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W街ラウンドアップ)

米中交渉の進展期待と政治分断に揺れる市場

 

米中の貿易協議が順調に進んでいるとの楽観が幅広い銘柄に買いを誘った。15日の米株式市場でダウ工業株30種平均は反発し、2万5883ドルと昨年11月9日以来の高値で終えた。週間では8週連続の上昇で2017年10月末以来ほぼ1年3カ月ぶりの長期上昇となった。米中両政府が来週もワシントンで貿易協議を開くと決め、合意に向かっているとの見方が広がった。

ニューヨーク証券取引所=AP

「極めて順調だ」トランプ米大統領は15日、ホワイトハウスで記者団に対して北京で15日まで開いた米中の閣僚級の貿易協議を評価した。中国が米国産の農産物やエネルギーに加え、工業製品でも具体的な輸入拡大策を示すなど市場開放で前進した。トランプ氏は合意に達すれば関税を撤廃する考えも示唆した。

中国の構造問題では依然隔たりがあるが、3月1日の期限についてトランプ氏が「真の合意に近づけば若干の延長はある」と語ったこともあり市場では楽観論が広がる。IGのクリス・ボーチャンプ氏は「上昇相場に乗り遅れまいという雰囲気が強い」と話す。

 

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO4136387016022019ENI000/

 

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米中貿易協議の進展を受け、NY市場はお祭り騒ぎの上昇となりました。

 

米中首脳会談白紙と言ったり、関税撤廃と言ってみたり、状況がカオスになってきているので、時系列で見てみたいと思います。

 

まず、最初予想されていたのはこんなスケジュールでした。

2/11-2/15 米中貿易協議

2月後半 米中首脳会談

3/1 対中関税判断(継続or追加)

この時点で関税撤廃の話はどこにもありませんでした。

協議がまとまっても現状の関税は維持。少なくとも貿易赤字の縮小や知的財産保護の進捗を確認してから関税引き下げ検討だろうというのが大方の見方でした。

 

そこに飛び込んできたのが前回の記事。

米中首脳会談、通商協議期限の3月1日までに計画なし=トランプ大統領

https://jp.reuters.com/article/usa-trade-china-idJPKCN1PW2DE

 

米中首脳会談が無くなり、スケジュールはこう変わりました。

2/11-2/15 米中貿易協議

3/1 対中追加関税発動濃厚

延期 米中首脳会談

追加関税発動濃厚となったことで、相場は一旦大きく下落しました。

 

このまま下に突っ込んでもおかしくない状況でしたが、その後トランプ大統領が3/1の期限延長を匂わせ始めたことにより相場は反転しました。

1/4のアップルショックもそうでしたが、ニュース絡みの場合はテクニカルがあてにならない良い例だと思います。

 

そして2/14場中に60日間の期限延長のニュースが流れ、日経平均はピクリと上昇したもののすぐに押し戻されました。

米国は対中関税期限の60日間延長を検討

2019年2月14日 12:55 JST

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2019-02-14/PMWDKF6JIJUS01

ニュースが流れた12:55頃一瞬上昇しますがすぐに押し戻され、朝方の高値を超えられなかったことがわかります。

 

日経平均21200円程度の株価水準は、3/1期限の延長くらいは織り込んでいることがわかります。

スケジュールの予想もこう変わりました。

2/11-2/15 米中貿易協議

---協議延長---

3/1 対中関税維持

---協議継続・米中首脳会談---

5/1 対中関税判断(継続or追加)

そして2/15の協議終了後にトランプ大統領がホワイトハウスで会見し、関税撤廃に触れたことから市場はお祭り騒ぎとなりました。

トランプ米大統領:通商協議、妥結すれば中国製品への関税撤廃へ

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2019-02-15/PMZ67N6JTSE801

おそらく関税撤廃に触れたのは初めてではないかと思います。

これまでは貿易協議がまとまったとしても、現行の対中関税は維持すると考えられていました。

ところが日本時間2/16午前0時過ぎから始まった会見でトランプ氏が関税撤廃に触れたため、NY株式市場は高騰しました。

 

この上昇でNYダウはフィボナッチ74%戻しを達成しました。

ここを達成したからには全戻しもありえます。

12/3の米中首脳会談の高値に肉薄し、市場は関税撤廃-米中貿易戦争終了を前提にし始めたようにも見えます。

 

果たしてそんな事が起こるのかどうか?

 

トランプ大統領は対中貿易赤字の解消を公約として大統領になりました。そしてこれまでも坦々と公約実現のために動いているように見えます。

中国はアメリカからの輸入を大幅に増やすと言ってます。

確かに輸入を増やして中国が対米貿易収支を均衡させるなら、関税の必要はありません。

 

しかしアメリカの対中貿易赤字は4000億ドル。

中国は大豆やエネルギーを中心に大幅に輸入を増やすと言っていますが、そんな量買えるわけがありません。

大豆なんて量は僅かです。一番金額が大きくて備蓄ができそうなのは原油ですが、2017年の中国の原油輸入額は1623億ドル。

そして中国の原油の国内生産量は日量383万バレル。消費量の約4割を国内生産で賄っています。

 

仮に中国が国内の油田を全廃し、すべてを輸入に振替えても1000億ドル程度しか増えません。

あと他にどうやったら4000億ドルもの貿易赤字を埋めることができるのか?

 

そしてもし本当に中国が原油生産をやめればどうなるのか?

世界の原油生産量は日量約8000万バレル。

中国は約400万バレル。

約5%の原油が世界から消えることになります。

 

第二次オイルショックは中東戦争-イラン革命でイランの原油生産が530万バレルから130万バレルに落ち込んだことが原因です。

当時の世界の原油生産量は6330万バレルでした。

このときの減産インパクトは約6.3%。

 

仮に中国が国内の原油生産をやめれば、おそらくオイルショックに匹敵するインフレになるでしょう。

とても実現できるとは思えません。

 

中国だって必要なものを十分に買って今の貿易収支なのです。

原油を買い惜しみして車に乗らず、歩いて移動したり荷物を背負って運んでいたわけではありません。

貿易赤字が縮小する方法は一つしかありません。

中国人がアメリカ人の生活水準に追いつき、中国人がアメリカ人と同じ所得水準になり、中国人の一人あたりのGDPがアメリカ人に並ぶこと。

安い商品が他国から流れてくるのを防ぐには、両国が対等の経済水準になる必要があります。

 

それはすなわち、中国のGDPがアメリカの4倍になり、中国の覇権を許すのと同じことになります。

「覇権を許したくない」「貿易赤字も嫌だ」

両方を同時に実現するのは不可能なのです。

 

どう考えても無理なことを実現できると推し進め、市場もそれを楽観視し始めているように見えます。

中国がアメリカから輸入を拡大し、市場を開放し、技術移転の問題も解決させる。

そしてアメリカも対中関税を撤廃し、「フェアに競争するなら負けても仕方ない。中国のほうが人口が多いのだから覇権を譲ろう」とトランプ氏も納得する。

そして米中首脳会談のあと習近平氏がファーウェイCFOを連れて凱旋帰国する。

そんな壮大な茶番劇が起これば株価全戻しもあり得るでしょうが、とても想像し難いです。

 

とはいえ、上にも下にも振り回されるのが市場です。

売り方は椅子から中腰になってキョロキョロ周りを見始めなくてはいけない位置です。

少なくとも売り乗せした分は引いたほうがいいと思います。

波形から見ればTOPIXが1660手前まで跳ね上がったとしても、景気後退シナリオは崩れません。

そのくらいまでは余力を持って見ておいたほうがよさそうです。

 

ドテンはやめたほうがいいと思います。

スケベ心を出す位置ではありません。

振り回されないほうがいいと思います。

 

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