ラタトゥーユ
1.知ったかぶり
しんちゃんとたっちゃんは大の仲良しです。
いつも一緒に遊んでいます。
でも,しんちゃんにはちょっと困った癖があったのです。
あるとき,たっちゃんが
「しんちゃん。ほく,きのうフランスから帰ってきたおばさんにラタトゥーユっていう料理を食べに来ないって言われたんだ。しんちゃん食べたことある」
しんちゃんは食べたことも見たこともないし始めて聞く料理の名前でした。
でも,
「うん。食べたことあるよ。とってもおいしいよ」
と,つい嘘を言ってしまいました。
これがしんちゃんの悪い癖でした。「知らない」ということが言えないのです。なんでも知っているふりをするのです。
「へぇ。すごいなあ。どんな味」
「とってもおいしいよ。オリーブ油がたくさん入っていてちょっとしつこいけど・・・」
おやおや。それにしても,オリーブ油が入っている事は知っているようです。しんちゃんは以前フランス料理を食べた時,ほとんどの料理にオリーブ油が入っていることを知っていたのでした。
「ふうん。今度食べたらぼくも感想を言うから,どんな料理か簡単に教えてくれない」
さあ,困りました。しんちゃんはどんな料理か知らないのです。
「うん。でも知らない方がいいよ。初めてだったら知らない方が感動するよ」
おやおやうまく切り抜けました。
「わかった。どんな料理かな。楽しみだなあ」
2.ど忘れした料理
さて,たっちゃんと別れて家に帰ったしんちゃんは,お母さんに,
「ね。今日の夕ご飯。ラタトーにして」
と言いました。おやおや,しっかり料理の名前を覚えていなかったのですね。
「えっ。ラタトー? そんな料理聞いたことないわよ」
「フランス料理のラタトーだよ」
これをすぐ横で姿を消して聞いていたものがいました。
テドゥウです。
そのとき,お母さんはフランス料理からラタトゥーユと気づく瞬間でした。
テドゥウは神通力を使って,お母さんが気づくのを止めました。いわゆる「ど忘れ」にしたのです。
「ええ。フランス料理ねぇ。なんとなく思い出しそうなんだけど・・・。そんな料理あったような気もするけど・・・」
お母さんは必死に思い出そうとしたのですがどうしても思い出せません。
「うーん。困ったなぁ。どうしてもラタトーが食べたい」
と,しんちゃんは言いました。
しかし,お母さんは思い出せないので作れません。
とうとう,その日の夕食は,ハンバーグになりました。お父さんの大好物です。
しんちゃんは,たまたま早く帰って夕食を一緒にしたお父さんに,
「お父さん。フランス料理のラタトーって知ってる」
と聞きました。
ずっとそばにいたテドゥウはお父さんも思い出せないようにしてしまいました。
「さあ。ラタトーっていうフランス料理は知らないなぁ」
お父さんも,なんとなくわかりかけたような気がしたのですが,思い出せません。
3.正直に
でも,お父さんは,しんちゃんの悪い癖を知っていたので,きっとまたどこかで知ったかぶりをしたのだろうと考えました。
「しん。ラタトーを食べたことがあると,友達に自慢したのか」
しんちゃんはびっくりして黙ってしまいました。おとうさんはしんちゃんの慌てた様子を見逃しませんでした。
「しん。きっと似たような名前の料理を食べたことあると言ったんだろう。嘘はよくないな。明日,正直にぼくは知らなかったと言って,ちゃんとした名前をきいておいで。いいか。しん」
お母さんも,
「やっぱりそうなの。急におかしいと思ったわ。ラタトーなんて料理は知らないわよ。ちゃんとした名前を聞いてきたら明日はその料理にしましょう」
しんちゃんは,泣きそうになりました。ついつい言ってしまった「知ってるよ」は,もう言わないようにしよう。と心に決めました。
次の日。しんちゃんは,たっちゃんに,
「昨日のフランス料理のラタトー。ぼく知らないんだ。ラタトーじゃなく本当の名前もう一度教えてくれない」
「ああ。ラタトゥーユのこと。昨日,おばさんが来て作ってくれたよ。しんちゃんの言うとおりオリーブ油の味もしてたよ」
「でも,ぼく。食べたことがないんだ。食べたというのは,嘘だったんだ」
「なんだ。そうなの。じゃ,一度食べてごらん。ラタトゥーユだよ。野菜がいっぱいだったよ」
「ラタトゥーユ。ラタトゥーユ。ラタトゥーユ。・・・覚えた。今日,お母さんに作ってもらうよ」
きっと,お母さんのラタトゥーユ。はとてもおいしいことでしょう。
二人の頭の上で聞いていたテドゥウは,『ぼくも食べたいな』という顔をしながら山の方に帰って行きました。
カットはポックルさんです

