彁 | にぼしのくに

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ようしつ(煮干P)のブログです。

こんにちは。煮干Pです。
『彁(煮干P)』の楽曲解説でもしようと思います。


===

曲はこちら







はい。

まず、この曲の解説をするとなるとやっぱり『彁』という漢字についてご説明せねばなりません。


というわけでウィクショナリーの彁のページを見てみます。


・・・

https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%BD%81



部首: 弓 + 10 画
総画: 13画

字源
JIS C 6226-78以前は実在しなかったとされる文字(誤掲出)。
幽霊文字のひとつ。

意義
不明。

JIS X 0208:1997 改訂の際の徹底的な調査を経ても、古字書に一致する字体が見つからなかった唯一の文字であるため、幽霊文字や幽霊漢字の代表として扱われている。


(引用終わり)


・・・

そもそも漢字というものは何千もの数があり、全部の漢字をJIS規格に当てはめようとして、使われている漢字を収録していきました。

そして、完成後にその漢字一覧を見返してみると


『オイ!どこでこんな漢字が使われてんだよ!?』


というものが数文字みつかり、それを総称して「幽霊文字」というわけですね。

それはまずいゾということで、改めて漢字の専門家達が徹底的に調べていき、ほとんどの幽霊文字は旧地名とか、昔の書物に載っていたりとかで実際に使われている事例が確認されました。







唯一、「彁」という字のみ、
全くどこにも、本当に一切存在していませんでした。

つまり、他の幽霊文字は全て使用例(誤写の可能性があるとはいえ)があり、用例を示す事が出来るのですが、この字だけは本当に謎の漢字であり、正真正銘の幽霊文字と云うことができるのです。


※ ちなみに「彊」の字がかすれて「彁」に見えてしまい、間違えて収録した可能性が指摘されています。
http://www.asahi.com/special/kotoba/archive2015/moji/2011082400019.html


勿論、収録されている例が一切ないので読みは不明。意味も一切不明。
変換用に「か」「せい」という読みが与えられていますが、それも仕方なく振った読みなので正しいものではありません。



そんな意味不明な謎漢字、

「用例が無いなら楽曲のタイトルにして用例を作っちゃえばインジャネ!!?」

と考えた変な人が居ました。












わ た し で す











その変人である私。

とりあえず既に「彁」という楽曲があるかどうかを調べました。
いつもの「他人とおんなじことするなんてヤダヤダ」病です。

CDのタイトルとしての用例はありましたが、色々調べた結果
どうも曲のタイトルとしては存在してないらしいゾ!?

やったぜムフフってなもんです。

いや、CDのタイトルになってる時点でもう漢字の用例としては成立してるんですが、
そこはまあ、なんというか、ロマンです。はい。


・・・


そんなこんなで、「彁」の曲を作ろうと決まったわけですが、
こんな根拠もなければ意味も不明な漢字、どうやって曲に仕上げたらよいのでしょう。


煮干P、もしかしなくても超ド級の馬鹿なのかもしれません。


いいじゃないですか。バカで結構。これはロマンなんです。
そして悩んで悩んで、あるお話を練り上げました。

それがMVの冒頭にある




「人は生まれてきた時に神様から漢字を1文字受け取り、その漢字に則った人生を歩みます。


"悪"なら悪人になり、"慎"なら慎ましく生きることになります。
"騒"なら騒がしく、"静"なら物静かな人生を送るでしょう。


そんな中、ある夫婦が赤ちゃんを授かることになりました。
その子に与えられた漢字は…

"彁"

その子はどんな人生を送るのか。そんなおはなし。」


というものでした。
つまり

『人生は生まれた際に神様から受け取る漢字1字によって決定づけられる』という世界観を前提に置くことで、


「じゃあ意味の存在しない『彁』の字を受け取って誕生した人間はどんな一生を送るのか?」


という、意味が存在しない事を逆手に取ったお話を作ったのです。
かなりムチャクチャで強引…と言いますか、受け取り方によっては意味不明な話になりますが、そこは『彁』という意味不明な漢字に免じて許してください。




さて、歌詞に戻ります。

その彁を受け取った子はどんな人生を歩むのか?といった人生がテーマという壮大な楽曲になってしまいました。
ひとまずその子が送るであろう一生についてイメージを膨らませて歌詞を作ってゆきました。


以下、歌詞の解説。


まず、学校に上がっても他の漢字を受け取ったクラスメートたちと違って、彁の子には自分という個性が無い。
中身や芯といった物もない。
しかしそれを疑問に思う事もない。
そういうもんだと素直に受け取るしか術はないと思ったんです。

きっと『疑』の字を貰った子ならそれについて『疑問』に思ったんでしょうけれども。
それすら彁の子には無いのです。


次に学校を卒業し、就職です。
就職活動では自己分析や自己PRなど、面接や履歴書で『自分はこういう人です!』というアピールをしなくてはいけません。


しかし、彁の子には自分という物が無いのです。信念も、主義も、何もない。


当然、就職活動に成功する訳はありません。

そこで『自分の生きる意味は何だ?』と苦悩する日々が始まります。

他の人と違い、就職に失敗した自分に価値が見いだせない。

今までを振り返っても、自分が存在する意味も分からない。

しかし、悪人になる事も出来ないのです。(ここで冒頭の説明に『"悪"なら~』と悪を例として入れた意味に繋がります。)
死ぬこともできないのです。死ぬ意味が理解できないからです。



思えば、彁の子の人生なんて薄っぺらい人生なんだと思います。山もない。谷もない。

しかし、彁の字を受け取った子である『自分』は確かにここに生きている。
それを一生懸命存在証明したところで魅力もない彁の子にはだーれも見向きもしません。神様も、仏様さえも興味の対象外です。


『彁』の字は他の漢字と一緒になって熟語になる事はありません。
漢字1文字で何かを表すこともありません。

結局生涯にわたり、彁の子は孤独。独りぼっち。


嘆いた所で、誰もそんな声に耳を傾けることはありません。そもそも存在しなかった文字なんですから、認識すらされているのか怪しいもんです。
いてもいなくても同じ。
モブキャラやその他大勢として場を賑やかす事すら、彁の子は出来ないのです。


そんな人生、何が面白いんでしょう。


最終的に彁の子は今世を全て諦めてしまいます。何一つ希望も、絶望すらないのです。

来世では何か意味のある人生を送れたら…そう願い続ける人生。


結局、今後何かしらの意味が追加されるのを待つ『彁』の字の通りの人生となりました。


チャンチャン!


最後のアウトロに赤ちゃんの泣き声が入ってます。



そこでMVを見てもらうとわかると思うのですが、そのシーンは『彁』の字がぼんやりと浮かび上がり、リバースシンバルに合わせてこっちに襲い掛かる様にして終わります。

つまり、来世でも彁の子は『彁』の字を神様から受け取る事を示唆しています。



ああ、なんということでしょう。
来世も、その来世も、その来世も来世も来世も、ずっとずっと報われないのです。

他に一切存在しない幽霊文字である彁の字を受け取ってしまったがばっかりに。



そんな楽曲です。




ちなみにこの曲、asakawaさん主催の『ぽぷりぽっと6』というGUMIコンピに描き下ろした曲になります。サイトはこちら。

ぽぷりぽっと6はGUMI十周年記念となる大変めでたいコンピでした。

そんな素晴らしいコンピに、自分の人生に意味のないことを悟る曲を提出するのは如何なものかと自問自答しましたが、ある意味『誕生』をテーマにしてるので良いのかな。と提出しました。(※ コンピという性格上、連絡などに滞りがあるといけないのでasakawa様には読みを伝えています。)

asakawa様、こんな読み方すら分からん曲を快く収録してくださり本当にありがとうございました。


改めて、感謝申し上げます。



また、この曲はVOCALOTRACKSというレーベルにて有料配信をしています。

貴方の楽曲プレイリストに、この意味不明・存在価値不明な謎の曲を入れてみては如何でしょうか。

配信先はこちら。


ではでは。

煮干P