待ちに待った東京スカイツリーが一般に開放された。
交通事故や通り魔などの暗いニュースが続く中で、久々の明るい前向きニュースである。
高さ634メートルにちなんだ様々なグッズや食べ物が開発され、それがタワーの地元だけでなく、63.4キロメートルの地点や、海抜634メートルの地域にまでおよんでいるのが、なんとも日本的で嬉しい。


 テレビの特集番組を見ていると、タワーを計画してから完成に至るまでの間に、多くの新しい技術が生まれ投入されている。高さにおいて未経験ゾーンであるが故の、苦難を乗り越える知恵であった。


 高所での強い風の中の溶接が困難であること、せまい敷地での超高層タワーの建築、冬場の着氷落氷対策、工事の精度への要求など、随所に難関があった。
それが従来からの延長線ではない新しい知恵を生み、知恵の実現に向けた新たな技術が生まれたのである。


 省エネ面を見ても、あれだけの大きなタワーのライトアップも、LEDとその配置の工夫で乗り越えているし、冷暖房も単なる外気温を使ったヒートポンプではなく、地中熱を利用している。
タワー建築に伴って、外観の華やかなオープニングの陰で、テクノロジー面の大いなる進化が伺える。


 技術開発を概観すると、精度や信頼性や寿命を上げるための研究開発と、未体験ゾーンの夢を実現するような研究開発と、二つに大きく分けられると思う。


 後者については、え!そんなことができるの!是非行ってみたい見てみたい!というように、人々に感動を与え、大きく国民の支持を得ることができる。
タワー以外では、瀬戸大橋に代表される大型吊り橋、TBM(トンネルボーリングマシン)を利用した地下工事、宇宙開発技術、原子力の平和利用技術など、今や当たり前になった多くのものが挙げられる。


 一方、前者はちょっと地味なものだ。ややもするとあって当たり前、普通に動いて当たり前と思われ、何かトラブルが起きると、批判や攻撃の対象になりかねないものである。
開業初日に風の影響を配慮して、安全面から停止したタワーのエレベーターのように、安全面を重視したことではなく、利用できなくなったことへの不満の方が、ニュースになっている。


 とかく後者はもてはやされ、前者はマイナスの事柄のあった時に大きく取り上げられる。
その差は何から来るのであろうか。
やはり後者は、実現できたこと自体が感動を与え、その安全性や信頼性は二の次になっているのであろう。


 一方、あって当たり前になった前者の技術の改善は、いかに信頼性が高く安全性が高くなっても、一回の失敗も許されないのであろう。
研究開発する人間から見たら、どうしてマスコミや国民の理解が得られないかと思うだろうが、テクノロジーとはそんなものなのだ。


サイエンスライター 高岡章喜
この記事は2012/6/12の電気新聞に掲載されたものです