1.石ケン
「ぼく,おふろ入るのいやだぁー」
「さあ,おばあちゃんといっしょに入りましょ。今日は頭を洗わないからね」
「いやだ。いやだー」
おやおや,小学校低学年くらいの男の子がだだをこねています。
「しんちゃん。今日はいっぱい遊んでどろだらけでしょ。おばあちゃんが待ってるわよ。入りなさい」
お母さんからも言われましたが,しんちゃんは「いやだ。いやだ」と言って,とうとうお風呂に入らないで寝てしまいました。
これを見ていた者がいました。
テドゥウです。
テドゥウとは,リスに似た生き物で、子どもが困ったり悲しんだりすると角で感じ取り、近くに現れて何とか解決しようとする生き物です。姿を消したり空を飛んだり、いろんなものに化けたりもします。
海に沈むきれいな夕陽を見ているとどこからか「いやだ。いやだ」と男の子の叫ぶ声が聞こえたのでなんだろうと姿を消して様子をうかがいに来たのです。
男の子がおふろ嫌いなのを見たテドゥウは,こっそりと小さな石ケンの姿にかえてしんちゃんのふとんにもぐりこみました。
そして,
「おい。しんちゃん。起きろ」
としんちゃんの鼻をつまみました。
しんちゃんがびっくりして目を覚ますと,そこには手と足がはえた小さな石ケンが立っています。
「おい。しんちゃん。おまえは今日もおふろに入らないで寝たな。こらしめてやる」
小さな石ケンがしゃべりました。よく見ると,石ケンに目や口がついています。
お化けだ。
2.戦い
お化け。
と思ったのですが,
あまりに小さいので,しんちゃんは石ケンをやっつけてやろうと思いました。
「石ケンの化け物め。やっつけてやる」
と言って,石ケンをつかみました。
すると,
指と指の間から
するり
と抜けてしんちゃんの頭の上に飛び乗りました。
「やぁい。しんちゃん。つかまえられるものならつかまえてみろ」
石ケンに化けたテドゥウが,しんちゃんの頭の上から言いました。
「くそ。えい」
しんちゃんは,もう一度つかまえましたが,また
つるり
と逃げます。
ふとんの上をちょこちょこ走りまわる石ケンを,
今度は足で,エイッとふんづけました。
すると足の指の間から,
するり
と逃げます。
もう一度ふんづけると違う指の間から
つるり
と逃げます。
手や足の指の間,わきの下など
するり つるり
と逃げ回ります。
しんちゃんは疲れてきて座り込んでしまいました。
ハアハア息を切らしながら,石ケンが通った指の間が気持ちいいことに気づきました。
「どうだ。しんちゃん。石ケンが通ったところは気持ちいいだろ。おふろに入るともっと気持ちいいぞ」
しんちゃんは,石ケンが通らなかった指の間が気持ち悪くなってきました。
しんちゃんは急に部屋を飛び出しました。
そして,おばあさんに,
と言いました。
おばあさんは,さっき一人で入ったばかりでしたが,喜んでいっしょに入ってくれました。
おふろの中から,きゃっきゃ きゃっきゃ としんちゃんの楽しそうな声が聞こえてきます。
テドゥウは,その声を聞くと安心したように山へと帰って行きました。
おしまい
カットはポックルさんです。
