差出人不明の嫌がらせメールと、

早朝4時の非通知着信がくるようになった。


メールの内容は彼に関する内容で、

けっこうえげつないものだった。


早朝4時の非通知着信は、電話に出ていないので

用件は不明だが、さすがにそんな時間に何度も

間違い電話をする人はいないだろう。


ただ私は男性が多い職場勤務が長く、

政治闘争(?)のようなもので

怪文書が出回ったり

元上司のスキャンダルが週刊誌にリークされると

いうことを何度か経験していたので

そこまで心底動揺するほどではなかった。


ただ、“彼と私の関係を察知した誰かが

私に対して何かを仕掛けてきている”ということは明らかだった。

今の生活に悪影響がでるような攻撃をされたら

どうしよう?とハラハラした。


しかし、迷惑メールの文面からすると

攻撃対象は私というよりも彼のようだった。

それに、嫌がらせはメールと電話だけで、

自宅に郵便などがくる気配はなかった。


そこはひとまずホッとするも、

なぜ私のメールアドレスと電話番号が分かったのか?

私は彼に対して(情報管理能力に関する)

疑念を抱かずにはおれなかった。

それと同時に、

友情(?)から、

彼を心配してしまう気持ちにもなった。


ただ、まずは自分の身が心配になった。


あんな嫌がらせメールや迷惑電話をしてくる誰か

(たぶん女性、おそらく過去の交際相手?)が

くっついている男なんて、

絶対にロクな人間ではない。


彼とは縁を切った方が絶対に良い。


こんなこともあろうかと思って、

彼には私の情報は必要最小限しか

出していなかったが、

それでもネット時代の今は、

いつ何がどうなって色々と繋がってしまうか

分からない。


“これをきっかけに、

彼には何も言わずにフェードアウトするのが

正解だよなぁと思った。”


フェードアウトするには、

ただ何もせずに過ごせば良い。


私はその日、新幹線で出張し

かなりフォーマルなスーツとキャリーカートで

移動していた。

出張は1泊で、大事な発表があった。

そんなタイミングで、出張先の朝4時に

非通知着信があって寝不足になり

非常な迷惑をこおむった。


なので、これ以上、

彼に何も言わず、何も聞かずにいることに

耐えられなくなった。

彼とはフェードアウトすれば良いけれど

その後も嫌がらせが続いたらたまらない。

それだけは起こらないように

対策してもらわないと困る。


新幹線で帰りながら

彼にメッセージで問い合わせた。


今まで嫌がらせメールと迷惑電話が

何度かあったことを伝えた。

“どういうこと?心当たりあるの?”と聞くと

その時点で最大限誠実に思える対応をしてくれた。


彼が、“新幹線で戻ってくるなら駅まで迎えに行くから、少しだけ話しませんか?”と書いてきたので

私はスーツにキャリーカートという

出張帰りの姿のままで彼に会った。

少し警戒していたのもあり

小さな飲食店に入った。


私はお腹が空いていたので、

パクパク食べながら彼の話を聞いていた。

私は彼の正式なパートナーというわけではなく

いつフェードアウトしても構わない関係なので

真実を知る必要もなければ

彼を守る必要もない。


そこは、第三者的な冷めた感じで話を聞いた。


そして、その結果、

まだ犯人は分からないし

詳細はわからないけれど、

少なくとも、彼は何かあった時に

うまくリスク回避をできる人間だと思えた。


実際に会って、そう思えたことにより、

私の警戒心は一気に融解し、

どういうわけか逆の方向に向かう感情が

急に大きく膨らんできたのを感じた。

 

そして、いつの間に、彼の家に行くことに

なっていた。

彼が私のキャリーカートを運んでくれる。


彼の家に向かう道すがら、

彼は「既婚女性と独身男性が、関係を終わらせる目的で豪華寝台特急に乗って北海道まで行くというドラマをみました。トワイライト・エクスプレスというタイトルです。」と話し出す。

「ふ〜ん、そうなんですね」と

適当な相槌を打った。

 

彼は他にも、

念願の研究所に招かれて

面談をすることになったこと、

社会人学校の講師として、

3日間くらい東南アジアを訪問することの話などをしていた。

 

私はなぜか、もう関係を断ち切ろうとしたはずの

彼の家に行ってしまう。


そしてキスをされて、ジャケットを脱がされた。出張帰りにふいに訪問することになったので、

普段とは全然違うフォーマルな装いだった。

彼はそのことに興奮していたようだった。

 

私は、彼とと手をつないで

飲食店から彼の家に来るまでの道を歩くだけでも

相当ドキドキしていた。


それだけで満足、ということにしようと

思っていたのに、また溶けるようなキス。


つい数時間前までは、

“私の生活を脅かすことになるかもしれない

嫌がらせメールや非通知着信が来たんだから

彼と逢うのはやめなければいけない”と

本気で思っていたのに。


そんな風に思っていたことが

一気に吹き飛んでしまった。


吊り橋効果とでもいうのだろうか、

恐怖や恐れでドキドキする体験を共有すると

脳がドキドキの種類を混同してしまって

恋に落ちたりしやすくなるという現象。

普段と違うフォーマルな服と

ドキドキを共有した吊り橋効果(?)のせいか、

その日のセックスは

今までにないほど異様に燃えてしまった。