前回「マイナス金利の先にあるもの5 - 経済学は間違いだらけ?」では、アベノミクスの信奉する経済理論自体が間違っていたのではないか。
また、日本経済は潤沢な資金とゼロ金利下で既に全力で走っていて、これ以上お金を増やしても誰も使わず、成長しないのではないかということを書きました。

ちなみにtechnoteはアンチ安倍首相ではありません。一期目におなかが痛くなってやめたときは、なんだかなと思ったこともありましたが、人柄は嫌いではありません。
また、戦後レジームからの脱却を目指して奮闘している姿は、やはり応援したくなります。
しかし経済政策については、その採用した経済理論がそもそも誤っていた可能性があり、アベノミクスは結果を出せずに終わるかもしれないなと思っています。



Rethinking Japan

アベノミクスとはいったい何だったのか?
アベノミクス第一の矢・金融政策で採用したリフレ理論については、誤りが指摘され始め、その理論的支柱であったクルールマン教授自身も、NYタイムズに寄稿した「
Rethinking Japan」でその間違いを認めています。
クルーグマン教授はエキセントリックな言動で知られ、白川総裁時代に大規模なリフレーション政策を取らない日銀に関して「総裁を銃殺せよ」などと発言したとされています。
しかし
Rethinking Japan」では一転して、日本に関して量的緩和政策は効果がなかった。日本の問題は人口問題だったと語っています。


マサチューセッツ・アベニュー・モデル

ちょっと寄り道してクルーグマン教授の功績について。
クルーグマン教授はノーベル賞を受賞し、経済学の教科書も執筆している経済学者です。

彼は民主党の政策ブレーンであり、クリントン政権ではマサチューセッツ・アベニュー・モデルを提唱して、日本に対して非常に厳しい対応を取ったことでも知られています。 


マサチューセッツ・アベニュー・モデルというのは簡単に言うと、マンデル・フレミング・モデルに為替の考え方を加えたものです。

マンデル・フレミング・モデルというのは、長くなるので端折りますが、変動相場制ならば財政政策の効果は薄れてしまうので、金融政策を用いた方が効果が高いという考え方です。 

そして金融政策の中でも、為替は期待で変動する性質があるからこれを利用する。 

為替を変動させるには、介入などしなくていい 。アメリカが本気であることを示せば、為替は期待で動く 。
クルーグマンはそう考えました。


そして時のクリントン政権は日本に年次改革要望書を突き付け、経済戦争も厭わない姿勢で日本に市場開放を迫りました。
ジャパンバッシング・円高不況・スーパー301条。
クリントン政権発足後しばらくの間は、これらの言葉がテレビに出てこない日はありませんでした。 
当時technoteは何もわからず、アメリカから若くて格好いい大統領が出てきたなとか、スーパー301条という名前がなんかカッコイイくらいの認識しかありませんでした笑

日本が圧力に屈して市場を開放し、大きな資金が日本に流入すると見た市場は、 先回りして円買いに走りました。

この時の円高はレベルが違い、バブル崩壊の後遺症の残る日本に致命的な打撃を与えました。
リーマンショック後にようやくその高値を更新しますが、強烈な円高を作り出したにもかかわらず、当時クリントン政権は一切為替介入をしていません。

クルーグマンの言っていた通り、アメリカが本気だということを示せば、実態から乖離した円高だって作り出すことができたのです。
当時のクリントン政権は、為替の恩恵で経済を上向かせることに成功しました。
そして今回、
アベノミクスも似たところがあります。 


アベノミクスとは為替
アベノミクス三本の矢-金融政策、財政政策、規制緩和。
このうち効果があったのは、金融政策だけだったと思います。

sanponnoya

http://www.kantei.go.jp/jp/headline/img/20160201/sanponnoya.gif

異次元緩和で日銀が国債を買って、銀行に現金を積み、いつでも使える状態にしました。

この現金で海外資産を買うことだってできます。
国内で使い道のないお金が海外に出ていくのではないか。
M&A、不動産。中央銀行が無理やり増やした桁違いのお金で海外資産を買う。 

そんなことが起こるのではないかと予想した市場は、円売りに走りました。

為替は通常、実需―つまり貿易で動きます。
日本企業が海外にモノを売れば、受け取った外貨を日本円に転換しないと新たな仕入れや投資、社員への給与支払いができません。
日本企業による円転で為替は円高になります。
それが輸出にブレーキをかける。
為替の本来の調節機能です。

しかし異次元緩和によりそれ以上の投機マネーが期待として市場に流れ込み、円は為替本来の調整機能によって決まる水準を超えて売られ、大幅な通貨安特需により日本企業には「実際に」実力以上の利益が発生しました。

貿易均衡点を超えた為替によって作られた海外特需。
アベノミクスとはこれだけだったように思います。
2015年6月24日につけた日経平均20952円は、実力以上の株価だったのかもしれません。


存在するお金と使われるお金
ところが現実には市場の期待に反して、現金はほとんど動きませんでした。 

確かにM&Aなどは2015年に10兆円を超え過去最高となりましたが、日銀当座預金口座の250兆を超えるお金は眠ったままでした。 

それがわかってきたため、今は少し円高に戻りつつあるのでしょう。

しかし円高が落ち着き先かというと、それも疑問です。
日本の個人金融資産は1000万円を超え、どこにそんなお金があるんだろうと思うくらいですが、現実の生活水準は資産数百万円レベルでしょう。
実際に存在するお金と現実に使われるお金の差が大きすぎるのです。
実際に存在するお金の量から見ればもっと何倍も大きな円安になるはずですが、現実に使われるお金が小さいので、はるかに円高な水準で落ち着いてしまいます。

これは需要不足が原因ではないと思います。
前回も書きましたがゼロ金利下で日本経済が常に全力で走って来たことを考えれば、これ以上お金を増やしても需要が喚起されることはなさそうです。
お金はいくつかある制約条件の一つでしかなく、現状は行き過ぎた金融緩和により、使い切らないお金が民間にあふれている状態だと思います。

現実に社会で必要なお金と、実際に存在するお金の大きなギャップ。
実際に存在するのだから、いつ大きな流れとなってもおかしくありません。
経済規模を超えたお金は行き場を探して、今後もボラタイルな金融相場を形成すると思います。

USD



行き止まりなのか?

―為替―
市場の大きすぎる期待に助けられたアベノミクス。

その他の二つ、財政政策と規制緩和は、それほど影響の大きいものではありません。
財政政策は20兆円規模の公共投資でもちろん額は大きいのですが、小渕政権や麻生政権の財政出動ほどではありません。
規制緩和も橋本政権の金融ビッグバンのように記憶に残るようなものではありません。
そもそもそれらを実行した当時でも、大して経済が上向いたわけでもなく、財政悪化・経済縮小は止まりませんでした。

金融政策もダメ、財政政策もダメ。
本当に日本経済に打つ手はないのか。
次回以降、ソリューションについて考えてみたいと思います。


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