イメージ 1

おすすめ度: ☆☆☆☆☆ (Excellent)
小津安二郎監督、原節子主演の「秋日和(Late Autumn)」をDVDで観た。この作品は6月にアメリカでリリースされた小津安二郎の晩年の作品を集めた5枚組みDVDの中の一作品です。(詳細はここ)、

この作品は基本的には「晩春」のストーリと似ていて、「晩春」が娘を嫁にやる父親とその娘の話に対して、これは母親とその娘の話で、英語の題名もそれを意識してか、「晩春」が「Late Spring」に対して、この「秋日和」が「Late Autumn」と似た題名になっている。

亡夫の7回忌を終えた未亡人の三輪秋子(原節子)は相変わらず美しく、婚期を迎えた娘のアヤ子(司葉子)と2人で住んでいた。亡夫の旧友たち間官(佐分利信)、田口(中村伸郎)、平山(北竜二)はアヤ子にいいお婿さんを探そうと、ついお節介心を起した。でもアヤ子はまだ結婚する気がないようだが、母親の秋子が再婚すれば、アヤ子も結婚を考えると三人は思い母娘の婿探しが始まる…。

この映画はストーリが似ている「晩春」よりも、ユーモアの度合いが強い気がする。実は間官と田口も昔から秋子のことが好きで、彼女が勤めていた薬屋によく通っていた話しを夫婦でするところとか、アヤ子と彼女の友達の百合子(岡田茉莉子)の会話など、登場人物がみな味わいがあり、しかもなかなかコミカルで見ていて本当に面白い。

一番興味深いと思ったのは、アヤ子が母親は密かに再婚を考えていると思い込んでしまうところで、アヤ子は間官から母親の再婚話が進んでいると聞くのだが、その後に母親の秋子とその事で口論する。秋子は否定するのだがアヤ子は母親の言う事が信じられない。落ち着いてじっくり考えれば、母親がそんな事を娘に隠すはずがないのに、何故か亡き父親の友人の話をすんなり信じてしまう。自分がよく知らない人の話を信じて、自分がいつも信頼している人がウソをついていると思ってしまう…。こんな状況は実は誰にでもあることで私も経験がある。

ようやくアヤ子の縁談がまとまると、間官はこう言う。「世の中なんて、みんなが寄って集って複雑にしてるんだな。案外簡単なものだ。」そう、世の中は結構簡単に動いているのかもしれない。みんなが良かれと思って、いろいろ必要以上のことをしてしまうから、複雑になるのかもしれない。

それぞれ性格が違う、この旧友三人組がなかなか微笑ましく描かれているし、この三人の為に事が複雑になってしまい、その誤解を解き母娘を和解させようとする百合子が本当に愛らしく描かれている。

こんなに微笑ましくユーモアに富んだ作品なのに、でもやっぱりラストは泣けるのだ。最後に娘の結婚式を終えた夜に、昨日までは親子二人で寝ていたのに、一人になってしまった秋子が自分のアパートで座っている。嬉しいながらも一人になってしまった寂しさが込み上げてくる彼女の表情を見ていたら涙が溢れて止まらなくなってしまった。

小津は自分の映画は豆腐みたいなものだと語った事があるそうだ。豆腐をもとにいろいろな料理が出来るが、結局は豆腐には代わりない。そう、彼の作品は物語が多少違っていても、結局は同じ豆腐を撮り続けているのだ。人間の本質、人間が何に喜怒哀楽するかは時代が変っても結局はそんなに変るものではない。彼の作品はどれも、そんな人間の本質がはさりげなく自然に淡々と語られていて、本当に観るたびに魅了されてしまう。

この作品もそんな魅力にどっぷりと浸かれる映画でした。