クリストファー・ノーラン監督『ダンケルク』をみた。いつもはミニシアター系が多いので、シネコンの巨大なスクリーンで映画をみたのは久しぶりだ。しかし記憶に残っているのは三機のスピットファイアが三角形のフォーメーションで飛んでいる姿ばっかり。どうせCGだろうと思っていたのだが……実写と後で知る。スピットファイアを見るためにだけ、もう一度見てもいいかと思ったり。私はレシプロ機が大好きなのだ。

 “ダンケルク”の名で、すぐに思い出したのは、キーラ・ナイトレイ主演の『つぐない』だ。ジェームズ・マカヴォイ扮するロビーが減刑(実は冤罪)のためにフランスへ出兵、敗走してダンケルクまで撤退し……というシーンがあった。だが『ダンケルク』は、監督自身が戦争映画ではなく、サスペンス・スリラーを作るという思いで製作したと語っているとおり、『つぐない』で描かれたような悲惨さはなかった。ある意味で、安心して見ていられる映画だった。

 

 映画を見終わったら、なぜかやたらにロバート・ウェストールの『ブラッカムの爆撃機』が読みたくなった。これはイギリス空軍の爆撃隊の話で、しかも1943年1月の設定なのだが(ダケルクの撤退は1940年6月)、頭の中で紐付いてしまったのだからしかたない。

 語り手である無線士のゲアリーが乗っている飛行機は、華々しい空中戦を行う戦闘機のスピットファイアではなく、ウェリントン爆撃機(愛称はウィンピー)だ。ウィンピーは乗員6名、金属の骨組みに布を張った(!)全長二十メートルの飛行機。軽くて頑丈(本当かな)で、敵から攻撃されても破壊を免れるというのが長所(銃弾は布を突き抜ける)だが、火に弱く(布だから)、高高度では活動できない(布は気密性がないのだ)。

 ゲアリーたちはドイツの都市を夜間空爆するためにこのウィンピーで飛び立つ。途中でドイツのユンカースに攻撃されたり、地上から撃たれる高射砲にやられなければ、基地に帰ってこられる。ただ、数日したらまた出撃しなくてはならない。そしてそのときまた戻ってこられるかどうかはわからない。

 機長はアイルランド人のカトリック信者タウンゼント大尉—ウェストールは、後にあげる『猫の帰還』のスミス軍曹、『海辺の王国』に出てくる兵士など、たたき上げで人間味のある人物を書くのがほんとうに上手いが、このタウンゼントもいい—のもと、夜間爆撃に出撃した帰途、部隊の鼻つまみ者ブラッカムの機といっしょになる。

 ブラッカム機を狙うユンカースに気付いたゲアリーは、無線でブラッカムに警告、ユンカースはブラッカムの機銃を受けて炎上する。ブラッカム機は無事帰還するが、その後、ブラッカム機のメンバーを待っていたのは、恐ろしい運命だった。そしてブラッカムたちが乗っていた機には、それ以後『呪い』がつきまとうようになる。……

『ダンケルク』が戦争を取り上げているが戦争映画ではないように、『ブラッカムの爆撃機』も戦争を描いているが基本はホラー(幽霊談)だと思う。児童文学で、爆撃機もの、というのでなかなか手が出ない人がいるかもしれないが、ここから先はぜひ一読してほしい。

 

 『ブラッカム』を読んだら、次は『猫の帰還』に手が伸びた。こちらの舞台は1940年のイギリスだ。空軍パイロットとして出征した夫を見送った後、妻のフローリーは夫の飼い猫ロード・ゴート(『ゴート卿』。イギリス陸軍元帥の名から取られた)をつれて実家に疎開する。しかしロード・ゴートはかすかな痕跡をたどって主人を探す旅に出る。

 最初のシーンに出てくる田舎町の巡査部長は、ダンケルクで釘付けになっている息子のことで気を揉んでいる。そこはイギリス海峡をはさんで三十キロ、風向きしだいではドイツ軍の砲声が聞こえてくる。物語の始まった時点では、未だダンケルクの撤退はまだ行われていない。

 物語は、ロード・ゴートの『主人を求めて三千里』(いい加減です)を追っていく。途中、ドーバーではロンドンへ向かうドイツ機の大集団(1940年9月の最初のロンドン空襲)、カンタベリーではメッサーシュミットとハインケル(ドイツの爆撃機)とハリケーンの空中戦、さらにロード・ゴートは猫ながらウインピーに乗り込み、フランスまで行く。堪えられないレシプロ機祭り。

 

 爆撃機といえば映画『メンフィス・ベル』(1990年)。こちらの爆撃機はアメリカのB−17だ。B-17の別名は『フライングフォートレス:空飛ぶ要塞』(日本中に爆弾を落としたあの長距離爆撃機B-29は『スーパーフライングフォートレス:超空の要塞』と呼ばれたとか)だ。やんちゃな後部銃座の青年が、『ロード・オブ・ザ・リング』で「フロドさま!」と叫ぶ太った兄ちゃんになっていて驚いたっけ。

 ついでに同じB−17に乗るアメリカ空軍の男たちを描いた新谷かおるの『RAISE』もおすすめ。紙のほうは絶版だが、ネットで買えるので読んでみては。それにしても新谷かおるの描く飛行機は美しいですね。

 レシプロ機万歳!