あなたの知らない「観光。」産業について。 | technicalsharp358のブログ

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車や洗濯機、そしてスマホなど生活に必要なモノを一人一台持つ時代になり、欲しい

ものがあれば、楽天やアマゾンで注文と、とにかく「モノ」が世の中に有り触れるよ

うになったこの時代、私たちは自分で稼いだ給料を何に使うことが一番幸せなのでし

ょうか。

よく貧乏人は物質的なモノを手に入れることで幸福を感じるため、貧乏人の家にはモ

ノが多く、裕福な人たちは旅行など「体験」にお金を使うため、家にはモノが少ない

と言われますが、恐らく必要なものがすべて揃った裕福な先進国の人たちが、次に求

める「モノ」はアップルの最新製品ぐらいで、21世紀の消費は必然的に、「体験」に

シフトしていくことが予想されます。


21世紀最大の産業は自動車産業でなければ、宇宙産業でもなく、「観光産業」になる

と言われており、UNWTO(世界観光機関)によれば、1993年でその規模は自動車産業を

抜き、今後、ブラジル、ロシア、中国、そしてインドなどから中間層が生まれ、海外

旅行に行くと予想されることから、現在、世界8億人の観光人口が、2020年には2倍

の16億人に増加すると言われています。

さらに、ボーイングの長期予想によると、現在、1万9000機の民間飛行機が空を飛ん

でいますが、20年後にはそれが3万5000機に増えると見込んでおり、人々が求めるニ

ーズとインフラが一致したことで、自国を飛び出し、新しい体験を海外に求める人た

ちが、今後どんどん増えていくことは間違いありません。


そんな中、マスコミや政府関係者は、京都などに外国人観光客が増え、日本を訪れる

外国人が過去最高の1300万人に達したと騒ぎ、日本も世界を代表する「観光大国」の

仲間入りをしたと報じていますが、観光客が年間8473万人と自国の人口よりも多くの

人が訪れるフランスをはじめ、アメリカ、スペイン、そして中国など、世界を見渡せ

ば日本の1300万人の2倍、3倍なのは当たり前であり、日本は「観光大国」には程遠い

、「観光後進国」になってしまっていることに早く気づかなければなりません。


例えば、2010年にウォール・ストリート・ジャーナル紙が発表した、日本を含むア

ジア・太平洋地域のトップの観光産業国はGDPの14%を占めるカンボジアで、2位は

9.5%のマレーシアと香港が続きますが、日本はそれよりも遥かに劣る0.3%しかなく、

2001年の観光GDPで比較すると、スペインは日本の50倍もの観光産業が発達している

ことになります。



スペインの観光戦略で興味深いところは、日本のように「おもてなし」と国家全体で

戦略を打ち出すのではなく、その地域をもっともよく知る人たちに徹底的に戦略を考

えさせ、行動させるようにしているところで、例えば、マドリードの観光戦略にはサ

ッカーの名門チーム、「レアル・マドリード」が含まれていますが、観光都市世界一

となったバルセロナでは、世界最強として有名な「FCバルセロナ(バルサ)」は観光戦

略には含まれておらず、これはその年の成績が観光に影響してしまうのを避けるため

と、バルサは市民のためのチームであって、観光客のためのチームにしたくないとい

う市民の想いがあるようです。


スペインのサン・セバスチャンという街では、伝統的な料理界の弟子制度を廃止し、

様々な場所で学んできた料理人たちが、スキルを故郷に帰って共有し、「レシピのオ

ープン・ソース化」によって、わずか10年程度で人口一人あたりのミシュランの星の

数が世界ダントツ一位になりました。

サン・セバスチャンでは地元のビスケー湾で獲れた魚で料理することが基本で、共有

されたレシピと地元の新鮮な素材で作られた料理は、マドリードやバルセロナ、もち

ろん東京のスペイン料理では食べることができず、間違いなく「サン・セバスチャン

でしか食べることができない料理」であるため、わざわざ現地を訪れる価値があると

言えます。


2010年にミシュラン2つ星を獲得して以来、予約が殺到しているデンマークの「ノー

マ」も地元の素材、伝統的な調理法で料理を提供しています。

東京湾で獲れた旬の魚で握るのが江戸前鮨の基本であるように、江戸前鮨を提供し続

けるためには、まず東京湾を綺麗にする努力から始めなければなりませんが、外食チ

ェーンは増えるばかりで、まず食文化に対する考え方から変えていかなければならな

いのかもしれません。

バルセロナやサン・セバスチャンが独自の文化を作り上げ、観光産業を盛り上げてい

るのに対して、日本は各自治体で誰に何を伝えたいのか分からない「ゆるキャラ」を

作ってごまかそうとしたり、世界遺産に登録されれば、自動的に観光客がやってくる

だろうと安易に予想しているところを見ると、とても観光立国になるために真剣に考

えているとは思えません。

さらに、JR東海は「そうだ、京都へ行こう」というキャッチコピーを作って、京都観

光をアピールしていますが、京都で外国人観光客が落とすお金は一人あたり1万3000

円程度と、国際観光都市の水準と比べてかなり低く、結局儲かっているのは交通機関

のJRだけだというデータもあります。(新・観光立国論/デービッド・アトキンソン)


ゴールドマン・サックスのアナリストとして活躍し、現在は日本全国の国宝や重要文

化財の補修を行う「小西美術工藝社」の代表を務める英国人デービッド・アトキンソ

ン氏は、日本の観光産業が他の国と比べて劣っているのは、ゴールデン・ウィークに

代表される日本の祝日にあると指摘しています。

日本は世界で5番目に祝日が多い国で、国内の観光客が短期間集中しやすいのが特徴

ですが、裏を返せば、ゴールデン・ウィークになれば、そこまで苦労しなくても観光

客がやってきてくれるため、次から次へとやってくる観光客をどう効率的にさばくか

が、ホスピタリティーよりも優先されてしまい、脳みそに汗をかいて観光戦略を考

えようとしません。


これは東京オリンピックを5年後に控えた現在の状況にも似ていて、極端な話、世界

中が注目するイベントがあるわけなので、何もしなくても外国人観光客は右肩上がり

に増え続けますが、問題はオリンピックが終わった後のことで、日本の歴史や文化に

興味がある知識階級層や旅慣れた旅行者に、「京都の次」となる場所やモノをこちら

から提案していかなければなりません。


毎年、世界の幸福度ランキングで1位になるデンマークには、デンマーク人の幸せの

秘訣を探ろうと毎年多くの人が訪づれますが、フォーブス誌はある旅行者のエピソー

ドを次のように紹介しています。

ある女性がデンマークに滞在中、乗馬に行ったところ、現金でしか支払いは受けつけ

ないと言われたため、近くにATMはないかと係員に尋ねたら、支払いは乗馬を楽しん

だ後でよいと言われたらしく、この女性は、デンマークの人たちは互いに信頼しあっ

ているだけではなく、よその国から来た見知らぬ人のことまで信頼してくれるのだと

感じたそうです。


H.I.Sの創業者である澤田秀雄さんは、H.I.Sの社内では猛反対を受けながらも、1992

年の開業以来、一度も黒字になっていなかったハウステンボスの再建に乗り出し、「

ディズニーランドを越えよう」、「本物のオランダ以上の価値を出そう(ハウステン

ボスはオランダの街並み意識して作られている)」と指揮を取り、無料エリアにベン

チャー企業や娯楽施設など勧誘して、最終的にはエコロジーとエコノミーが融合した

観光ビジネス都市を長崎に作ろうとしています。


ハウステンボスが開業した1992年当時、日本人にとってオランダは遥か遠くの国で、

一生に一度行けるか行けないかの場所でしたが、現在は、時期さえ選べば、東京から

ハウステンボスに行く予算に少し上乗せするだけで、オランダに行けてしまうため、

ハウステンボスは本物のオランダ以上の価値を出さなければ、お客さんは来てくれま

せん。


ハウステンボスはほんの一例ですが、その他にも、日本は1平方キロメートルあたり

の動物、植物の数は世界一を誇っており、さらに、ユネスコ無形文化遺産になった和

食、そしてマンガ、歌舞伎、お寺など、日本はフランスやスペインと同じように観光

立国になる気候、自然、文化、食事の4つの条件を完全に満たしているにも関わらず

、外国人観光客が1300万人しかいないのは、あまりにももったいないように思います




ハウステンボスが開業した1992年、ソニー創業者の一人である盛田昭夫氏はある総合

雑誌に「日本型の経営が危ない」という論文を発表し、「良いもの安く」という哲学

で、大量生産と低価格を武器に世界市場を攻略していった当時の日本型の経営にイエ

ローカードを突きつけ、労働時間の短縮や環境保護、そして社会貢献など、いくつか

の改善案を提示しました。

それから20年以上経ち、この20年間、日本は成果報酬などを導入して、無理やり経済

を立て直そうとしてきましたが、この20年で私たちが失ったものは「お金」でも「時

間」でもなく、政治学者サミュエル・ハンティントンが指摘する「日本文明」そのも

のだったのかもしれません。


バブル崩壊以来、日本は過去の栄光を取り戻そうと、様々なことを行ってきましたが

上手く行かず、また観光立国などと言われたところで、机上の空論で終わってしまう

可能性もあります。

よく日本では、正論が通らないと言われますが、日本に20年以上住む英国人デービッ

ド・アトキンソン氏は、日本文化を客観的に分析して次のように述べています。

「事実を客観的に分析して、その結果がどんなに都合が悪くても、人間関係を悪化さ

せようとも、建設的な話ができると信じて指摘した結果、反発を招く。」


しかし、「反発」が強く、周りから絶対に変えることができないと言われても、何度

も何度も問題を指摘し続けているうちに、何かの拍子で正論が通ったことを何回か経

験しているとアトキンソン氏は述べており、「反発」が強ければ強いほど、この現象

が起こる可能性が高いと言います。

21世紀最大の産業である、観光産業がいまだに建設中心の国土交通省の管轄内にあ

る間は、当分動きは遅そうですが、それを壊すのがスタートアップなのか、H.I.Sの

ような大企業なのか、それとも全く違う分野の人たちなのか、2020年の東京オリンピ

ックまで残された時間は、もうほとんどないように思います。

※【訂正】記事を出した当初、スペインの観光GDPは日本の50倍とありましたが、こ

れは2001年のデータをもとに計算したものでした。2013年の日本の観光GDPは

16,865,000,000、スペインは67,608,000,000なので約2.3倍ほどしかありませんでし

た。申し訳ございませんでした。