前回「マイナス金利の先にあるもの11 - 日本人はお金持ち?」では、日本人の個人金融資産は年金保険料を払わずに年金を受け取ってきたことによって形成されており、中身がないものだということを書きました。

日本人の個人金融資産の大きな部分は年金で形成されています。
その年金の原資の大きな部分は国債であり、それは将来の徴税予定額と同等です。
世代をまたぐとは言え、日本人の個人金融資産は後で回収されることが前提の資産。
つまり幻なのです。
年金だけでなく、プライマリーバランスしていない部分は、国から国民に余計に支出されている部分であり、それはやはり将来の徴税に上乗せされることになります。

プライマリーバランスしていない部分が幻の資産なら、アメリカなど財政赤字の国は同じことではないかと言われればその通りです。
しかし日本人の資産はその「プライマリーバランスしていないことによる幻の部分」が極端に大きすぎるのです。
そしてアメリカは広大な土地があり、世界の首都である限り世界中から移民が集まってきます。
人口ボーナスを受け続けることのできるアメリカは、やはり日本とは環境が違います。


日本は破綻しない論

このような錬金術がいつまでも可能なのかと言われれば、それはやはり不可能と言わざるを得ません。
日本の財政は、維持可能な水準ではなくなりつつあります。

それに対して主にインターネット上では、以下のような異論が見られます。
①国債は国の借金であって国民の借金ではない。それどころか国民の資産である。
②国債によって集められたお金は国民に支出されている。政府債務残高が個人金融資産を超えることはあり得ない。
③日本政府は資産も膨大だから大丈夫。特別会計も入れればもっと資産は膨らむ。
④自国通貨建てだから日銀が国債を買い取り、通貨を発行して返済すればいい。
⑤日銀が国債を買えば、その国債は政府は返済しなくてよい。
⑥政府紙幣を発行して返済すればいい。
⑥通貨増刷はインフレになるというが、日本のような供給過剰の国ではハイパーインフレにはならない。
⑦日本は経常黒字国であり、世界最大の対外純資産があるから大丈夫。

一つ一つを説明しているときりがありませんが、これらは誤解や詐話なので注意が必要です。
中には意図的に間違った説明をしている例も見受けられます。

ちゃんと説明すると何十回もの連載になりそうですが、簡単に説明すると。
①は徴税を無視した誤解です。国民から徴税して国民に返済するので、国債の部分は国民の真正な財産では有りません。
②は会計の順序や国の支払先を無視しています。個人金融資産が増えるのは国の借金が成立した後です、現有の個人金融純資産を超えて国債をツケで買うことはできません。
個人金融純資産と政府債務の差額はどんどん小さくなっていますが、これは政府債務が個人金融資産を超えることがないというより、内債の場合には個人金融資産を超えて政府債務を増やすことができないという方が正しく、説明があべこべです。
③はちょっと膨大な説明になるのですが、簡単に言うと、いろいろかき集めたところで日本政府はすでに債務超過なので、資産をすべて売却しても返済できないのは同じことです。

④⑤⑥⑦はまとめていうと、通貨の信任ということに行きつきます。
本位通貨ではないので、日本円に裏打ちはありません。
管理通貨制度とは、中央銀行が適切にその量をコントロールすることにより、貨幣の価値を保つことになります。
通貨自体にはもともと価値はないのですが、日本円を持っていれば日本の資産を買えるため、日本の有形無形の資産(不動産からサービスに至るまで)の価値の総額と、通貨の量が見合っていれば価値を失いません。
しかし通貨はほとんど無制限に増やすことができるので、いくら日本人が働いてその資産価値を高めたとしても、それ以上に通貨を増やせば、通貨はやはり減価します。

それがバーナンキの背理法で表現されるものですが、そこには運用上の罠がありました。
「お金に価値があると人々が信じる限り、供給が需要を上回る状態で貨幣が増えても、インフレは起きない。」
考えてみれば当たり前のことですが、供給>需要であれば、人々は安いところで買い物をします。
供給側は安売り競争に追い込まれます。
「ボーナスが入ったから、給料が増えたから、今日は高い方の店で買っちゃおう」
こんな行動は、「お金に価値があると人々が信じている限り」基本的に起こらないのです。

バーナンキさんはリフレ理論を用いて世界中を通貨増刷の嵐に巻き込みましたが、インフレを起こすことなくQEは終わりました。
しかし一方で、通貨をいくら増刷してもインフレにならないなら、これもおかしなことになります。
日本中を紙幣印刷工場にして日本人全員をビルゲイツにして、世界を買うことができます。
これもあり得ません。

バーナンキさんは「インフレ」とは言っていますが、それがどんなインフレかは明示していません。
バーナンキさんの言うインフレが出現する条件は「お金に価値があると人々が信じなくなったとき」に起こる。
つまりマイルドインフレは起こせないが、ハイパーインフレは起ころということを意味しています。

供給>需要の日本で、どのようなプロセスでハイパーインフレが起こるのか?
おそらくそれは人々が日本の財政に見切りをつけたときでしょう。
キャピタルフライト。
単純に日本円に見切りをつけて、円を外貨に換えて身を守ろうとしたとき。
多くの人が恐怖に襲われたとき。
それは起こると思います。

⑦については納得する部分がなくはないですが、対外純資産は民間の資産です。
それを日本政府の債務と相殺するためには、民間資産に対する徴税が必要となります。
税は基本的にキャッシュフロー・益金にかかります。資産にかかるものではありません。
民が稼いだものの一部を国が徴収し、徴税を済ませて残ったものは民の財産として自由な処分が許される。
これが太古からの税の基本的な約束事です。

日本でも戦後、新円切替とともに財産税が課されましたが、あれは破綻の一形態です。
対外純資産があるから財政破綻しないというのは、約束を反故にして民間財産を没収すれば破綻しないと言っているに等しく、やはりどこか理屈がおかしいと思います。


財政破綻の現実味

先日三菱東京UFJ銀行が国債のプライマリーディーラー資格を返上して話題になりましたが、「2016/6/13 三菱東京UFJ銀行が国債入札離脱 ― 日本国債の信認崩壊へ」で書いた通り、悲痛な思いで三菱は日本国債を見限ったことがわかります。

また、財務省は表向きは日本国債のデフォルトはないと主張していますが、審議会では相当突っ込んで財政破綻の可能性を議論しています。

財政制度分科会(平成27年10月9日開催)議事録 
https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/proceedings/zaiseia271009.html

「2020年度の目標必達で、本当は将来に財政破綻が待っているということも示されていますが・・・」
「長期推計上では、2020年度もそうですが、財政破綻につながるということでございますので・・・」

もはや財政破綻は架空の設定ではなく、現実味を帯びてきています。

財政破綻の形態にはおおまかに「デフォルト」「預金封鎖」「ハイパーインフレ」があります。
どれも政府当局が適切な運営を行えなかったときに起こります。

そもそも財政破綻とは、それほど珍しいことではありません。
どんな国でも100年に一度程度は運営にしくじり、財政の維持継続を断念することになります。
日本も70年前に新円切替と預金封鎖いう悲劇がありました。

現状の日本を見てみると
・デフォルト-マイナス金利は一部デフォルトです。
・預金封鎖-マイナンバーで国民財産を補足しています。
・ハイパーインフレ-通貨を増やし続ければ、いつかは必ず起きます。

そこに加えて、消費増税断念やメガバンク筆頭の国債入札離脱。
人口減少。
この百年でこれほど材料のそろったことはありません。
現在の日本は、財政破綻までそう遠くない所にいるのかもしれません。

次回はまとめと今後の展開について考えてみたいと思います。

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