ジャズが流れるホテルで会った4日後の朝にも
彼からメッセージが来ていた。
「急ですが、今日も食事できたりしませんか? 今日は本当に食事だけ‼︎」
「おはようございます。お誘い嬉しいです。
ただ、今日も仕事があるのです。なるべく早く出られるように頑張るので
前回と同じくらいの時間に待ち合わせで大丈夫でしょうか?」
「大丈夫です!」
「それではまた後ほど連絡しますね」
「ありがとうございます!」
「こちらこそ!」
当日の朝に連絡が来てバタバタと急に会うなんて、
彼が海外赴任に出発する直前だからこそだな…と
しみじみした。
仕事が終わって待ち合わせ場所に急ぎながら
連絡を取り合った。
「◯◯駅にいます」
「私も着きました」
「西口にいます」
無事に彼と会えた。
「今日はどうしたんですか?」
「会いたくなっちゃって。ゆっくりお話ししたり
ご飯食べたいなと思ったんだ。」
ここ最近、職場近くに現れて食事だけかと思ったら車でラブホテルに連れていかれてセックス、お茶だけかと思ったら私の作業場所で襲われてセックス、食事だけと言われて会ったらホテル、用件が分からず会ったら食事を買い込んでホテル…、そんなことが連続していたので、彼を疑いの眼差しで見た。
でも彼は爽やかな顔で歩き出し、「この先に面白いお店があるんだ。tefeさんが好きかと思ってさ。」などと嬉しいことを言う。
駅から、ラブホテルがあるエリアとは逆の方に
歩き出したので、彼に対する疑いを少し解いた。
連れて行かれたのは、エキゾチックな雰囲気のレストランが何軒か隣接している通りで、マレーシア料理店を選んだ。
店の内装にこだわりがあって、とても雰囲気があるお店だ。
そこで食事をした後、お茶をしようということになり
小さなチャイ専門店に入った。白い壁に、パステルグリーンの椅子やベンチ、他の小物もメルヘンチックな雰囲気で統一されているお店だ。
並んで座るベンチに腰掛けると、目に前に大きな絵があった。『風船の家』の絵が、可愛いらしい色合いで描かれていた。
「この絵、なんか素敵ですね。カールおじさんと風船の家っていう映画みたい。」
「そうだね。tefeさん絵が好きだから真っ先に目がいくんだね」
「今から遠くにいっちゃう相手とこの絵を見ると、なんとも言えない気分になります…」
ベンチなので身体が接近して座っていた。
彼は私がベンチについていた左手に手を重ねてきた。
それも、いやらしい感じではなくて、ごくそっと。
どういうわけか、とてもドキドキしてうつむいてしまった。
すると彼が耳元で“ねぇ、キスしよう?”と囁いた。
“え、ここで?”
“大丈夫、見えないよ”
彼の方に顔を向けると、すかさず唇に軽いキスを
された。
そのお店のチャイはスパイスの配合が絶妙でとても
美味しく、飾られていた絵も素敵で、
思わずお店を出る前に店員さんに聞いてみたら
インドの宮廷風のスパイスの配合で、風船の絵の家は自分で描いたのだという。
チャイ屋さんを出て駅に向かう。
「爽やかなランチと美味しいチャイ屋さん、楽しかったです。海外赴任先に行っちゃってもう会えなくなっても、1人であのお店に通ってしまいそう。」
「たまにはこういうのも良いかと思って。最近は頻繁でしたからね。」
「確かに。今日こそは本当のお茶でしたね。」
「珍しく。」
「健全で良かったです。やましさを感じなくて。逆に、手が触れた時にドキドキしました。」
「いまだにそんなに初々しいのはすごいですね。今度会ったらまた違う感じにしてあげる。
最近のを思い出して?自分の身体をどんな風にされたか。どう感じたか。」
「やめてください、せっかく爽やかだったのに…」
「僕に触られたり、入れられたまま触られたり
舐められた感触を思い出してごらん」
「ばか、、
なんか、急に言われてびっくりして過呼吸になりそう」
「濡れてきた?ああ犯したいな。tefeさんの敏感なところ。僕の硬くて熱いので掻き回してやりたい。
意識が飛ぶまで突いてついてついてやるよ」
「さっき、手が触れてドキドキしたのは、すごく爽やかなドキドキだったんですが。ああいうドキドキだけだったら平和だったのにね、、」
「はは。でも違った興奮を知っちゃったから仕方ないね。」
「それを知っちゃって困った身体になったの、誰のせいだと思ってるんですか…もう!」
「最高だね。」
「なにが?」
「誰も知らない淫らな姿を僕だけが知ってるのがさ。多分ダンナさんでさえも知らないようなね。僕のを欲しがって狂ってるtefeさんの姿、誰も知らないでしょう?10年間僕に抱かれ続けてすっかり開発されてイキまくってるtefeさんを知ってるのは僕だけだって思うと最高なんだよ。」
「なんか、改めて言葉にされると卑猥ですね」
「はは、爽やかなことだと思ってた?」
「毎回、記憶を抹消しようと思ってたから、自分のこととは思えないです。ある意味で新鮮」
「記憶を消そうとしてるの?でも身体が覚えちゃってるんでしょ?」
「はい、困ったことに、。思考にフタをして考えないようにするのは得意なんですが。」
「身体の色んなとこに覚えさせられちゃったんでしょ?」
「考えないようにして忘れかけた頃にそういう事を言われると、身体が…。」
「ふふふ tefeさんは感覚的なものが敏感だから、こんなに仕込まれちゃったらもう死ぬまで僕の奴隷だよ?」
「え…」
「私、ダンナとも10本の指で数えられるくらいしか、そういう行為してないし、…」
「tefeさんはもう元の身体には戻れないよ。僕に言葉をかけられたり触れられたりしたら」
「感染症の予防の観点からも、少なければ少ないほど良い!と思って生きてきたんですよね。それがどうしてこんな事に…?」
「前にも言ったけど、僕、こんなに長い期間セックスしてきた人ってtefeさんだけなんだ。tefeさんもそうだって言ったでしょ?だから僕らが本当に離れるのって無理なんじゃないの?思考にフタをしても、身体の記憶はきっと消せないよ?」
「私、快楽は罪である、みたいな感じで生きてきた方だったのにな」
「そういう人の方が深く溺れちゃうんだよ。
ねぇ、夏とかおいでよ。」
「おいでって?」
「僕の海外赴任先に遊びにこない?」
「…え?」
急な展開に驚いた。
彼はけっこう真顔で言っていたから。