密会旅行先にてDay5⑧
彼を、空港の搭乗ゲートで見送ったあと、振り返らないようにして立ち去った。そして少し歩いた後に一瞬だけ後ろを見たが、彼の姿はなかった。
空港に来る時に渋滞だったので、私はまず早めにホテルに帰るために足早にタクシー乗り場に行った。幸い何台かタクシーが泊まっていたので、彼に写真を送ろうと思って撮影した。空港に到着したお客さんも数人並んでいたが、私も無事に乗車する事ができた。
空港から出てきたのに、小さなトートバッグ1つしか持っていなかった私に、運転手さんは“スーツケースは大丈夫?”と聞いてきた。“見送りに来ただけなので、荷物はこれだけなんです”と答える。
タクシーに乗って行き先を告げてひと息つき、ゆっくりスマホを見ようと思って開くと、彼から“タクシー見つかりそう?”とメッセージが来ていた。
せっかく涙もなくお別れできてスパっと切れるかと思ったのに、どうしてまたこういう風に間髪おかずに連絡してくるんだろう?と思うと同時に、
そんな風に気にかけてくれるのはとても嬉しい。
そういえば、自分も彼に送ろうと思ってタクシー乗り場の写真を撮っていた事を思い出した。
スパッと切ろうと思っているのか、思っていないのか、自分でもよく分からない。思っているはずなのだけれど、つい彼に見せたいと思って写真を撮る事が習慣になってしまっている。
その写真を送って、“ちょうど乗ったとこです”、と返事をした。
“無事に帰れそうで良かった”
“別れ際にあんな風にキスするから、いまさらだけどドキドキしてしちゃいました”
“今回の旅行、キスが思い出になるんじゃない?”
“そうですね。。展望台で夕陽を見てた時もいきなりだったし、さっきもいきなりだったから。良い思い出になります。フライト気をつけて、寝ながら帰ってくださいね“
”うん。夜行便だから、たぶん寝ちゃうと思うよ。今日は朝からよく運動したしね。”
今回、『現地集合・現地解散。最終日に別れたら、それぞれの生活に戻って、もう会わない』計画だった。計画というか、お互いの環境的に、そうするべきだと分かっていたし、自然とそうなると思っていた。
それなのに、空港で別れた直後から、こんな風に当たり前に会話を継続してしまって、今後どうなるんだろう。。と思った。
空港からホテルに戻る時は道がすいていて、行きの半分くらいの時間で到着した。
けっきょくずっとチャットしていたので、彼にホテルに着いたと言う。
“無事に着いて良かった。今日はゆっくり休んでね。“
"はい、ありがとうございます。”
“僕ももうすぐボーディングが始まるみたい。家に着いたら連絡するね“
”はい!夜遅くの運転、心配だから連絡してくれるの待ってます“
”じゃあ、またね“
“は〜い”
その後、お風呂にお湯を入れ、もう少し休んでから入ろうと思っているうちに寝てしまった。不思議なことに全くお腹がすかない1日だった。
目を覚ますと深夜近くなっていた。冷めてしまったお湯を抜いてもう一度温かいお湯を入れ直して入った。
1人でお風呂に浸かっていると、もうここに彼が居ないのが寂しく思えてきた。でも、前回、彼の赴任先に押しかけて彼と別れた後のように涙が出てくる事はなかった。