仕事柄、生成AIのビジネスへの活用に関する相談をよく受けるため、関連する情報を調査することが多いです。

中でも、松尾研が発行しているレポートが非常に良い内容だったので、備忘兼ねてポイントを解説します。

 

生成AIの産業における可能性(東大・松尾研)

shiryo1-4.pdf (cao.go.jp)

 

資料全体を通じて述べられているのは、

・日本政府は生成AIに関して2023年初頭~現在まで迅速に取り組んできたということ。

・今後は各産業での活用を進め、中長期的な見通しを持つことが重要。

・生成AIは日本の産業をエンパワーし、人材の能力を引き出し、人々の生活を豊かにする可能性を秘めている。

論点1: 日本のAI戦略のグローバルな展開
日本は、シンガポールなどの戦略的な国と連携し、東南アジアLLM開発に参画することで、日本語と諸言語との対応性能を向上させることができる。そのうえで、法律的な対応関係のチューニングやRAG・ガードレール等を整備することで、さまざまなアプリケーションが乗ることになり、日本企業のマーケットが東南アジア全体に広がることにつながる。同様の試みは、インドや中東、アフリカなどに対しても可能であり、経済的支援と同時にLLMの開発を共同で行うことで、日本語と各国語の行き来を円滑にし、両国の交流、経済的な取引や投資を促進することができるだろう。

日本が持つ高い技術力と、各国との良好な関係を活かし、LLMの共同開発を通じてグローバルな展開を図ることは、日本のAI戦略における重要な一手となり得る。言語の壁を越えたコミュニケーションの促進は、ビジネスチャンスの拡大だけでなく、文化的な理解の深化にもつながるだろう。日本がリーダーシップを発揮し、各国との連携を強化していくことで、AI時代における日本の存在感を高めていくことが期待される。

論点2: 産業別の生成AI活用
医療分野におけるLLMの活用は、最重要な項目の一つである。分断されたシステムやデータベースをLLMでつなぐことができれば、医療に対しての貢献が大きい。ロボット分野では、ロボットの外界とのインタラクションのデータを共有するプラットフォームを日本でも構築すべきである。低コストに実世界でデータを集めることが競争力の鍵となる。製造業においては、サプライチェーンのデータをLLMを使ってつなぐことができれば、効率化・自動化によるコスト削減と、販売・マーケティングと商品開発・設計の距離が縮まることによる高付加価値化につながる。
日本は各産業において高い競争力を持っているが、デジタルトランスフォーメーション(DX)の遅れが指摘されている。生成AIの登場は、この状況を一変させる可能性を秘めている。医療、ロボット、製造業など、日本が強みを持つ分野において、生成AIを活用することで、データの統合や活用が飛躍的に進み、新たな価値創造につながることが期待される。産業別のLLM開発を促進し、プラットフォームの構築を進めることで、日本企業のDXを加速し、グローバル競争力を高めていくことが重要である。

論点3: デジタル・AIリテラシーの向上と人材育成
デジタル・AIに関してのリスキリングの重要性が認識されているが、学びのパスの整備が不十分である。誰もが何を勉強すると良いかを明確に分かるようにすべきであり、そのためには人材育成にリソースを割り振る必要がある。また、日本で成功したスタートアップや起業家が、東南アジアにおいて事業を拡大する例が増えており、DXニーズが高いグローバルサウスへのスタートアップの進出を支援し、人材育成につなげることが有効である。さらに、全国の企業がDXを行っていく上でのサポートニーズは大きく、地域の企業のDXを担うスタートアップが、グローバルに展開するシナリオは有望である。
日本がAI時代を勝ち抜くためには、国民全体のデジタル・AIリテラシーの向上が不可欠である。学びのパスを整備し、リスキリングを促進することで、個人のスキルアップと企業のDX推進の両輪を回していくことが求められる。同時に、スタートアップによるイノベーションを促進し、グローバルな事業展開を支援することで、日本発のAIソリューションを世界に発信していくことも重要である。地域のDXを担うスタートアップが、地域企業と共にグローバル展開を目指すシナリオは、地方創生とイノベーション促進を同時に実現する上で有望なモデルといえる。政府、企業、教育機関が連携し、デジタル・AI人材の育成と活用を総合的に推進していくことが、日本の未来を切り拓く鍵となるだろう。

 

まとめ:

・日本は生成AIにいち早く取り組み、この1年で着実に基盤を築いてきた。今後は、その強みを活かし、グローバルな展開、産業別の活用、人材育成の3つの方向で、戦略的に取り組んでいくことが重要である。

・日本語と諸言語をつなぐLLMの共同開発、医療・ロボット・製造業などの分野でのAI活用、デジタル・AIリテラシーの向上と人材育成。これらの取り組みを通じて、日本企業のDXを加速し、イノベーションを促進することで、日本はAI時代をリードしていくことができるだろう。

・生成AIの力を産業競争力の向上と社会課題の解決に活かすことで、日本の持続的な成長と豊かな未来の実現につなげていくことが期待される。日本の英知を結集し、官民一体となって、AI時代に向けた挑戦を続けていくことが求められている。