スマートフォンが登場して約15年。この間、iPhoneに代表されるハードウェア(HW)の進化と、Android・iOSなどのソフトウェア(SW)の発展は目覚ましいものでした。そして今、AI技術の台頭とともに、新しいパラダイムシフトの予感が広がっています。

近年、GoogleやMeta(Facebook)、Microsoft、OpenAIなどがしのぎを削るAI分野。チャットGPTに代表されるAIアシスタントは、私たちの情報とのインタラクションを大きく変えつつあります。音声での対話だけでなく、画像生成や動画編集なども可能になるなど、その応用範囲は広がり続けています。

こうしたAIを活用したサービスが普及する中で、新しいデバイス体験の在り方が模索されています。例えば、アプリ中心の発想から、タスク中心の発想へ。つまり、ユーザーが行いたいタスクに合わせて、必要な機能やサービスを動的に呼び出すような仕組みです。この発想は、「ブラウザをOSにする」というアイデアにも通じるものがあります。

ユーザーにとって理想的なのは、使っているスマホがiPhoneであろうとAndroidであろうと、過去の行動履歴やデータを無意識に連携し、シームレスに利用できること。例えば、iPhoneで撮影した写真をAndroidのタブレットで編集したり、Macで作成したドキュメントをWindowsのPCで続きを書いたり。こうした自由さがあれば、デバイスはもはや「ブランド」ではなく、ユーザーの目的を達成するための手段になるはずです。



 

しかし、現実はそう簡単ではありません。AppleにせよGoogleにせよ、自社のエコシステムを強化し、ユーザーを囲い込もうとするのが常です。iMessageはAndroidとは連係できませんし、Google マップのデータをApple マップに移行するのも一苦労。Amazonの書籍をAppleのiBooksで読むことはできません。こうした「ガラパゴス化」が、ユーザー体験の向上を阻んでいるのです。

とはいえ、ユーザー目線の利便性を追求する動きが皆無というわけではありません。先述のように、AppleのiPhone機種変更時の「復元」機能は驚くほどスムーズです。アプリはもちろん、Wi-Fiのパスワードまで引き継がれるのですから。こうした技術を、他社との連係に活かせないものでしょうか。

またGoogleは、PWA (Progressive Web Apps)という仕組みで、ウェブアプリをネイティブアプリのように動作させる取り組みを推進しています。ブラウザベースでありながら、オフラインでも動作し、プッシュ通知も可能。デバイスを問わず利用できるメリットは大きいはずです。

振り返れば、ブラウザとWebの普及によって、インターネットは爆発的に成長しました。オープンな仕組みの力は、計り知れません。いま私たちに求められているのは、時代錯誤なエコシステムへの囲い込みから脱却し、ユーザー価値を最優先すること。AIとブラウザを基盤とした、新しいオープンなプラットフォームを構築することなのかもしれません。

もちろん、企業にとってみれば、自社サービスの差別化は重要な戦略です。データの囲い込みによって競争優位を保とうとするのは当然のこと。しかし、時代の流れに逆行するような「ガラパゴス化」は、いずれ淘汰されるリスクもはらんでいます。

私たちユーザーもまた、受け身ではいられません。自らの声でもって、企業の方向性に影響を与えていく必要があります。SNSでの発信、ユーザーコミュニティでの議論、ベータ版アプリのフィードバックなど、様々なチャンネルが私たちの味方になってくれるはずです。

新時代のテクノロジーは、私たちの期待以上の便利さと豊かさを提供してくれるポテンシャルを秘めています。同時に、企業論理という現実の壁も立ちはだかっています。この難題を乗り越えるカギは、ユーザーと企業の建設的な対話に他なりません。AIとブラウザを軸に、誰もが望む理想的なデジタル体験の実現を目指す。そんな新時代のプラットフォームを、私たちの手で作り上げて行きたいものです。

(参考情報)
Webブラウザが“OS化”しつつある:HTML5対応で進む機能強化 - TechTargetジャパン システム運用管理 (itmedia.co.jp)

Metaが提供するプラットフォームとデバイスに新しいAI体験を導入 | Metaについて (fb.com)

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