ある産業施設を建設するとき、それが大気汚染防止法の対象施設に該当し、環境汚染物質、硫黄酸化物や窒素酸化物の排出基準の遵守義務が生じるとする。
発電所なら、ばい煙のケースをとれば公害防止に関して「大気汚染防止法第二条第二項に規定するばい煙発生施設に該当する電気工作物に係るばい煙量又はばい煙濃度は○○○の排出基準に適合しなければならない(発電用火力設備に関する技術基準を定める省令 第四条)。」となるかも知れない。



 排出基準に適合するにはどのような技術オプションがあるのか?
わが国の排煙対策技術の情報収集を試みても、各重工メーカの壁を超えて、広範囲に必要な技術データ(規模、原理、性能、価格など)を得るのは難しい。
まして、法規制当局はそんな情報サービスは提供していない。



 US EPA(米国環境保護庁)の場合はどうか?BACT (最善入手可能抑制技術) /RACT(適性入手可能抑制技術)は、大気浄化法(CAA)のもとでの要求技術である。
BACT及びRACTは、それぞれNAAQS(国家大気環境基準)の達成地域及び未達成地域で要求される技術である。
BACTを例にとれば、規制当局は、必要なデータの提供を含め、BACT選定をどのように行うかを示している(あるプラントにどのような脱硝技術オプションを選ぶかといったようなこと)。
概略のステップは、
①あらゆる環境対策技術を明らかにする、
②技術的に不可能なオプションを除外する、
③残った対策技術を効果に応じてランク付けをする、
④もっとも効果的な技術を評価する、
⑤BACTを選定する。



 EU(ヨーロッパ連合)ではどうか?BAT(最善入手可能技術)はよく知られている。
IPPC(統合的環境汚染防止および抑制)指令ではBATの採用は一つの柱である。そのため、様々な産業技術のBREF (BAT 参照ドキュメント)が作成されている。
例を上げると燃料、プラントタイプ、既設・新設の組合せに対応するBATの有するべき発電効率、SO2、NOxおよびばいじんの排出濃度などの情報である。



 もちろん、USEPAやEUとわが国の法規制の形態は異なっているが、環境汚染物質の排出基準を設定するには、現実的に適用可能な環境対策技術は不可欠である。
排出基準に適合する技術情報のサービスの提供は規制する側の責任の一部ではなかろうか?
加えて、わが国の環境対策の技術オプションデータベースを作成することは、個々の技術メーカの壁を越えて国レベルで総力化された技術を示すことができるのではないか?


サイエンスライター 新井隆介
この記事は2010/7/20の電気新聞に掲載されたものです