今の地域に住み着いてから生まれ育った場所と丁度半々位の年月が経つ。
今週は初めて雪が降ったけれど、日陰の屋根に1〜2センチ積もる程度。
太平洋側なので雪も少なく寒いだけで仕事に行くのも躊躇してしまう。
祖母の家は私が子供の頃は毎年1メートルは雪が積もる日本海側の地域。
今は年に数回30〜40センチ積もる程度だけれど・・。
思えば、子供の頃はお金には代え難いとても贅沢な環境に居られたのだと
眼下に広がる人工的なビル郡を見ながら改めて思う。
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隣の民家まで100メートル以上離れ私道の一番奥になる為
いつも耳に入る音といえば風でゆれる葉の音や小川の流れる音。
春〜夏にかけては鶯が盛んに歌い、小鳥のさえずりも沢山聞こえる。
連休頃に一斉に田植えをした後は蛙の合唱が響き
夏休みはセミの声が響く。夕立の前は蜩が鳴くから慌てて家に戻る。
初秋からは虫たちと交代し、夜な夜な演奏会が繰り広げられる。
車もめったに来ないため、聞こえるのはただ自然の音だけ。
冬以外は窓を開け放しているため、外に居るのと変わらない環境。
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冬のある日、小学校からの帰り道に鼻の奥がツンとするような
独特の匂いを感じることがある。空を見上げると厚いけれど
軽さを感じる雲に覆われている。
その頃からにわかに風が強くなり、少し怖くなって私道を一人
大声で歌いながら帰る。気温も一気に寒くなり震え上がる。
家に居ても強い風の為、ガラス窓や障子がガタガタと揺れるのを
聞き、ソワソワした気持ちで宿題を済ませていた。
夜布団に入り耳を澄ますと風は止み、外で聞こえていたはずの
葉の揺れや川の音が消えている。耳の奥で「キーン」とした
音が聞こえ始めると、底冷えする寒さが少し和らいでくる。
障子を見ると夜なのに明るくなっている事に気づくと
寝静まった部屋の障子を静かに開け、縁側から窓の外を
そっとのぞく。普段暗いはずの庭が白く浮かび上がっていた。
窓ガラスには時折ボタン雪が張りつき結晶の形が見える。
風もなく深々と空から沢山の白い雪が降っていた。
雪は夜の間に景色を白く覆い隠してしまう。
どんな生活をしていても、辛いことがあっても、それを全て
優しく包み込むように。ふわりとなくしてしまうように。
翌朝、朝起きるのが苦手な私が珍しく早く目が覚める。
台所で朝食の用意をする祖母の横にあるストーブの前で
急いで着替えを済ます。
その日の朝食は覚えていない。急いでかきこんだらいつもより
早く家を出る。近所の子との待ち合わせに遅れないように。
玄関を勢いよく開けると、よく晴れた青い空と一面真っ白な世界。
祖父は既に仕事に出かけているため、玄関から大人の腰ほどある
深い雪でも、私が歩いて300m先の公道に出れるようにすり足で
出て行った跡が見える。
私は真っ先に縁側の前にある花壇の奥に行き、そこから一段下にある
平坦な場所へ両手を広げたまま後ろ向きにダイブする。
羽の中に落ちたようなやわらかい感覚があり、そのまま沈み込む。
見上げると気持ちのよい青空。雪と一体化して大きく深呼吸をすると
自分の心の中も真っ白になるような気がしていた。
そっと起き上がり、花壇に戻って上から見るときれいに人型ができている。
誰も足を踏み入れていない真っ白な場所に最初に踏み入れられる時間。
祖母に怒られないよう、溶けずに粉まみれになったようなコートや
ニット帽と手袋を急いではたき、玄関脇に置いていたランドセルを
しょって歩幅の違うあしあとを辿りながら急いで公道へ向かう。
そのことについて確信的な証拠が残っているにも関わらず、
あとでも怒られることはなかった。
全てが真っ白に変わった景色の中、私の赤いリュックはその中で
とても色映えしていたのかもしれない。
今週は初めて雪が降ったけれど、日陰の屋根に1〜2センチ積もる程度。
太平洋側なので雪も少なく寒いだけで仕事に行くのも躊躇してしまう。
祖母の家は私が子供の頃は毎年1メートルは雪が積もる日本海側の地域。
今は年に数回30〜40センチ積もる程度だけれど・・。
思えば、子供の頃はお金には代え難いとても贅沢な環境に居られたのだと
眼下に広がる人工的なビル郡を見ながら改めて思う。
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隣の民家まで100メートル以上離れ私道の一番奥になる為
いつも耳に入る音といえば風でゆれる葉の音や小川の流れる音。
春〜夏にかけては鶯が盛んに歌い、小鳥のさえずりも沢山聞こえる。
連休頃に一斉に田植えをした後は蛙の合唱が響き
夏休みはセミの声が響く。夕立の前は蜩が鳴くから慌てて家に戻る。
初秋からは虫たちと交代し、夜な夜な演奏会が繰り広げられる。
車もめったに来ないため、聞こえるのはただ自然の音だけ。
冬以外は窓を開け放しているため、外に居るのと変わらない環境。
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冬のある日、小学校からの帰り道に鼻の奥がツンとするような
独特の匂いを感じることがある。空を見上げると厚いけれど
軽さを感じる雲に覆われている。
その頃からにわかに風が強くなり、少し怖くなって私道を一人
大声で歌いながら帰る。気温も一気に寒くなり震え上がる。
家に居ても強い風の為、ガラス窓や障子がガタガタと揺れるのを
聞き、ソワソワした気持ちで宿題を済ませていた。
夜布団に入り耳を澄ますと風は止み、外で聞こえていたはずの
葉の揺れや川の音が消えている。耳の奥で「キーン」とした
音が聞こえ始めると、底冷えする寒さが少し和らいでくる。
障子を見ると夜なのに明るくなっている事に気づくと
寝静まった部屋の障子を静かに開け、縁側から窓の外を
そっとのぞく。普段暗いはずの庭が白く浮かび上がっていた。
窓ガラスには時折ボタン雪が張りつき結晶の形が見える。
風もなく深々と空から沢山の白い雪が降っていた。
雪は夜の間に景色を白く覆い隠してしまう。
どんな生活をしていても、辛いことがあっても、それを全て
優しく包み込むように。ふわりとなくしてしまうように。
翌朝、朝起きるのが苦手な私が珍しく早く目が覚める。
台所で朝食の用意をする祖母の横にあるストーブの前で
急いで着替えを済ます。
その日の朝食は覚えていない。急いでかきこんだらいつもより
早く家を出る。近所の子との待ち合わせに遅れないように。
玄関を勢いよく開けると、よく晴れた青い空と一面真っ白な世界。
祖父は既に仕事に出かけているため、玄関から大人の腰ほどある
深い雪でも、私が歩いて300m先の公道に出れるようにすり足で
出て行った跡が見える。
私は真っ先に縁側の前にある花壇の奥に行き、そこから一段下にある
平坦な場所へ両手を広げたまま後ろ向きにダイブする。
羽の中に落ちたようなやわらかい感覚があり、そのまま沈み込む。
見上げると気持ちのよい青空。雪と一体化して大きく深呼吸をすると
自分の心の中も真っ白になるような気がしていた。
そっと起き上がり、花壇に戻って上から見るときれいに人型ができている。
誰も足を踏み入れていない真っ白な場所に最初に踏み入れられる時間。
私が今形として存在する事を自分の目で確かめるように。
祖母に怒られないよう、溶けずに粉まみれになったようなコートや
ニット帽と手袋を急いではたき、玄関脇に置いていたランドセルを
しょって歩幅の違うあしあとを辿りながら急いで公道へ向かう。
そのことについて確信的な証拠が残っているにも関わらず、
あとでも怒られることはなかった。
全てが真っ白に変わった景色の中、私の赤いリュックはその中で
とても色映えしていたのかもしれない。