昨秋、カザフスタンに行く機会があった。

カザフスタンは、2006年に小泉元首相が訪問するまでは、わが国にとってあまりなじみのある国ではなかった。

カザフスタンは1991年に旧ソ連の崩壊とともに独立した。

中央アジアに位置し、北にロシア共和国、東に中国と国境を接する。

キャビア通ならよくご存知のカスピ海はカザフスタンの西部にある。

カザフスタンは石油、天然ガス、ウランをはじめとする様々な鉱物資源に富み、これらの輸出がカザフスタン経済の要となっている。

小泉元首相の訪問理由が資源外交であったことは言うまでもない。

今日、カザフスタン共和国は旧ソ連の経済形態を脱し、経済制度の基盤が整い、2003年に、大統領令「2003-2015年に向けた革新的産業開発戦略」が出され、世界経済の一員になる過程を歩みつつある。

先進的技術を必要としており、また、環境汚染の低減や廃棄物管理のための技術も必要としている。

わが国は技術立国を標榜しており、こうしたニーズに対して支援や協力の機会を十分に提供できるものと考えられる。

カザフスタンでは、アルマトイ市及びアスタナ市にある政府関係機関、企業団体、国際機関、NPOなど10箇所以上の機関を訪問した。

しかし、「日本」という言葉はあまり聞かなかった。良く耳にしたのは、「EU(ヨーロッパ連合)」である。

政策、技術基準、環境指標といった文脈の中においてである。

例えば、経済・予算計画省や産業貿易省でEUの政策や種々の基準が参考にされていた。

そのほか、訪問した2つのNPOにはどちらもEUの職員が支援していた。また、国際機関ではEUの補助金により活動が行われていた。

EUは、いわば、「外堀外交」をしたたかに、展開しているのである。

将来、気がつけば、EUの技術を採用するほかないといったことになるだろう。

「わが国の技術水準は世界最高峰である」、「環境対策技術は世界に冠たるものである」といったことはよく言われる。

しかし、自負するほどに世界で採用されたり、技術移転が進められたりしているのだろうか? 

性能がよいことは、例えば、環境対策技術で汚染物質の除去効率が95%であるといった性能のよさは、技術の大切な要件の一つである。

しかし、それだけで海外での技術の採用につながるとは限らない。

その国の政策や技術規定・規格に適合しなくてはならない。

わが国が世界に冠たる技術立国になるためには、技術の採用を可能にするような土壌、すなわち、人材育成も含め、産業政策・制度や技術規格をも移植・育んでいくしような「外堀外交」が必要である。




サイエンスライター 新井隆介
この記事は2008/3/11の電気新聞に掲載されたものです