印象深い技術経験 (7) | 技術コンサルティング研究会 BLOG

印象深い技術経験 (7)

更新が遅くなり、失礼いたしました。ミランダ編集長です。
会社での仕事の忙しさに比例して、どうも私生活でのやる気のなさが増大している現状に困ってしまっております。この負のスパイラルから抜け出し、テキパキ、したたかに生きなくてはなりませんなぁ。皆様は、新年度をどのようにお過ごしでしょうか?

今回のお題はそのまま、業績論文に直結する内容ですが、何かここで大っぴらに披露するのも若干ためらわれます。ここでは2番目ぐらいに印象深い技術経験について記載することにいたします。

修士修了後に勤務した最初の会社では、医薬部門で薬理研究を担当しておりました。新しく開発した「動脈硬化/高脂血症治療薬」の作用機序の解明が主な仕事でした。ACAT阻害剤(コレステロールのエステル化を防ぎ、細胞内貯留を防ぐ)が、糖尿病モデルラットなどのようにACAT活性が亢進しているような状態において、食後の血中コレステロール、トリグリセライド値を低下させる機序につき、グループで研究をしておりました。ACAT自体は小腸と肝臓で発現しており、どちらの臓器での抑制効果が血中濃度に寄与するかにつき、まずは小腸から吸収され、リンパ液に取り込まれた成分の分析をするように、とテーマを与えられました。
しかし、このリンパ液を採取するための、リンパ管カニュレーションという手術自体をしたことがある研究者が社内に一人もいませんでした。こちらは、薬学部出身でもないので、動物の手術についてはさほど経験がなく、最初は大動脈を傷つけてしまったり、ようやく挿入できたと思ったら、カニューレが詰まってしまったりで、トータルの手術成功率は20%ぐらいでした。それでも、手術道具を変更したり、カニューレが詰まらないように、内径を大きくしたり、ラットには水道水ではなく、生理食塩水を飲ませるようにしたり、といろいろ工夫をしていくうちに、うまく24時間分データを取れるようになりました。自分でもよい考えだなと思ったのは、HPLCのフラクションコレクターと接続し、人がついていなくても、自動的に1時間ごとにリンパ液を採取できるようにしたことです。それにより、リンパ液量、濃度ともに測定ができ、時間ごとの吸収量を正確に計算できました。そして、血中濃度に先んじて、リンパ液でのコレステロール、トリグリセライドが共に有意に低下することを証明することができました。
この実験結果は論文のFigureにも使用され、同じグループの方に「君のデータがあったから論文がアクセプトされたようなものだよ。」と褒められて嬉しかったですね。最初は失敗続きで、毎日動物室にこもりきりだったので、他にしゃべる人もおらず、(いつも帰るときに、上司に「今日もダメでした・・・。」と報告すると、「でも、一度は成功したんだから、きっと出来るよ!」と励まされる毎日。)手術しているラットに話しかけるようなアブナい人でしたが、最終的には仲間に認められて人間の世界に戻ってくることができました。
科学の営みってそういうものだと思うのですよね。孤独を耐え忍び、集中して仕事をやり遂げた後、研究発表のときに、皆と結果をシェアできる喜びを味わう。ああ、でも大抵最初の「孤独」のところで挫折するんですわ。私は激励してくれる上司がいて恵まれていたと感謝いたしております!