
ぽてぽてぽて。
あの子が歩くとそんな音がする気がする。
透き通るような青い空と、風そよぐ草道、その境界線にぽつんといるあの子は白いからだをほこりで覆っていた。
あの子を初めて見たのは昨年の夏。
おそらく雑種であろう毛並みではあったが、どことなくミニチュアシュナウザーを思わせる姿は何種類もかけ合わされた雑種よりも凛として見えた。
あの子は誰もいない河原で、誰かを待つようにじっと動かない。
例え側を自転車が通ろうとも、近くに仲間が来ようとも全く興味を示さず、ただそこに立っていた。
ある日、コンビニへ行く途中あの子に会った。
河川敷から降りて民家のある小道を歩いていた。
やっぱり歩く姿を見ているとぽてぽてぽてという音が聞こえてきそうだ。
いつもは河原でぽつんといる姿しか見たことが無かったので、僕は幻ではないかと思うこともあったが、近くで見るとしっかり足はあるし、うっすら光っているというわけでもなかったので、あの子はいつも河原に存在していたのだと確信した。
近くで見ると目は潤いたっぷりなものの、どこか元気が無く、遠くで見ているよりもずっと弱々しく、ずっと汚れていた。
人に対しての警戒心はなく、僕が見つめていても、小柄なからだで吠える様子も、一目散に逃げる様子も無く、ただ僕を見ているといった感じだった。
思わず抱きしめたくなる容姿だったが、リアルな世界がそれを認めない。
しっかりその子を守れるの?
その問いかけに真正面で答えることの出来ない僕はすっと目線をはずしコンビニへ向かった。
後ろからついてきてしまい涙ながらに別れる、もしくは思わず抱きかかえてしまうというドラマチックな展開を期待する自分がいたが、あの子は僕とは反対方向へ淡々と歩き出した。
3日に一回は目にしていたあの子は、いつもただそこにいるだけだった。
透き通るような青い空と風そよぐ草、その境界線にぽつんと。
夏が終わり、秋も深まり、やがて冬も来た。
それでもいつものようにそこにいたが、日に日に白いからだは黒くなっていった。
季節が移り変わっていく度に、あの子は姿を現す日にちが減っていった。
一週間、2週間、一ヶ月…
僕は春以来あの子を見ていない。
結局僕はあの子に名前をつけてあげることが出来なかった。
誰かがあの子に名前をつけてくれたのだろうか。
昔の名前を大事にしたままぽてぽてぽてとどこか遠くへ歩いていったのだろうか。
ずっと待っていた人に会えたのだろうか。
確かなことはわからないけれど、
透き通るような青い空と風そよぐ草道、その境界線には今だれもいない。
ふぅ…
動物を育ててみたいという気持ちはあるけれど、育てるためには環境を整えてあげなくてはならない。今の僕にはその余裕がないので気持ちを持っているだけで留めています。
でもいつか動物と一緒に過ごしてみたいなぁ。