トヨタのハイブリッド車プリウスにいたる技術開発と国際ビジネス展開の話を伺う機会があった。
米国の排気ガス規制への挑戦からはじまり地球温暖化を契機とする将来のサステナブル自動車に至るまでの、リーディングカンパニーとしての壮大な構想とプロセスを伺い、筆者はこれを目下騒がしい原子力の国際展開論議と対比せざるを得なかった。
印象に残ったのは、自動車は不特定多数の一般顧客が対象かつ国際的なビジネス展開が当然、という点での原子力との差である。
今までのわが国の原子力は電力会社など特定顧客対象かつ国内ビジネス展開で事足れり、としていた。
しかし国際市場が相手のトヨタは国際的な政治的環境的要求に対して、不可能を可能とするような技術開発やビジネス展開は当然で、他社に一歩も二歩も先んじた哲学を先見的に打ち出す経営層のメッセージとそれに共感・共鳴する技術者や社員の存在がキー
のように感じられた。
創業者豊田佐吉翁の“ものづくり”の心と言葉、「そこの障子を開けてご覧、外は広いぞ」は印象的だ。
その風土が、大企業といえども一朝事とあれば部門の壁を超えたタスクフォースが機能して企業の総合力が発揮され、さらに製品に対する顧客・販売店への執拗なまでの支援サービスのフォローアップという企業行動を生んでいるのだろう。
わが国の原子力国際展開はどうか。
ともすれば国際受注合戦の勝敗に目が行き、また原子力技術保存のために国際展開が必要、という声が大きい。
しかしわが国は核非保有国で唯一再処理が認められている国だ。
その背景には、1977年からの国際核燃料評価会議の基盤でもあったであろう「核兵器のない平和な世界を原子力の賢明な利用によって築いてゆこう」という大きな哲学があるはずだ。
世界の人々一人ひとりに原子力の恵みを電気や水、放射線利用等の形で届けようという原子力関係者の思いが込められているといってよい。
核非保有国のわが国の原子力プラント国際展開にあたって、特に途上国に向けてはこうした哲学や構想を堂々と打ち出していくべきではないか。
具体的な展開に当たっての顧客ニーズと社会・国際情勢に柔軟に対応するだけの技術力の蓄積は十分あるはずだ。
途上国向けの新型炉開発等でその技術資産が十分に活かされない規制などの壁があれば、官民協力して取り払えばよい。
「プロダクトアウトや収益第一」では途上国は発注に二の足を踏むだろう。
サイエンスライター 世野和平
この記事は2010/9/28の電気新聞に掲載されたものです