前回「マイナス金利の先にあるもの2 - 日銀は財政破綻ボタンを押したのか?」で、最後は財政破綻まで行ってしまうかもしれないなんてことを書きましたが、もちろん日銀がそんなものを目指してるわけがありません。
ではなぜ日銀がマイナス金利を導入したのか?

また日銀の異次元緩和やFRBのQEはリフレーション政策と呼ばれますが、総じてインフレの醸成には成功していません。
なぜうまく行かないのか?
順番に考えてみたいと思います。


マイナス金利の効果


先日の日銀のアナウンスメントにはこうあります。
「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」では、「量」・「質」・「金利」の3つ の次元のすべての金融緩和手段を駆使して、金融緩和を推進していく。①当座 預金金利のマイナス化によりイールドカーブの起点を引き下げることと、②大 規模な長期国債買入れとをあわせて、金利全般により強い下押し圧力を加えて いく。
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2016/k160129b.pdf

金利を無理やり引き下げることによって、景気を刺激しようという作戦ですね。
しかし2%の物価目標の度重なる後ズレなど、これまでの日銀の目論見は総じて成功していません。
マイナス金利になると本当に物価目標が達成できるのか、また、景気は刺激されるのか?
これまでの様子を見るとちょっと疑問です。

量的緩和は本当にインフレ効果があるのか?

マイナス金の前に、量的緩和の効果について考えてみたいと思います。
ここから先、経済学の教科書に反することばかり出てきます。
そうです。「ボクの考えた経済学」です。
適当に聞き流してください笑

リフレーション政策の理論的支柱になっているのが、「フィッシャー方程式」と「貨幣数量説」です。
フィッシャー方程式:予想実質金利=名目金利-予想インフレ率
この「予想」は「期待」と言い換えることもできます。
黒田さんの言ってる「期待に働きかける」というのは、ここで出てきますね。

日銀はこれまで長らくゼロ金利政策を続けてきました。
名目金利がゼロ近傍で張り付いてしまえば、それ以上金利を下げることはできません。
その状態で人々がデフレを予想すると、実質金利が高くなってしまいます。
予想実質金利(↑)=名目金利(フラット)-予想インフレ率(↓)

そこで通貨を増やすことにより人々の期待に働きかけ、デフレ予想をインフレ予想に変えることにより、名目金利を下げることができなくても実質金利を下げることができるというわけです。
予想実質金利(↓)=名目金利(フラット)-予想インフレ率(↑)

通貨を増やすとなぜインフレ予想に変わるのか?
ここで出てくるのが貨幣数量説です。
これはいくつかの理論の集合体であり、フィッシャーの交換方程式やマーシャルのケンブリッジ方程式など様々なアプローチで説明されますが、ざっくり言うと、「インフレかデフレかは、世の中の物の量とお金の量で決定されますよ」という内容です。
デフレになるのは物に対してお金の量が少ないからであり、お金の量を増やせばインフレになるというわけですね。
でもこの話、本当でしょうか?

予想インフレ率は上昇しなかった

大学生の頃最初にこの話を聞いた時、強い違和感を覚えた記憶があります。
ちょっと乱暴じゃないか?
物価が貨幣量だけで決まるなら、こんな楽なことはない。中央銀行は完全に物価を支配できる。世界中インフレやデフレの心配はない。需要や供給はどうでもいいのか?
疑問はいくらでも湧いてきます。

理論はともかく、実際にやってみた結果はどうだったのでしょうか。
BEI

上記は予想インフレ率を説明するときによく使われるブレイク・イーブン・インフレ率です。
予想インフレ率は直接計測できないので、物価連動債の市場価格と通常の利付債の市場価格の差をもって、市場が物価をどの程度と予想しているかを計測しています。

黄色が名目金利、緑が実質金利と考えていいのですが、そこから計算されるオレンジの予想インフレ率は、右肩下がりに見えませんか?

BEI2

http://www.bb.jbts.co.jp/marketdata/marketdata05.html

ちなみに2013年の10月頃に大きなギャップがあって、消費税導入を決めた時期と重なるため、消費税ショックだという人がいますが、これは勘違いです。
対象となる物価連動債を切り替えたためこのようなギャップが生じているだけです。

予想インフレ率が上昇していたのはバズーカ1の直後くらいまでで、その後は予想インフレ率は低下傾向ということがわかりますね。
理論はともかく現実には、日銀はインフレ期待の醸成に失敗しています。

リフレ理論は本当に正しいのか?
疑問に思わざるを得ません。続きます。


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