第11話 ::誰でも歯を抜く決心はつかないみたいで | 歯周病生活。

第11話 ::誰でも歯を抜く決心はつかないみたいで

=u今の歯槽骨の状態だとインプラントを植えるのは難しいと思う」

 久々に会った友人と喫茶店で今後のことを相談したときに出てきた一言。つまり、そこまで問題の歯を支える歯槽骨は見事に破壊されていたのである。ふつう、これまで歯周病の原因菌によって破壊されていた歯槽骨は、歯石のからみついた菌だらけの自前歯という「異物」を抜くと、いくぶんか再生される。

 インプラントを植えるだけの経済的な余裕の有無は別として、もし抜いた場合の事後策は考えておきたい。一番奥の大臼歯だけに、ブリッジは選択できない。なんて、話は完全に「抜く」ことを前提に進んでいたのである。

 歯科医師として日々の診療や研究のストレスもあってか、友人、一度は止めたといっていたタバコのペースが落ちない。会話をする合間にタバコをふかすといった調子である。

「たばこは歯周病を加速させるらしいが……」

と話を切り出すと、

「ああ、それは歯茎の血流が悪くなるから……」

と返す友人。それにしても、久々に友人同士が再会したとはいえ、「歯周病」という、はっきりいって耳にしたくない話題だ。しかも喫茶店で歯科医師に相談するなんてことは、飲み屋でたまたま隣に居合わせた弁護士に「いきなり」法律相談を頼むようなもの。時間も夕方6時過ぎということもあって、友人も妻子の待つ家路モードである。しきりに時計を気にしている。

「もう家に戻らないといけないのでそろそろにしようと思う。で、誰でも歯を抜く決心はなかなかつかないみたいで。もし気持ちの整理がついたら、オレに抜歯させて。それと、●●歯科(友人が週一回勤務するところ)はいいと思う。大学の先輩で歯周病治療には腕がある人を知ってるけど……、とにかくいい歯科医院は患者がたくさん集まってくるから、暇なところは避けた方がいい」

 本数が減るごとにポケットの中でやれていくタバコのパックから取り出した最後の一本を吸い終わると、友人というよりは、本日担当の「歯科医師」としての目つきで、

「オレが払っておくわ」

と友人がおもむろにお勘定を手にし、支払いを済ませた後、

「じゃ、次の診察のときに」

と言葉を残して友人はアクセルを噴かし帰っていった。

 先程までの会話を振り返ってみると、

「抜歯のときは、友人として君に抜いてもらおうと思う」

と発言する自分がいたことを思い出す。もう抜歯しかないのか。というよりは、その方向で覚悟を固めるときがやってきたことを実感していた。

 「保存」というかすかな望みは捨てられないが、ひとまず、問題の歯以外の歯も、これを機にきちんとケアしなちゃ。じゃあ、長く付き合える歯科医院あるいは歯科医師は誰なのか? 噛みしめるとグラつく歯に不安をおぼえながらも新たな検索がはじまった。

(第12話につづく)