札幌を出発した翌日。
私は、ほぼ丸一日を
フェリーの中で過ごしていました。
実は私、もともとはものすごーーく
「乗り物酔い」をするタイプ。
以前船に乗ったときは、
1日中ベッドでのたうち回り、
まったく使い物にならなかった
苦い記憶が……(涙)
「今回もダメかもしれない……」と
怯えながら酔い止めの飴を買っていたのですが、
結局、出番はありませんでした!
なぜかって?
どうやらここ最近、
ボヨンボヨンと激しく揺れる
軽トラを毎日のように運転していたせいで、
知らぬ間に私の三半規管が
「野生化」して強くなっていたみたいです(笑)
人間の適応力ってすごい。
揺れなかった幸運もあり、
船内は驚くほど快適。
どこかレトロなロマンが漂う船内で、
中央階段の赤絨毯(じゅうたん)を見るだけで、
なんだか少しワクワクしちゃいました。
ただ、今回の旅は「ひとり旅」では
ありません。 3歳になる愛猫、
ラガマフィンの「マフィン」が一緒です。
これがもう、
想像以上の大冒険の始まりで……!
フェリーに車を止めて、
そこから客室へ向かう階段。
背中には、5キロに成長したマフィン(リュック)。 肩には自分の手荷物。
空間を圧迫する、
どうしても手放せない
「猫砂がたっぷり入った重いトイレ」とお水入れ。5キロの猫を背負い、
ずっしり重い猫トイレを抱え、
狭い階段をハァハァ言いながら上っていく。
リュックからは「みゃー!みゃー!」と抗議の声。一歩進むたびに、
心の中で「やっぱり1人は大変だなぁ……」って
ちょっぴり弱音がこぼれました。
ようやくたどり着いたペット部屋。
ホッとしたのも束の間、
とんでもない事件が発覚します。
「……あれ? お尻になんか、ついてる?」
どうやら車の中で用を足した際、
お尻を汚してしまったよう。
乗船直後、
ロマンチックな余韻に浸る間もなく、
私は大慌てでマフちゃんのお尻を
シャワーで洗う羽目になりました(泣)
急に知らない場所に連れて行かれ、
お尻にシャワーを当てられたマフィちゃんは、
目を丸くして固まっています。
(ごめんね、でも綺麗にしないと
部屋で放してあげられないのよー!)
そんなハプニングを乗り越えたあとは、
ただただ「食べて、寝て、食べて、寝る」と
いう究極ののんびり時間。
(船が出発する直前、
Wi-Fiの事前申し込みを忘れたことに気づき、
電波が途切れるギリギリで
大慌てで契約したのはここだけの秘密です。笑)
窓の向こうの、
ただただ広い海を眺めながら
過ごす20時間以上のタイムトリップ。
日常から完全に切り離された、
贅沢な時間でした。
やがて船は港へ着き、
いよいよ見知らぬ街へ。
雨がパラつく中、
荷物を満載した軽トラを走らせ、
これからの新居となる家へと向かいました。
ひたすら暗い夜道を爆走です。
到着したのは、すっかり夜も更けた頃。
あたりは一寸先も見えない真っ暗闇。
事前に打ち合わせていた場所に、
鍵を取りに行きました。
キーボックスの暗証番号を合わせようとした、
その時。……ん?なんと、
最初から番号が合った状態で、
すでにパカッと解錠されていました。
「いや、全然鍵かかってないじゃん!!(笑)」
思わず暗闇でツッ込みを入れながら、
無事に家の中へ。
当然、部屋は真っ暗。
しかも私、事前にブレーカーの位置を
聞くのをすっかり忘れていたんです。
絶望しかけましたが、
出発前に夫が持たせてくれた
懐中電灯がバッグの中にありました。
その一筋の光だけを頼りに、
ガサゴソと不審者のように家の中を探索。
ようやく見つけたブレーカーを上げても、
今度はあちこちのスイッチをいじらないと
電気が点かない!
「まさか、このまま朝まで真っ暗な中、
寝るしかないの……?」
一瞬、背筋が凍りつきましたが、
カチッと音がしてパッと明かりが灯った瞬間は、
心底ホッとしました。
車から布団だけをずるずると引っ張り出し、
一番手前の部屋にバンと敷く。
マフィちゃんのトイレとご飯をセットし、
ようやく布団にゴロンと横になったとき。
どっと押し寄せてきたのは、
信じられないほどの「心細さ」でした。
1人で船に乗り、
1人で軽トラを爆走させ、
誰もいない暗闇の家で電気を探す。
布団の上で1人と1匹、
なんとも言えない不安と、
心もとなさが部屋中に満ちていくのを
感じました。
札幌にいたときは、
完全に忘れていた感情です。
50代になって、
こんなに胸がソワソワする夜を
迎えるなんて思ってもみませんでした。
でも、その心細さの奥から、
じんわりと、ある古い記憶が蘇ってきたんです。
「あ、この気持ち、知ってる」
それは、入学したばかりの学校で、
新しいクラスの張り紙を見て、
まだ誰も知らない教室のドアを開けたときの、
あの感覚。
自分の席に座り、
周りを見渡しながら、
胸がギューッと痛くなるほどの不安。
それと同時に、
「これから何が始まるんだろう」という、
コントロールできない未来への希望。
あの、ヒリヒリするような高揚感と、
まったく同じだったんです。
大人になると、
私たちはいつの間にか
「予測のつく、安全な毎日」を
選べるようになります。
傷つかないし、困らないけれど、
どこか心が眠っているような日々。
だけど今、私の心は間違いなく、
激しく脈打っている。
この心細さは、私が新しい未来へ
一歩を踏み出した、何よりの証拠んだ――。
マフィちゃんのぬくもりを感じながら、
私は静かに目を閉じました。
不安と希望がごちゃ混ぜになった、
人生の「第2シーズン」が、
いよいよここから始まります!











