バンクーバー五輪シーズンのFS「鐘」の初演時、「重くて暗くて真央ちゃんには合わない」「なんで五輪シーズンにあんな曲を選んだのか」と批判が殺到した。
元コーチや海外のスケート関係者まで、「プログラムを変えるべき」と発言し、マスコミもこぞってとりあげた。
世論に耐えかねた振付師が、「曲を変えましょうか」と真央ちゃんに進言したけれど、真央ちゃんは頑として聞き入れず、あの時はファンですら「どうして真央ちゃんはあんなに頑固なのか…」と嘆息してたと思う。

でも、最後完成された「鐘」を見た時、度胆を抜かれた。
重い雲が立ち込めた陰鬱な冬、抑圧された民衆の苦悩、怒り、声にならない叫びが、真央ちゃんの体からマグマのように吹き出し、ラスト両手を天に向かって高々と突き上げる振りは、やり場の無いほど増大したエネルギーを天に向かって放出し、祈りとして昇華させたかのような神々しさに満ちていた。

畏敬の念というのはこういう事か、こんな世界観をフィギュアで表現できるのか…と、電撃に撃たれたようなショックを受けたことを今でも覚えている。

今回のSPを受けてメンタルが弱いと叩く人もいるけれど、
マスコミにネガキャンされても決して不快な表情や態度に表すことなく、どれだけルールを不利に改正されてもグチも不満も言わず淡々と練習に励み、大観衆の前で何度転ぶ事も厭わずに、1シーズンも休む事なく試合に出続けた真央ちゃんは、決して弱い人ではない。

むしろ8年間、二位以下なら真央不調、惨敗とされ、世界が「優雅で美しい」と絶賛する表現力を、「子供っぽい、妖艶さがないから点が出ない」と自国で貶められ、勝っても「ライバルがミスしたから勝てた」と嘲られ、「もっと練習しなくては」と追い込まれ続けてきた。

そんな真央ちゃんがスケートをやめなかったのは3Aがあったから。
女子では真央ちゃんにしか飛べないジャンプ。真央ちゃんにとっての誇りであり、支え。
3Aをソチ五輪で決めて今度こそノーミスの演技をすることだけを夢見て、苦しみに耐えてきた。

SPで3Aを失敗した時、今まで張りつめてたものが折れたのかもしれない。
それをメンタルが弱いなんて叩けない。
むしろよくここまで走り続けてきてくれたと思う。
どんな時でも真央ちゃんの演技を見ると心が洗われるような感動を覚えた。
ジャンプが一つも決まらなかった愛の夢だって、まるで雨に打たれた一輪の花のように美しかった。

真央ちゃんは、フィギュアスケート界に燦然と輝く光。一点の曇りもない、清浄無垢で温かくて高貴な光。

五輪はまだ終わっていない。最後、「鐘」と同じラフマニノフの曲で、強烈な光を世界に届けてくれることを願っている。

浅田真央が戦ってきたもの
http://www31.atwiki.jp/injustice/