「どうしてそんなに泣いてるの?」
「…自分でもよくわかんない。ごめんね、意味不明に泣いてて。」
「ううん、なんとなく、さっきチャットに書いた後に、複雑な心境になってるだろうなとは思った。だからフォローしなきゃなと思って電話しようって言ったんだよ。」
「え、私が泣いてるだろうなって分かった?」
「いや、まさか泣いてるとは思わなかったけど…。」
「春は出会いと別れの季節っていうし、別れる時期が来たんだなぁって思ったら、自然に泣けてきただけです。勘違いしないでほしいんですけど、ずっと一緒にいたいとか、離れないでほしいと思って泣いてるわけじゃないですからね。。」
自分でもよくわからないことを言っていたら、
また涙がぼろぼろ出てきて、手で頬をぬぐった。
ビデオ通話の画面にその動作が映ると
異様に大きな動きに見えることに気づいたので、
自分の顔が映らないようによけた。
「なんだか僕のことをすごく好きって伝わってくるんだけど。。僕も本当に好きになっちゃったから、そんな風に思ってくれてすごく嬉しい」
私は泣きぐせがついてヒックヒックしてしまって
返事ができなかった。
しばし無言で、鼻をすすったり涙をぬぐったりしていた。
「…私、なんで自分がこんなに泣いちゃってるのかほんとに分からないんです。だって、ずっと別れなきゃって思ってきて、やっと今回それが叶うんだからスッキリするはずなのに。なのになぜか涙が止まらない。」
「それは、別れたくないし、僕のこと好きってことじゃないの?」
「…そういう風に、何か考えて泣いてるんじゃなくて、何も考えてないのに勝手に涙が出てくるんです。思考を介さないで涙だけ出てくる。。」
「何も考えてないんじゃなくて、考えたくないんじゃないのかな?考えて、分かっちゃうのを避けてるんだと思うよ僕。自分の気持ちを分かりたくないだけなんだよ。こういう関係だから、まともな人はそういう風にしないとやってられないと思うから当然だと思うよ。でも、いつも言ってるけどさ、客観的に見て、僕たちこんなに10年以上もセックスしてぜんぜん飽きないし、今だって毎日こんなに長時間話して、誰がどう見ても付き合ってるじゃない?身体だけの関係だったらもうとっくに飽きてるよ。身体の相性はもちろん良いけど、それだけじゃないっていうのはよく分かってるでしょ?話してても全然飽きないし、この前一緒に旅行しても全部が楽しかった。僕だけがそう思ってるわけじゃないと思ってたんだけど。。」
「…私もすごく楽しかったです。。でも、最後だと思ってたから余計にたのしかったのかも。。」
「自分の気持ちを見ないフリしないで? 僕は永住権の申請プロセスが終わるまでは日本に帰れないけど、一生会えないわけじゃないんだしさ。だって僕は国外に行けないけど、またこっちに来てくれれば会えるよ?永住権の申請プロセスだって、何年もかかるわけじゃなくて、数ヶ月みたいだよ。」
「数ヶ月なの?なんだ、数年かと思った。。」
「数ヶ月って聞いてるよ」
「それを早く言ってください!もう。」
「ふふっ、僕に数年会えなくなると思って泣いちゃったの?」
「はい…」
(彼は知らなかったけれど、この時点では、私の事情でしばらく彼の住んでる国には行けなくなった。でも、数ヶ月先なら彼が帰国できると分かったら一気に気が晴れた。)
「でも今日はこういう話ができて良かったよ。そんな泣き顔見せてくれて嬉しかったし。もう自分の気持ちを隠すのやめてね。」
「…泣き顔を見せるのとかイヤなんですよ。調子に乗らせそうだし。。でも、タイミング的に、今日は良かったのかな。。というか、電話の前には涙が止まったから大丈夫だと思ったのに、顔を見たら何故か泣けてきちゃったから、隠せなくなっちゃっても仕方なかった。。」
「人間、理屈の部分よりも身体が勝手に反応しちゃう事の方が真実に近いんだって。身体が分かってるんだよ。そんな風に泣いちゃうのも、セックスの時にあんなに濡れちゃうのもそうなんじゃない?身体が記憶してるの。あぁ、なんだかいやらしいよねこの表現。」
「なんでいきなりそういう話にするんですか。。」
「だってそう思うから。理屈でコントロールすることじゃないでしょ?」
「そうだけど。。」
「いつも言ってるけど、ここまできたら、僕たち一生離れられないと思う。少なくともあと20年くらいは。」
「え、20年…⁉︎」
その辺りから私も冷静になってきて
普段のようなテンションに戻った。
「あんなに泣く姿を見れるなんて、なんだか僕すごく嬉しかったよ。」
「...なんで嬉しいんですか?」
「だってそんなに泣いちゃうほど僕のこと好でいてくれるんだって思えたから。」
「だから、本当に、ずっと一緒にいてとか思って泣いたわけじゃないですからね。会えなくなっちゃうのは寂しいけど、ずっと一緒にいるのはちょっと。。たまにしか会わない方が良いような気がします。」
「え、なんだか傷つくなぁ。僕は週に1回くらい会いたいのに」
そうやって軽口を叩くような話をしている方が、深く考えずに済むから気がラクだ。
そしていつものような話をして、
最後、お互い穏やかにおやすみの挨拶をして
通話を終えた。
ビデオ通話を終えた後、しばらくソファに突っ伏していた。
(なんであんなに泣いちゃったんだろう。。プツッと断ち切るはずが。やっぱり好きなのかなぁ。。)
考えても本当にわからなかった。