前回「マイナス金利の先にあるもの6 - アベノミクスとは何だったのか?」では、アベノミクスとは市場の期待によって形成された為替の恩恵であったこと。しかし増やしたお金が期待通り使われなかったために、為替のピークアウトとともに効果がなくなってきているということを書きました。

ちょうど3/16からG7を前に「国際金融経済分析会合」が行われています。
その中でクルーグマンやスティグリッツが消費増税をやめさせるよう、安倍首相を説得しに来るのではないかと話題になりました。

クルーグマン、スティグリッツ。
ともに大御所経済学者であり、ノーベル賞受賞者。経済学の教科書も書いています。

クルーグマンは金融政策論者であり、今回のアベノミクスの理論的支柱でした。
しかし現在ではその誤りを認め、量的緩和は効かなかった。日本経済の問題は人口現象だったと述べています。

スティグリッツは財政政策論者であり、日本経済の問題は需要不足であり、財政出動でこれを埋めるべきだと説いています。
しかしスティグリッツの言う通り大規模な財政出動をやったとしても、効果があるかは疑問です。
その実験は小渕政権・麻生政権で実施済みであり、GDP比で戦時中に匹敵する財政出動を行いましたが、結果は日本の財政を悪化させただけで終わりました。

彼らはなぜ失敗した案を何度も持ってくるのか?
理由はいくつかあると思います。
・海外から見ているため、日本の現状を理解していない。
・そもそも経済学自体が未発達なため、他のソリューションを持っていない。

世界屈指の経済学者も、日本経済を回復軌道に乗せる解決方法を提供するのは難しそうです。
本当に日本経済に打つ手はないのか?
解決方法を考える前に、日本経済の現状を見てみたいと思います。


人口
まずは日本の人口の推移です

population
http://www.stat.go.jp/data/nihon/g160302.htm

経済とは人間の行動量をお金の単位で量ったもの。
technoteはそんなイメージを持っています。

実質成長率とは人口増加率+α
αには就業率・労働の質、発明・発見・インフラの充実などによる効率化などが含まれます。

総人口は2008年にピークアウト。
生産年齢人口はすでにその前1995年からピークアウトしています。

このうち経済規模を考えるのに重要なのは総人口です。
供給側は機械化などで対応できますが、機械が需要してくれるわけではありません。


需要不足なのか?
よく言われる需要不足。
これは本当なのか。

 需要(じゅよう)とは、財に対する購買力の裏づけのある欲望。
 消費者側の「買いたい」という意欲。(wikipedia)


では実際どのくらい消費があるのか、消費税収から見てみましょう。

ippankaikei

http://www.mof.go.jp/tax_policy/publication/brochure/zeisei/04.htm


上記は一般会計における税収推移です。
消費税率は平成1-8年が3%、平成9-25年が5%、平成26年以降が8%です。
消費税収はほぼ税率に比例していることがわかります。

消費税収から逆算される消費額は以下のようになります。

shouhigaku

消費税収から逆算される消費額は景気変動に関係なく、だいたい200兆前後だということがわかります。
人口減少、デフレ、実質賃金減少。その割には消費は健闘しています。
しかし小渕政権の42兆の景気対策や、麻生政権の75兆の金融危機対策は、いったいどこへ行ったのでしょうか?


完全雇用で需要は一定
日本は長期にわたり失業率はほぼ一定で、完全雇用と言っていい状態にあります。
ここに公共事業を増加させるとどうなるのか?

ある程度は公共事業にかかわる人たちが残業などで対応するでしょう。
他の事務系労働から土木系労働に移る人もいるでしょう。
しかしもともと完全雇用なのですから、国全体としてみれば労働者が増えるわけではありません。
職を得た人が消費を増やすということにはならないのです。

残業で収入を増やした人も、それほど消費を増やすわけではありません。
人はお金を得ても不必要なものを買うわけではありません。
一日6食食べるわけにはいかないし、2枚の服を重ね着することもありません。
2台の車に同時に乗ることもできないのです。

需要には限界があります。
グラフで見た通りお金があってもなくても、景気が良くても悪くても、人の消費量は一定です。
消費量は人口の関数ということが言えます。

金融政策も財政政策も、雇用には効きます。
ドラスティックに労働者をレイオフする欧米では、経済政策によって雇用が増え、経済を回復軌道に乗せることができるのですが、完全雇用を継続している日本ではそれらは効き目がありません。

小渕政権や麻生政権の財政出動のアウトプットはおそらく、大半が労働者の貯蓄に消えたのでしょう。
つまり民間はこれ以上お金が増えても使わない状態。
富の偏在があっても、マクロとしては需要の力は完全に使い切っていて、ほとんど伸びしろがない状態ではないかと思います。


減税も効果なし
失われた20年の間、たびたび減税が行われてきましたが、それも効果がありませんでした。

所得税減税

shotokuzei

法人税減税

houjinzei


民にはお金が余っています。
アベノミクスでいくらお金を積んでも、だれも借りませんでした。

エコポイントや商品券も同じでした。
月20万円消費する人に2万円の商品券を配ったら、18万の現金と商品券で買い物をしただけでした。

減税が効果がないのも同じ理由だと思います。
お金は制約条件のうちの一つにすぎません。
お金がなくて何かができない人は、完全雇用の状態においては、ほとんどいないのです。

お金が余っているところにお金を増やしても、人は余計な消費をしないようです。

金融政策、財政政策、減税。
どれも効果がないように見えます。 

完全雇用であり、現状で日本経済はすでに全力を出している。
しかし全力なのにプライマリーバランスをしていない。
これがそもそもおかしいのではないか?
そんな気がしてきます。

なぜ日本の財政はこれほど行き詰まってしまったのか?
次回はその原因を考えてみたいと思います。

読者登録してね 

↓他のブログも読んでみる?