職人仕事に使われる道具類は文明の最初の所産であり、長い時間をかけて進化してきた。身の回りにある人工物を作るために使われる人工物、という性質ゆえに、道具類の形は多様性があり、特殊である。
道具の歴史研究は難しい。なぜなら道具は一種の「神秘」とみなされ、職人達はみな秘密にしたがる風潮が強かった。見知らぬ者が工房に入ってくると、職人達は申し合わせたように自分たちの道具を隠した。そして、道具について何か聞かれると、いい加減に答えたりする。
16世紀半ば、デオルギウス・アグリコラの『デ・レ・メタリカ』は、採鉱と冶金に使われた道具と手法を、挿絵で説明している。その一つの挿絵の中には、作業中の銀細工師の姿が描かれており、彼のそばにある切り株に、大バサミのようなものが一丁突き刺さっている。その握りの一方はL字型に折れ曲がっていて、この曲がりこそが、同時代の普通のハサミとの相違点になっている。この形は、従来の大バサミではできなかった役目を果たす。
銀細工師には手が2本しかない、金属片を切断するときは、普通の大バサミだと、抑えながら精度良く切断することが難しい。そこで、持ち手をL字にし切り株に固定することで、片手でハサミを操作するあいだに、もう一方の手で工作物を押さえたり動かしたりできる。
歴史の中で、職人は道具を使って同じ仕事を繰り返さなければならなかった。こうした決まりきった作業の中に、仕事の細部に目をこらし、仕事に影響を与える道具に工夫をこらしている。古い道具類の使い方や、なぜこんな形になったのか、自分なりに考えてみよう。
物作り思考が鍛えられる。
