お寿司を食べながら、転勤に向けた準備の状況や、
まだ残っている書類の手続き、向こうでの生活の見通しなど、主に彼の話を聞いていた。
そういう具体的な話を聞いていると、
”身体だけの関係“だから、敢えて彼個人の事を
知ろうとしてこなかった事実に改めて気づいた。
彼も、そんな風にこまごまとした個人的なことを
私に話すのは初めてだったかもしれない。
完全に個人情報がダダ漏れだ。
別れた後にこうやって
彼の生活周辺の話を聞いていると、
仕事や家庭におけるリアルな彼個人の姿が
急に浮かび上がってくるように思えた。
それは、前回会って別れる時に
『身体の関係にケジメをつけた』からこそ持てた、
新しい交流の形のようにも思えた。
(これなら今後は良いお友達になっていけそう。
やましい関係が解消されて、
ちゃんと線引きできたわけだから、
彼個人の事を知っても大丈夫!)
お寿司を食べ終わった。
「デザートでも頼みますか?それかお茶でもしに行きます?」
「う〜ん、僕もうお腹いっぱい」
「じゃあ行きますか?」
「うん」
「最後の晩餐なので、転勤祝いに奢らせてください」
「え、なんか悪いなぁ」
「いえいえ、お祝いだから」
店を出て歩き出した。
「ねぇ、職場の近くの仕事部屋を見てみたいな。」
「え?ああ。でもまだ本当に何もないですよ?」
「うん、大丈夫。見てみたいだけだから」
ちょっと迷ったが、彼にしては珍しく、いやらしい雰囲気は皆無だったし、何より前回会った時に彼自身がケジメを付けようと言ってきたわけだし。
「じゃぁ、ここから近いから散歩がてら行きましょうか。」
「うん。」