どのスーパーの棚からお米が消えて1週間(正しくは、私が気づいたのが1週間前だったのだが)。お米を入手できないまま買い物から 帰り、すぐにネットでお米を検索した。

 

 超有名な某サイトでどうにか2キロを確保し、支払いも終了。すぐに確認メールが来て、翌週の月〜金のあいだに到着とあった(今から思うと、このやたら長い期間設定に不吉な匂いがただよっていたのだ……)

 

 今週1週間、毎日毎日、到着の知らせを待ち続けた私。最終期限の金曜日にメールが1通届いた。

 

 在庫不足のため、ご注文の以下の商品をご用意できません。この商品はキャンセルされました。

 

 こういう状況と上記のメール文面を指して、日本語では「しれっと」という形容をつける。

 

 1週間安心させておいてこれか! もっと早く連絡してくれれば他に取りようもあったのに! やってくれたな、ア●ゾン!

 同じ作家の本を図書館から2冊借りていた。1冊を読み終え、先に返却することにした。この2冊はシリーズものなので装丁がとても似ている。間違えないように中をめくって確認した……はずだった。

 

 家に戻って2冊目を読もうとしたら、最近読んだ覚えがおおいにあった。まだ読んでいな方を返却してしまったのである。ちゃんと確認したはずなのに、なぜこんなことが起こるのだろう……。

 

 上記の本を返却した日、推理小説の上下本を借りてきていた。私は基本、上下本はすぐに続きが読めるよう、2冊一緒に借りる。

 

 遠出する用事があったので、電車の中でこの本の「上」を読むことにする。先日の間違いがあるので、ちゃんと「上」と書いてあるのを確かめてカバンに入れた……はずだった。

 

 もううすうす分かってきたと思うが、電車の中で本を広げると、もうすでに事件が起こっていた。表紙を見ると「下」と書いてあった。

 

 こんな日々である……。

 

 電車に乗り、車両を見回すと8,9割の人がスマホを見ている。10年前はこうではなかったし、昭和の人を連れてきたら、たとえ60年代の人であっても「皆さん、うつむいて何しているんですか?」と聞かれるだろう。

 

 ちょっと前の話になるが、ある夕方、私は電車の吊革につかまりながら本を読んでいた。そしてふと目の前に座っている女性の顔に目がいった。

 

 どちらかというと地味な、30代後半あたりの女性だった。例に漏れず、ずっとスマホを見ている。そして0.8秒に一度という規則正しさで眉間を痙攣させていた。たぶん本人も気づいていない癖なのだ。

 

 

 癖というのは恐ろしいものだ。私は以前、医学系の雑誌で読んだ「アレルギーで目が痒くなるたびにまぶたの上からたたいていたため、視力が著しく低下した症例」(ちょっとうろ覚えです)という記事を思い出した。

 本人はそんな重大な結果になるとは思わず、目を叩くと痒みが収まるのでたたき続けていたらしい。この女性の眉間のピクピクも、このままでいくと……。

 

「もし、スマホを見ながら眉間がピクピクしていますよ。このままではそこに深い皺ができちゃいますよ?」

 

 ……なんて声をかけるわけにはいかない。だが、気になって仕方ない。私は休むことなく繰り返される眉間のピクピクを盗み見つづけた。

 

 その後、あの女性の眉間はどうなったかなあ。

 パリ・オリンピックが開催されている。

 

 もとからスポーツには興味が薄いのだが、夜のニュースでオリンピックのハイライトぐらいは見ていた。が、テレビなしの生活になって数年。サイトのトップ表示が主な情報源となっている。

 

 なので、セリーヌ・ディオンが開会式のトリで「愛の賛歌」を歌ったことを知らなかった(そんな人いるの? と思った人、いるんですよ)。

 

 

 Amazonプライムをスクロールしていたらたまたま出てきた、セリーヌ・ディオンのドキュメンタリー「アイ・アム セリーヌ・ディオン〜病との戦いの中で〜」(2024年6月公開)。深く考えずに見た。

 

 セリーヌがまだ小さい子どもがいるのに、年上の夫を亡くしたのは知っていた。また近年病気になったというのは知っていたが、どんな病かは知らなかった。

 セリーヌの病気・スティッフパーソン症候群は、100万人に1人という自己免疫疾患だという。筋肉の硬直、痙攣が起こるもので、診断の前年は「歩くこともできなかった」という。歌っていると声が震える。

 

 このドキュメンタリーで、セリーヌがカメラに皺だらけのスッピンをさらすだけでも驚きだったのだが、実際の発作をそのまま撮影し、さらに世に出している。ものすごい勇気だ。

 

 発作は、久しぶりのレコーディングの後に起こる。この興奮が脳に残り、引き金となったのだ。「好きな歌を歌うと発作が起こるの?」絶望するセリーヌ。しかもそのレコーディングでさえ、かつて高音を思うがままに操り、一日に数曲も録音できたというものではなかった。

 

 

 その発作シーンを見たあと、私は開会式にセリーヌが歌ったという記事を読んだ。順番としては、エッフェル塔での「奇跡」あっての「アイ・アム セリーヌ・ディオン」のAmazon配信だろうが、何せ情報がなかった。私の驚きを想像してほしい。

 

 開会式のエッフェル塔上パフォーマンスをどうにか探し出して見た。

 あのおばさんを通り越して老婆のようだった姿はどこにもない(プロメイクの手腕のすごさもある)。その力強い歌声から、セリーヌがあのドキュメンタリーのあと、どれだけ努力し、精進し、闘ってきたかが伝わってきた。

 

 世の中には「人を力づける」という表現がごろごろしている。もはや手垢のついた陳腐な感想だが、本当にそう思った。

 

 

 個人的には、開会式のパフォーマンスでは、雨の中ピアノを演奏していた男性のセリーヌを見る顔が、心底嬉しそうでとてもよかった。最後の「mon amour」は一緒に歌ってましたね。

 

追記:ピアノを演奏していたのは作曲家&指揮者のスコット・プライス氏。フランスのおじさんかと思ったけど、どうやらずっとセリーヌ・ディオンと仕事をしている人のようだ。なおさらセリーヌの復活は自分のことのように嬉しいですね。

 

 曇りの日に、ふと天から差す光の帯に神さまの愛を感じます(いやマジで)。

 

 神さま(特定の宗教の神仏ではなく、宇宙の普遍の神)は、いつでも、誰に対しても同じ愛を注いでいるのに、ただ我々の目が曇っていて、それに気づかない。そう思う。