朝は嫌いだ。
朝弱いし、低血圧だし。
理由はこれだけで十分なのにきわめつけはコレ。
私に群がりキャーキャー騒ぐやつら。
ほんとにやめて欲しい。
「相変わらずモテてんね」
急に話しかけられ思わず変な声が出てしまった。
「普段それやるのやめてって言ってるよね」
ツボに入ったのか話も聞かずにずっとケラケラ笑ってる理佐。
「はぁ、もういいよ。早く行こ」
理佐は自分の意思で自分の存在を弱くすることができる。
小さい頃、ある漫画に憧れて理佐なりに試行錯誤していたら出来るようになったらしい。
私はそんなことありえないと思っていた。
だけど部活初日のあの日、交流試合で実際に体験し、そして苦しんだ。
理佐はバスケ以外でもよくやってくる。
さっきみたいにね。
「それよりもさーちょっと頼みたいことあるんだ
けど」
「なんかめんどくさそうなんだけど」
「まぁまぁそんなこと言わないで、可愛い可愛いたぬきのためなんだ。だからお昼ちょっと私らのクラス来てくれない?」
「いや、たぬきってなんだよ。可愛いとか言ってるけどディスってるじゃん。
まぁいいや、行くのはいいけど、頼まれるとは言ってないからね。とりあえず話だけは聞くけど」
「ありがと。じゃあまたお昼で」
「うん」
教室に着いてもなお周りが煩い。
毎日毎日よく飽きないもんだよ。
「あの、平手さん」
人が気持ちよく寝てるのにまたかよ。
「今日の放課後、屋上に来てくれませんか?」
私は彼女の目を一度見て再び目を閉じた。
「てち起きて」
起こされて見るとそこには由依が立っていた。
「次移動だよ」
「あー、だる」
「だるいじゃなくて」
「起こしてくれてありがとうございますー」
由依はいつもこうして気にかけてくれる。
でもその割にはサバサバしてて近すぎず遠すぎずで居心地のいい距離感でいてくれるからありがたい。
バスケ部以外で心を開けるのは由依くらいだ。
「先行ってるよ」
「ん」
教科書と筆記用具だけを持ち教室を出る。
いつも騒がしい教室が静寂に包まれていて奇妙だった。
「おい平手。何してんだ?
早く行かないと遅刻だぞ」
「あ、いえ。今行きます」
「おう」
別棟の3階の端に音楽室がある。
そのため渡り廊下を渡り階段を昇らないといけない。
一言でいえばだるい。
階段に差し掛かった時、なにか聞こえた気がする。
ここの階段は出るって噂がある。
私は自然と足が速くなる。
そのときだった。
「も、、い、だ」
誰かが泣いているかのような声が聞こえてきた。
お化けではなく誰か泣いているのかもしれない。
私は本令が鳴ったのを無視し声のする方へ近づいた。
するとそこには少女がちっちゃくうずくまっていた。
「授業始まっちゃったよ」
急に彼女が顔を上げ笑顔でそう言った。
心臓を誰かに握られたかのような衝撃に襲われる。
「そっちだって」
「あなた次音楽でしょ。なんでわざわざ下に降りてきたの?」
「なんか聞こえてきてお化けかと思って」
「なにそれ、そんなことで授業サボったの?」
彼女はまた屈託のない優しい笑顔で私を見ていた。
「まぁ」
なぜだか彼女とは理佐や由依と同じように話していて疲れないし楽しい。
「名前は?」
「長濱ねる。あなたは?」
「平手友梨奈」
「平手さんか」
「友梨奈でいいよ。ねるはここで何してたの?」
そう聞くと彼女はまた俯いてしまった。
ねるの笑った目が少し赤くなっていることを私は気づいていた。
「ちょっとここで待ってて」
「え?ちょっと友梨奈!」
私は走り出した。
息を切らしながらあの場所に戻るとねるはまた両膝を抱え小さくなっていた。
「どこ行ってたの?」
私はねるにあるものを渡す。
「お水?」
「それで目冷やしなよ」
ねるは無言で水を見つめていた。
「言いたくないなら言わなくていい。
けどそのまま教室戻ると赤いの分かると思うからちゃんと冷やしな?」
「ありがとう。
わざわざ学校の坂の下まで買いに行ったの?
友梨奈って優しいんだね」
「別に」
「てかよくバレなかったね」
「まぁ慣れてるからね」
その後も私たちはずっと喋っていた。
気づいたら授業が終わっていた。
「友梨奈またね」
「うん」
ねるの目の赤みはなくなっていた。
教室に戻り自分の席に着くと何か視線を感じた。
逃げようと席を立ったが遅かった。
「てち〜?さっきはどこに行ってたのかな?」
由依の目が笑っていなかった。
「人がせっかく起こしてあげたのに結局サボりですか。いいですねー」
「いや、ちがくて」
「てちー!迎え来たよー!」
ちょうどいいところに理佐が来てくれた。
「朝約束してた通り話聞いてね。
ついでにご飯一緒に食べよー!
ってあれ?なんかお取り込み中?」
「いや大丈夫、行こ」
由依は少しお節介なところがあり授業をサボるといつも怒られる。
今日は理佐のおかげでまぬがれそう。
「ならいいけど、ほら由依も行こ」
「うん。てち後でね?」
私は無視して教室を出た。
「あ、てちそっちじゃない。屋上」
理佐の教室に入ろうとしたら止められた。
教室では話しにくいことってことだよな。
屋上の扉を開けると同じバスケ部の愛佳ともう1人座っているのが見えた。
「あ、」
「ん!」
それは意外な人だった。