだめなら、トランジスタラジオがある。
悟司は深夜ラジオに切り替えた。
番組は、どこも来日記念のビートルズ特集をしていて、無理をしてステレオを
聞くまでもなかった。
聞き入れば聞き入るほど、勉強しようなどという気持ちは薄れた。
教科書やノートの代わりに開いたのは、
音楽雑誌の付録の歌集に載っていた、ギターコードのページだった。
そうか・・・・
ギターコードかぁ・・・・
ページをめくりながら、
聞いていたラジオをイヤホンにした。
富士見台高校の期末試験は週明けからはじまる・・・・・・・。
第18話 オープンリール
夕方の花水木商店街はにぎわっていた。
居酒屋は看板を出す時間で、
お惣菜の高橋前では今日のセール品、焼き鳥を店先で焼いていた。
うちわがハタハタと音をたてて焼きあがる串刺しの鳥の煙をそこらうちにけちらしていた。
5人は、健太の家に移動の途中・・・・・
嘉岳がおもわず、焼き鳥を1本買って食べた。
それをみた真知子達も、揚げたてのコロッケをひとつずつ買い、
新聞紙にくるんでもらっていた。
高橋のおばちゃん
「ソース、かけようか?」
悟司と晴美の2人はソースをかけてもらう。
食べながら・・・・・・・健太の家でもある、五光電器店に到着する5人。
店頭では、健太の4つ上の兄真吾が、これから店で売り出したい
テープレコーダーのデモンストレーションの準備をしていた。
5人の姿をみつけると、
真吾
「おう!来たな!!!そんじゃ、はじめるか!」
店先には数人のお年寄りと会社帰り風の若い男性がテープレコーダーに
興味を示し、真吾の説明を待っているようだった。
真吾はまず、テープの説明からはじまり、テープレコーダーがどんなに楽しいものであるか
手振り身振りで詳しく説明していた。
自らの声を録音しては再生してきかせ、店先集まった老人の声も録音して
聞かせたりもした。
喜びながらも老人が一言いった。
老人
「俺の声か?これが?違うように聞えるなぁ・・・・」
一般家庭に普及しはじめた頃のテープレコーダーも、この頃を境にすこしずつ
コンパクトになりつつあるも、茶色のテープはオープンリールに巻かれているもので、
その後、カセットテープなるものが普及するまでにはまだ少し時間があった。
健太
「兄貴!いいからさ!ビートルズ聞かせろよ!俺たちそれ聞きにきたんだからさ!」
健太がしびれをきらせて、兄をせかした。
真吾
「それでは、みなさん!先ほどテレビから録音したビートルズをお聞きかせしましょう!」
真吾は、
テープを取替え、本体にセットし、
ガシャン!と大きな音のするレバーを動かし、再生・・・・・した。
店頭の客に混じって、5人も耳を傾けた。。。
「。。。。。。。。。。。。。?」
客が笑い始めた・・・・・・・・・・・・
ビートルズの歌の合間に、ノイズ?が入るのだった。
真吾の声で、
「しーっ!静かに!・・・・・しーーっ!」だったり、
店番をしていた母親の声で、
「いらっしゃいませ!あっ、どうもね~♪」という声が聞えたり
そしてまた、
「しーっ!しずかに!録音してるから・・・・」と真吾の小さなささやきが
録音の中に混じるのだった。
悟司
「だめだな・・・こりゃ・・・・もったいないな・・・・(笑)」
当時一般家庭用のレコーダーは、
録音マイク用のラインとイヤホン用のラインはあっても、
入出力のラインなどないものも多かった。
兄の真吾は、
店頭のテレビで、オンエアされるビートルズの音を、テレビに向かってマイクをむけ、
周りの人間を静かにさせながら・・・(汗)頑張って録音した結果だったのだか・・・。
真吾
「ご注文前に、お試しとして1日貸し出ししますよ!
そしてなんと!今、ご注文、ご購入されますと、テープ1巻き進呈します!」
ビートルズの演奏より、音が重なった周囲の音が気になった悟司達5人の中で、
ただ一人手を上げたものがいた。
「俺!欲しい!買う!!!買うよ!」
そう・・・それは、
松竹湯の孫息子であり、(株)斉藤興業の一人息子・・・赤いギター所有の
斉藤嘉岳だった。
真吾
「1台、お買い上げーーー! 毎度ありがとうございます!」
第17話 半券
ビートルズ武道館公演にいけたのは、真知子が当選した入場券だったことを4人に
明かした悟司だった。
悟司は、英語の教科書にはさんでいた昨日みたビートルズの入場券の半券を、
みんなの前で開いて見せた。
嘉岳
「こっれかあ・・・・・・・」
晴美
「か、か、かっこいい!デザイン!イギリス!って感じよ!!!」
「うちのばあちゃんがよく観にいく演歌の北川雪夫の入場券とはえらい違いだな。」(一同笑)
健太
「半券でもいいから欲しいって人が大勢いて、これだって高い値段で売れるらしいぜ。」
晴美
「おれは売らないさ! 記念だからな・・・・宝にする!」
晴美
「真知子様様よね。真知子に何かプレゼントした?」
悟司
「・・・・・おう!なんでもおごってやるよ!・・・・いえよ!」
真知子
「ある!ある!おごって欲しいもの!・・・・・・なんちゃって・・・・冗談冗談!(笑)
悟司から何かおごってもらおうなんて絶対おもわないからっ!」
悟司は、真知子の思った以上にはっきりした口調に、少しとまどいながら、
悟司
「だから!何かおごるって・・・・・・!!!」
晴美
「はい!はい!はぁい!、あとで2人で仲良く商談してくださっい!」
部屋の外から、嘉岳の祖母スミの声がした。
スミ
「健ちゃん、兄ちゃんから電話だよ!」
健太
「ふぃおーーーい!・・・アニキ?なんだろ?」
健太は急いで部屋をでて、電話にでた。
少しして帰ってきた健太が言った。
「今アニキが、、、、さっきのテレビのビートルズの音をテープレコーダーでとれたって!
みんなで聞きに来いって!」
一同
「うぅっそ!本当か? いく!いく!」
健太の家は花水木商店街で「五光電器」という電器店をやっていた。
健太の4つ上の兄は、店の跡継ぎ・・・・2代目として店を手伝っていた。
家電が中心だったが、兄の代になったら音響機器も扱いたいという
希望もあり、実験的に少しながら音響機器も仕入れたりしていた。
当時まだめずらしかったテープレコーダーを仕入れるべく、
テレビのビートルズを録音し、店頭でデモンストレーションをし、客寄せに使う・・・・
と、健太の兄は考えたようだった。
真知子はサイダーの空瓶の乗ったお盆をスミに返しながら、
真知子
「おばあちゃん、サイダー冷えてておいしかったよ!今日はありがとう!」
スミ
「もう帰るのかい?今日はみんな早いんだねぇ。」
晴美
「これからね、今度は健太んとこにいくの・・・じゃぁね!」
5人は一斉に健太の家に移動するのだった。
「邪魔するんじゃないよ!五光さんも忙しいからね!!!」
祖母スミがみんなに声をかけ、見送った。
第16話 ビートルズ狩り
2006年現代・・・・・・・・・
この40年の間にたくさんの物や考え方が流行として表れては消えていった。
中には、10年説、20年説・・・などといい、懐かしむという人間の気持ちに
手伝わせながら、流行が繰り返されたり、リバイバルという言葉にして
再び同じものを意識的に流行させたりした。
一般人が楽しむ音楽やファッションは、そういう流行りというものに
1番敏感で、流行り廃りは激しく変化していった。
現代は、
ありとあらゆるジャンルやそのカテゴリの中から、自分のライフスタイルに合わせた
好みや感覚で自由に物事を選ぶことができる。
昔のように1ジャンルに1カテゴリという時代ではない。
選択肢が多くなった・・・・ということは逆をいうと、爆発的な流行、国民全体で意識するような
流行。というものが生まれなくなり、その流行の命も極端に短いともいえる。
そんな現代にあって、
当時、一時の流行。若者の一時の現象・・・・・といわれていたビートルズは、
来日から40年という長い時間が経過してもなお、正確にはビートルズは実在しないけれど、
その楽曲、音楽は今でも現役として、廃れるどころではない、世界規模・・・
いや地球規模でその高い音楽性が認められている。
浮き沈み、流行り廃りのビートルズでないことは世界が認めている。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
日本の教育の現場で文部科学省が認める音楽や英語の教科書に
ビートルズの楽曲や歌詞が使われ、学び舎からビートルズの楽曲が流れてくる・・・
などと、40年前、いったい誰が想像しただろうか?
当時の東京都は都内の小、中、高校にビートルズ来日において、
良識ある行動をとるように生徒に指導することの内容の要望書を配布していた。
それを受け、東京都だけではなく日本各地の学校では、ビートルズ対策
なるものをつくり、それに対応していった。
真知子と晴美が通っていた聖花女子高校は、カトリック系の女子校だった。
悟司が通っていた都立藤見台高校も、都からの要望書により一見厳しい対応を
とってはいたが、私立の女子高である聖花高校ほどの厳しい見方はしていないようだった。
聖花女子高校は校則について特に厳しい学校だった。
ビートルズを見に行くことは、さも当たり前のように禁止していたし、
聖花女子からは2名の教師が武道館前で公演の3日間、学校の生徒を会場に入れない
よう待機していた・・・・らしい。
それを晴美たちは、教師の影で「ビートルズ狩り」と言っていた。
晴美
「そこまでやるんなら、ビートルズの踏み絵でもなんでもやればいいじゃん!」
真知子
「あら?晴美いったわね!・・・じゃぁ、晴美ポールの写真踏めるの?」
晴美
「うっ・・・しかたないなら、踏むけど・・・その前に足洗わせてくれる?」
2人は顔を見合わせて笑った。
第15話 ビートルズ記念日
ビートルズをみに武道館にいったことを、仲間に告白してしまった悟司だった。
仲間達は驚いたと同時に・・・・矢継ぎ早の質問を悟司にむけていた。
健太
「だって・・・なんで学校休んでまでいったんだよ!6時からなんだから、
学校終わってからだって充分間に合うじゃんか!休んだ方が疑われるし・・・」
悟司
「うん、それも勿論考えた。けど、おれにとっての人生これから・・・一生、この日は
記念日にしたかった。1966年6月30日、この日は丸々1日・・・・
俺にとって、ビートルズの日にしたかったんだ!
バカと思われてもいいんだ!でも俺は、それでよかったって思ってる。」
嘉岳
「藤見台は、ビートルズ禁止だろ?武道館にいったことがばれたら・・・・退学じゃなかった?」
健太
「停学か、もしくは退学!でも、過去の実績とかそういう例がないから、
はっきりしたことは誰もわからない。
でも、なにかしらの処分があることだけは確かだと思うけど。」
晴美
「やったね!悟司!Go!Go!きゃー!カッコイイ!!!」
嘉岳
「このことを知ってるのは俺たちだけなのか?」
悟司
「うん・・・・お前達だけ・・・・あっ、でも俺の家族は全員知ってる。
熱っぱつして寝てることにして、学校には一応届けて休んだ。」
真知子
「もう・・・要領悪いんだから・・・・何も学校休まなくたっていいのにさっ!・・・・」
悟司
「・・・・・・・・・。」
晴美
「でも・・・ちょっと待って!入場券はどうしたの?落選したんじゃなかったの?」
真知子
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
悟司
「もう・・・・本当のこと、いうよ・・・・・真知子。いいよな・・・もう・・・・」
真知子
「・・・・・・・・・もう、そこまでいったんだったら、言うしかないでしょ?
嘘つけない人ね・・・・悟司って・・・・」
真知子が何かが吹っ切れたみたいにはき捨てた。
悟司
「実はね・・・・・・・・俺はハガキで落選したんだけど、真知子が当選してたんだ。」
晴美
「え?それって、銀座ワシントンの?靴を買ってビートルズに行こう!のやつ?」
悟司
「そう、そう、それ!!!」
晴美
「うぅっそ!真知子当たってたの?落選したんじゃなかったの?」
晴美は、寝耳に水とばかり驚いたあと、激怒した。
晴美
「なんで、悟司なのよ!!!真知子・・・あのとき一緒に銀座にいったんじゃん!
なんで悟司に回すのさ!!!なんで私じゃないわけ?ひどいよ!」
悟司
「晴美には、悪いことしたと思う。おれも晴美に譲れ!っていったんだけど、
真知子は、晴美のことを思ってのことなんだ!聖花女子は、俺たちの藤見台より
校則が厳しいだろ?いざ当選したのはいいけど、やっぱり晴美にいかせられない
って・・・・・・」
真知子
「晴美ごめんね!でも、やっぱりうちの学校は無理だって!。。。でも、どうしても誰かに
行って欲しかった・・・悟司が、最終的に自分が行く!っていってくれて・・・・・」
晴美
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
悟司が武道館公演の入場券を手に入れたいきさつ、
それは、真知子が当選した入場券でいくことができたのだった。
第14話 エレキやりてーっ!
真っ赤なエレキを抱きかかえながら、
嘉岳
「悟司と健太にも見せたかったよ。さっきのテレビのビートルズ!」
健太
「そうそう!それだよ!それ聞かないと・・・で、どんな感じだった?何歌ったの?」
嘉岳
「とにかくかっこよくてよぉ、俺・・・・鳥肌もんで・・・・始まった瞬間から、
これだ!俺は、これやるしかない!!!って思って。
そしたら、じいちゃんの先祖の声が降りてきて、お前これやれ!
って、聞えてきて・・・・・」
~全員大爆笑~
嘉岳
「なんか、血が沸いてくるっていうかなんていうか・・・・しびれてくる・・・っていうか・・・」
真知子
「私はやっぱりポール!!!ちゃんと顔も大写しになったし・・・
今歌ってるかと思うと・・・・ドキドキで・・・私もあそこにいたら、きゃ~きゃ~大声で
叫んだと思うな。 きゃーーーーポォールゥ!!!」
晴美
「歌った曲目はね・・・・」
といいながら、晴美がテレビを見ながらとっていたメモを読み上げた。
晴美
「 Rock And Roll Music
She's A Woman
If I Needed Someone
Day Tripper
Baby's In Black
I Feel Fine
I Wanna Be Your Man
Nowhere Man
Paperback Writer
I'm Down 」
真知子
「 晴美、Yesterdayが抜けてるよ。」
晴美
「あっ・・・勿論Yesterdayね(笑)」
真知子
「Yesterday歌ったあとに、どうせならMichelle も聞きたかったな・・・」
健太
「 A Hard Day's Night・・・ Please Please Me・・・・ Help! ・・・Twist and Shout
はやらなかったんだな。。。これって、昨日とおんなじだったのかな?」
と健太がつぶやいたあと、悟司が言った。
悟司
「ゆうべと一緒だな・・・・・」
嘉岳
「さすが悟司!!!・・・夕べの曲目はチェック済みだね。」
真知子
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
夕べの曲目の話になった瞬間・・・・ちらっと悟司の顔を覗き見た。
そして悟司も、
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」真知子と同じような視線を悟司が今度は真知子に投げた。
ぎくしゃくした悟司と真知子2人の仕草に気が付いた晴美が・・・
晴美
「なによ!あなたたち・・・・怪しいんじゃない?
なによ・・・その静かな視線での会話は!!!何か隠してる?へんだったよ2人。」
真知子
「なんでよ!な~んでもないわよ!・・・・」
悟司
「俺も・・・・・俺も思った! エレキやりたい!って・・・・・・・・・やってみてーーーぇ!」
嘉岳
「なっ!ほら!!!だろ? バンドやろ!」
悟司
「っていうか・・・・・俺・・・・・俺・・・・・俺・・・・・昨日・・・・
ビートルズ観に・・・・武道館に行ったんだ!!!」
全員が・・・・・・・・・・固まった。
全員
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」
悟司
「嘘ついた・・・・学校やみんなに・・・・実は観にいったんだ!」
気が付くと、悟司だけは正座していた。
真知子
「さ、さ、悟司・・・・・・・・・いわなきゃいいのに・・・・!」
晴美
「うっそっ・・・・!」
悟司は、とうとう本当のことを告白してしまった。
この仲間達だけには、
黙っていられなかったのだった。
「俺・・・昨日・・・学校休んで・・・ビートルズを観にいってたんだ。
武道館に行ったんだ・・・・」

