私はベッドの中から左手を出して、

ソファにもたれている彼の左手を

ゆっくりさすりながらこの話をしていた。


暖かくてなめらかな肌の感じが、

やはりこれまで知っている男性の誰よりも

シックリきた。

から手首にかけて、そして手の甲、爪、

そういうパーツですら愛おしく思えた相手に会えたことを心から嬉しく思えた。


でも、彼はもう結婚するのだ。

会うのは今日で最後に違いない。

 

すると、ふいに涙がぽろぽろこぼれてきた。

部屋の照明は落としてあったし、

私はベッド、彼はソファにいるので

このままいれば泣いていることは

彼に気づかれずに済む。

私は、普段ほとんど泣かない。

仮に泣いたとしても、

泣けばなんとかなると思ってる人なんだなと

思われるのが嫌だから

泣き顔を見られたくない。


でも、今日でこうやって2人きりで逢うのは

もう最後だと思うと、

泣いてしまうくらいの気持ちは

入っていたんだよということを伝えたいと思った。

 

私はベッドの中から手を伸ばし、

ソファに座っている彼の手を包み込むようにして

「ねぇ、抱っこして…?」とねだった。

「情が移らないように、短い時間でいいから」と付け加えた。

 

拒否されたら切ないと思ったのだが、

応えてくれた。

彼の肩に顔をうずめて、

涙が彼の肌にこぼれるままにしていた。

彼は私が泣いていることに

気づいているのかいないのかよくわからなかった。

 

私が無言でずっと彼の肩に顔をうずめていたし

そのうちヒックヒックしてきたので

彼はさすがに気づいた。


「もしかして、tefeさん泣いてるの?」

「…」

「泣かなくてもいいのに。一生会えないわけじゃないんだから。」


(そんなこと言って、

この場を丸くおさめようとしてるだけでしょう?

きっともう一生会わない。

少なくとも私は会えない。)