私は彼の腕枕に顔をうずめて息を整える。
“セックスがこんなに気持ちいいなんて嘘みたい。
本当に、今日はすごかった…”
いつものように彼にくっついて身体を休めようとする。
彼は、我に返ったように冷静に話し始めた。
「僕、これ以上tefeさんを好きにならないようにしなきゃ、って思っています。」
「私もですよ…。」
「僕は誘惑に弱いから、こうなってしまったのもわかるんですが、tefeさんは意思が固そうなのにどうしてこうなってるんでしょうね?」
「そうですね、自分でもよく分からないです。
私、結婚後に誰かとこんな関係になったのは
もちろん初めてです。でも、遊びと思うようにしようと思ったから大丈夫…。そう、遊びということにしておきます」
「僕、最初は、ちょっとした心の潤いになればいいなという程度だったんですよ。でも…」
「でも?」
「この曲、知ってるかな?
Please baby don’t,
don’t fall in love with me〜♪
Please baby don’t
You know my history. See honey,
I’m just trying to warn you〜♪」
(僕に恋をしないで、僕はロクデナシ。君とはちょっとした遊びのつもりだった。-中略- 君には僕より良い人がいる。僕から離れられるうちに逃げてほしい、という歌)
「え!? すごくいい声してますね!」
「そうかな?ありがとう。」
「うん、本当にいい声。びっくりしちゃった!」
ベッドの上で彼の腕枕に顔をうずめていたのだが、
低音でよくビブラートのかかった声に驚き、
首をもたげた。私は音楽が大好きなのだ。
音楽になる前の、弦楽器などの
良い音色も大好きだ。
そして、良い音楽を奏でる人も大好きなのだ。
(初めて異性として意識したのはバイオリンの先生、
初恋の人は音楽の先生で、しかも
声楽が専門の人だったくらいだ。)
私がすごく喜んでいるのを見て、
彼はもう一度最初から、
出だしの数フレーズを歌ってくれた。
私は、左手を彼の喉元に当てて、
喉が大きな弦楽器のように振動するのを感じ、
特別な時間を共有しているような
ウットリした気分に浸っていた。
“この人、なんで私のツボを押さえた事を
こんなに備えてるの?”
でも、自分たちが数分前まで
激しく抱き合っていた事と、
歌の歌詞のギャップを考えると
ウットリしている場合ではなく、
とても切ない気持ちになった。
「それにしても、抱き合った直後にその歌詞はひどいですね…」
「tefeさん真面目だから、いつか思いつめちゃいそうで心配なんです」
「あは、その辺は割り切ってるので大丈夫!
私、自分に損になることはできないんです。
っていうか、どうしてこういう非合理的な関係になる男女がいるんでしょうね。」
「味をしめちゃうんですよ。すごく刺激的ですから。」