私が住んでいるあたりは、「銭湯のお湯が熱い」地域なのだそうだ。
私はサウナーなので、お湯の温度にはあまり気が回らないし、サウナレポートもわざわざお湯の温度まで書いてあるものは少ない。
その夜は、近所の銭湯を新規開拓しようと思い、サウナ優良サイトたる「サウナイキタイ」を覗いていた。
あまりサウナ情報がない近所の施設に行き当たった。
女性サ室90℃、しかもテレビ無しと書いてある。
こういう場合、大穴のこともあれば大外れのこともある。
子育て中サウナーの貴重なサウナチャンスが「うーん」みたいな雰囲気で終わってしまうこともある。
慎重を期すために、あまり信用していないgoogleの評価も見てみることにした。
なんと、「お湯 50℃ 素人は水で埋めないと入れません」
と書いてある。
水風呂と家風呂で指先の温感を鍛えた結果、水風呂は13℃まで、お湯は50℃まで正確にわかる自信があるが、
「お湯 50℃」って相当熱い。
それがサラっと書いてあるというのは結構MADな施設の予感がする。
MAD大好き!
(ベロを出して手を例の形にして首を振る)
(実際はパンクロックは全く詳しくない)
たどり着いたその銭湯は、横尾忠則さんにネタ提供したいようなY字路にあった。
周りが比較的暗い中、1階にある「まいばすけっと」の明かりが煌々と眼に痛い。
まいばすけっと大好き!
(夏場にクーラーが効きすぎていて、酷暑に炎天下から入ると軽くトランスするので)
銭湯は2階部分にあり、階段を上ると、不思議なタイムトリップ感に襲われる。
なんというのだろう、天井とか、床の質感。
やや不自然な広さと、少し明るすぎる照明。
階段を上り切ったところに、コインランドリーと、ステンドグラス、そして「ビューティー&ヘルシー」の文字。
時間と空間が歪む。
靴を預けて、中に入る。
ロビーには大きなテレビがあって、これはどこの銭湯サウナでも珍しいことではないと思うのが、一番他のサウナと違っていたのは、
画面にジョーカーが大写しになっていた。
あの、ジョーカーである。正確に言うと、ダークナイトの時のジョーカー。ヒース・レジャー。物語はまだ冒頭で、それでも彼は異様な雰囲気と変な動き、見たことのない表情を、銭湯のロビーで放っていた。
すっかり不思議な気分になってしまったが、気を取り直して番台へ向かった。
なんというか、舌を出して例の手の形でヘドバンしていそうな番頭さんに、めちゃくちゃ丁寧な「銭湯の入り方」の説明をしていただき、女湯へ向かった。
パンクロック人間に悪い人はいない
(二重、三重の思い込み)
更衣室に入ると、男女を分ける壁の上にさらに大型テレビが掛かっているという構造。
男性側からも女性側からも、今はジョーカーの異様な悪を存分に楽しむことができる。金曜ロードショーでやっているらしい。最新作公開直前だった。
更衣室は清潔。とにかく清潔。お店のおばあさんが、コロコロ、コロコロと、長いコロコロを転がしてごみをとっている。そんなにゴミがあるようにも見えないが。
赤ちゃんのおむつ替え台が4つも並んでいるのが壮観だった。シーツもきれいにととのえられていた。このおばあさんがきれい好きなのかな。ここに赤ちゃんが4人並んだ昔があったのかな。そんなことを考えてしまう。
おばあさんと、あかちゃんと、ジョーカー。
どうにもそぐわない、異様な光景。
ダークナイトのストーリーが気になりつつ、浴室へ。
浴室もとても清潔で、構造は普通の銭湯とそう変わらないけれど、シャワーの圧も強いし、何より薬湯が、しきじとかイブとかそっち系の、ヨモギの香香りなので、脳の嗅覚野が喜んでいる。
サウナの追加料金はかかるものの、サウナマットとバスタオルを貸してくれる「自分の汗を持ち込まない」方式。
サウナ室は90℃ちょっとで、乾燥が強いが息苦しさは無い。
銭湯によくある構造の、MAX8人くらい入れるガスサウナで、小窓がついておりテレビが置いてあるので、「ああーテレビ無しってガセじゃんテレビだらけじゃんこの銭湯」とがっかりしかけたところ、
なんと、「テレビを見たい方は番台まで」の文字!!!!!
BCASカードが抜いてある。
これは、あれだ、テレビの回線を2つしか契約していないと見たね!
で、どうしてもサウナでテレビを見たいとゴネると、待合か更衣室上のBCASが抜かれるわけだ。
そんなことするわけあるかい!
しかも、洗体が終わって頭びしょびしょの女性が、服着て番台まで戻ってまでテレビを見ようとするわけがない。
勝った!(何に)
思う存分ガスで体を炙り、すぐ近くに立ちシャワーがあり、その向かいに強バイブラ水風呂があるわけですよ。
表示温度16度。バイブラもあるけど体感もそんな感じ。
勝った!(トランスした)
サウナ浴を3セットほどした後で、いろいろ種類がありそうな湯船にも行ってみることにした。
まず、目玉の一つとされている「森林浴」。
なんのこっちゃ、と思っていたが、浴室の中にさらに温室があるような構造で、入ると、中は気温40度くらい。
スチームというよりも、小雨が降っている。いや、やや本降りくらいの雨が降っている。
何のことを言っているかわからないだろう。私もわからないよ。
ジャングルみたいな葉っぱの壁紙が貼ってあり、湯船もあり、湯温は推定43℃くらい。
森林浴というか、こんなジャングルで人類は生きてはいけないと思う。
更に薬湯。こちらは42℃くらいだけど、ヨモギメインのしっかりとした香りがして、バイブラ効いている。気持ちいい。
(多分この銭湯全てにバイブラが効いている模様。)
すっかりととのってから更衣室に戻った。
いやー、トリッキーなお風呂で、こりゃーおむつの取れていない赤ちゃんには厳しいんじゃないの、と思いながらおむつ替え台を眺めた。
それにしてもシーツが整っているのは良いよね。気分が。なんにせよ。
テレビでは、ナース服姿のジョーカーがひょこひょこと変な歩き方をして、その後方で病院(だっけ?)が大爆発を起こしたところだった。
おむつ替え台を見てほっこりした後で、病院が吹き飛んでしまった。
気持ちの持っていきどころがわからない。
壁の向こうの男子更衣室から、大学生と思しき数人のうち物知りっぽい一人が、このジョーカーは役に入り込みすぎて後に自殺してしまったんだ、ということを熱っぽく語る声が聞こえてきた。ほかの数名は、ふーん、と、興味なさげだった。
私は、監督のクリストファー・ノーランの初期の作品「メメント」にドはまりしたことを思い出していた。
短期記憶障害を持ち、自分のすべてのことをメモしないと生きていけない、妻殺しの犯人を追い続ける哀れな男。
記憶。
私も今、毎日メモをとりながら生きているよ。
記憶に残る銭湯の記憶に残る初訪問だった。
ジョーカー銭湯と名付けよう。
待合に出ると、番頭さんは腕にたくさんのジャラジャラをつけて、タオルを回収してくれた。
後日、ここの銭湯の他の湯船にも入ろうとして、サウナで鍛えた肌の熱感受容器を過信し、ジェットバスに入ったところ、マジのガチで沸騰してんじゃねえのってくらい熱くて、リアクションが完全に上島さんになってしまった。
足には、あまみではないなにかが浮き出ていた。
温度計を見ると針は60℃を指している。
体感を信じられるのは50℃までだけれど、このお湯は確実にそれを超えている。
それをTwitterに書き込んだところ、「さすがに60℃はないのではないか」というご指摘を多数いただいた。
うそじゃないもん!ほんとに60のところ指してたんだもん!
でもさすがにそのお湯に赤ちゃん浸けるってのはヤバイ、ジョーカー並みにひどい(浸けるとは言っていない)ので、今度また確かめに行きます。