私事ではあるが、現在筆者はある大学で非常勤講師として、初年度の学生に地球環境とエネルギーについて講義しているところだ。
大学に入ったばかりの初々しい学生が相手なのであるが、毎年、気になるところがある。
それは火を使ったり、ナイフを扱ったりした経験の乏しい学生が相当数いることである。
つまり子供の頃に危険なことをしてはいけないという教育が行き届いた世代であるということである。


 さてTEDコンファレンスという米国発の講演会があってネット上でその動画が提供されている。
TEDはTechnology Entertainment Designの略であるが、基本的には広める価値のあるアイデアを社会に紹介していこうという米国の私的なグループの活動である。
私的な活動ではあるものの、クリントン元大統領やゴア元副大統領もここで講演したことがあるので、ただならぬ活動であると言える。
TEDには教育関連の講演も数多く行われているが、つい最近「子供にさせるべき5つの危険なこと」という講演の動画を見つけて、講演者のゲーバー・タリーが、筆者と同じことを考えているのを見つけて我が意を強くした。
もちろん彼は考えだけではなく、子供向けのサマースクールを通じて彼が子供に必要と考える体験をさせているという実践の人である。


 彼は講演の中でユーモア混じりにかつ聴衆の反発を受けないように注意深く、子供には大人が危険であるとして、子供たちをそれから遠ざけるような経験を、逆に経験をさせるべきであると提案している。
彼はその例として、「火を使って遊ぶこと」、「ナイフを持つこと」、「槍を投げること」等を挙げている。
彼はこれらの体験によって危険への対処の仕方を知ることができると言っているが、これらを体験することによってリスクを負いながらも、子供たちは自然の基本的な力をコントロールする技を学び、また自分自身の力を拡大する方法を学び、そして三次元的な認識と問題解決能力を学ぶことができるとも言っており、筆者は後者こそ彼が言いたいことではないのかと考える。


 彼の教育が意図する通りの成果を上げているとすれば、子供時代に火で遊んだこともなく、ナイフを扱ったこともなく、ボール以外のものを投げたことのない人間は、自然の力と人間の力の関係や、人間の力を拡大する技術とそのコントロールについて、本質的な理解が薄くなる。
すなわち人間の力を拡大する技術を本能的に忌避する傾向を持つようになるのではなかろうか。
我が国においてそのような人々が必ずしも少数でないとすれば、科学技術に係る何かの問題の起こる度に、それは人間には制御不可能だとしてこれを否定する声が高まることがあっても不思議ではない。


サイエンスライター 朝田培九
この記事は2012/10/9電気新聞に掲載されたものです