サービスという観点から、接客業、とりわけホテル業のサービスに関する本を読み漁った時期があった。今思うと「個人で心掛けること」が主流であったように記憶している。

先日書いた中で紹介した「サービスが伝説になる時」は観点がちょっと違い、新鮮であった。
ノードストロームにもう少し深入りしたのが「ノードストロームウェイ」という本だ。あいにく品切れのようだし、Amazonでの評価も高くないようだ。しかし、この書籍、組織のマネジメントや人の育て方については非常に含蓄のあるものだと感じた。自分なりに感じたことをいくつか書いてみる。

トヨタカンバン方式の生みの親である大野耐一氏の考えに「工場中に自律神経のネットワークをはりめぐらせたかった」という話をされていたそうだ。つまり、情報を上げて上からの指示を待つのではなく、組織の末端の裁量で判断することだ。人間でも、脳で全ての判断を行っているのではなく急ぐものは脊髄反射を行っている。ヘンな表現だが、体の中でもこのように権限委譲(エンパワーメント)している機能がある。言いたいことは、末端にまで脊髄を行き渡らせ、さっさと処理をしてしまいなさい、というように解釈していいだろう。
この考え方は、ノードストロームの方針でもある。製造業と接客業は全く違うが、通じるところがあるのが興味深い。また、プロジェクトマネジメントの分野でも、先日受けたPMI日本のセミナーで同じような話があった(というより、大野耐一氏の話は、その中で聞いたモノだ)。
共通していることは「自律的に行動すること」「自律的に行動できる環境を作り、自律的に行動できる人を育て、伸ばすこと」であろう。

指示待ち族なんて言葉もあるが、そもそも能動的に何でも、という人は少ない。ノードストロームは特別な人材を採用している訳ではないが、能動的な人が多いそうだ。これは上から細かいことは言わず、極力現場に権限委譲しつつも、ある程度の失敗は成長の糧としてもらうため、上の人が責任を取ることで能動的な人が「育つ」のではないか。先日のPMI日本のセミナーでは「管理しすぎ」の弊害を紹介していた。まさに同じ事を言っているのではないだろうか。


そのほか、ノードストロームは「返品に応じる」という。靴や婦人服、紳士服を扱っているのに、タイヤを返品しにやってきた人の返品に応じた、という伝説がある。これの事実関係も書いてあるし、返品システムをなぜ導入しているのかも書いてある。そもそもノードストローム一族は表に出たがらないし、語りたがらないそうで、この書籍も今までベールに隠れていたものを初めて表に出したものらしい。
考え方は至ってシンプル。「顧客のため」である。顧客のためを掲げる企業は多いが、ノードストロームには「揺るぎない芯」がある所が違う。

いろいろな経営書を読むより、この一冊の方がよほど役に立つ。しかし、理解するためにはそれなりのポテンシャルがいるのではないか。若い人、または能動的な人に勧めたい。ある程度社会経験を積んでしまうとスレてしまい素直に読めなくなるようにも思う。
再販を願いたいところだ。