さて、明日から色々忙しくなる前に、読んだ本の感想を。



ティアドロップス☆☆
「エリザベート ハプスブルク家最後の皇女」 塚本哲也著


これね、図書館の本検索したとき、エリザベートっていうタイトルだけ目にして予約しちゃったので、てっきりフランツヨーゼフの奥さんの美貌の皇妃エリザベートのことだと思って借りたのだ。


しかし実際取りに行ってみたら、表紙の写真が私の知ってるエリザベート皇后とはだいぶ違う…。

いやこの人も美人だけど、皇妃エリザベートの方はもうちっと神秘的な美貌だったはず…。


と思ってよくよく読んだら、フランツヨーゼフの妻のエリザベートではなく、孫のエリザベートだった。

30歳で自殺した皇太子ルドルフの遺児ね。


ハプスブルクについては色々読んだけど、どうしてもマリアテレジア~皇妃エリザベート時代のものが主で、皇帝フランツヨーゼフの死後については今まで全く触れたことがなかった。

そもそも皇太子ルドルフの子供が生き延びてたことすら知らなかったし…。


というわけで全くの基礎知識ゼロから読み始めたんだけど、まぁ~なんていう動乱の時代!!


勿論主役はエリザベートなんだけど、彼女が生きた時代が、ハプスブルクの滅亡から第二次世界大戦後までなので、物語もウィーンを中心とする当時のヨーロッパの社会情勢が大部分をしめている。


第一次世界大戦、第二次世界大戦はこうして始まったのかっていう、学生時代はちょこっとしか触れられてなかったことが詳しく書かれていて、目からうろこの連続だった。


まず、エリザベートの父、皇太子ルドルフについて。


ルドルフといえば、私の中ではミュージカル「エリザベート」に出てくるイメージが強い。

母親によく似た革新的な思想の持ち主で、父皇帝とうまくいかず、絶望して愛人と自殺…みたいな。

幼少期両親の充分な愛情を得られず、過酷な教育を受けたため、精神的に少し不安定なところがある繊細な人って言うイメージがあった。


でもこの本に出てくるルドルフの実像は、決して抑圧されて死に逃げ込んだ繊細な皇太子ではなかった。


ルドルフ、実は政治的に鋭い洞察力を持ち、保守的な王室に生まれながら、非常に先見の明があったようだ。

そして、皇太子という立場でありながら、優れた文章力を武器に、諸外国と言論で闘う熱意と勇気もあった。


誠実で人はいいが、根っからの王室育ちで保守的な皇帝にはその考えが理解できず、また、ルドルフの政治思想を危険視する輩には、私生活のスキャンダルの方から攻められ、絶望の果ての自殺だったよう。


意志が強く何者にも囚われない自由奔放さ、急進的な考えを持ちながら、同時に揺らぎやすい精神を持っていたアンバランスさは、母親である皇后エリザベートによく似ている…。


皇太子ルドルフを失い、何年か後には最愛の妻エリザベートを失い、娘達は嫁いで行き、孤独になった皇帝は、城内で唯一自分と血のつながった孫、エリザベートをひどく可愛がるようになる。


エリザベートは言語の習得に優れ、利発で怖いもの知らず、そしてワガママいっぱいと、王家の娘らしくのびのびと成長する。


しかしエリザベートの過激なことといったら…。

下級貴族の青年オットーに一目ぼれしたら、オットーに婚約者がいるにも関わらず、皇帝に彼との結婚をせがみ、唯一の孫には甘い皇帝はオットーに孫娘との結婚を命じる。


結婚後、オットーとの中に不協和音が生じ、オットーが元婚約者と浮気してると知ると、浮気現場に乗り込み浮気相手の女性をピストルで撃つ。(ひーーーーっっっ叫びあせる


それでもおさまらないエリザベート、帰宅してきたオットーをまた家の中から衝動的に撃つ。(やめれ~~~~叫びあせる

このオットーも、エリザベートと不仲になると、彼女の財産を執拗に狙ったり、結構ヤな奴に見えるんだけど、婚約者がいるのにお姫様のわがままで無理やり結婚させられて、家に帰ると中からピストルの弾が飛んでくるんじゃ踏んだり蹴ったりっていうか同情を禁じえない…。


しかしエリザベート怖すぎる…あせるあせる


そんなこんなしてる内に、時代は20世紀に突入し、650年の栄華を誇ったハプスブルク帝国はついに崩壊する。

救いなのは、皇帝フランツヨーゼフが、帝国の崩壊を見ないまま崩御したこと…。


大国から脅されたり、ハンガリーのナショナリズム運動に悩まされたり、身内の不幸が続いたり…悩みの耐えない悲劇的な人生ではあったけれど、60年以上の在位を誇った皇帝は、その誠実で気さくな人柄で、国父として国民から愛されていた。


(ウィーンに行ったときも、ホテルやカフェなど街のあちこちにフランツヨーゼフ皇帝の肖像画がいまだに飾ってあったし、お土産やさんはシシィの絵葉書とか、ハプスブルク関連のもので溢れていた。ウィーンの人たちにとっては、懐かしき良き時代なんだろう。)


帝国の象徴であった皇帝を失ったことで、ハプルブルク王朝は急速にその求心力を失っていき、時代の流れもあって帝国は崩壊する。


かつて帝国の一部であったチェコやハンガリーは独立、オーストリアも共和国となり、ナショナリズムがにわかに高まり、人々は希望に燃えて新たな出発を切ったはずだけど…。


帝国の威信を取り去ってみると、ただの小国に過ぎないこれらの国々は、常に大国からの併合、占領の恐怖に怯えることになる。


特に、かつてウィーンの美術学校の試験に二度も落ち、失意に落ちたヒトラーは、ウィーンに対して多大なコンプレックスを抱いていた。

他の大国、英仏伊を押さえ込み、孤立したウィーンに脅迫同然に迫り、無理やり併合させてしまう。


そこからの東欧、中欧の悲劇ときたら…。

あまりにも悲惨すぎて可哀想で、読んでて落ち込んでしまった…。


強制収容所の地獄のような生活、ハンガリー動乱の残酷な弾圧…。

人を人とも思わない粛清に、なんだって同じ人間に対してそんなことが出来るのか、吐き気すら覚えた。


小国はまるで猛獣の前に放り出された無力な子ウサギのよう…。


ハンガリー人もチェコ人も、ただその国の人としての誇りを胸に自由に生きて行きたいだけなのに、大国のマスゲームの駒として騙され、裏切られ、弾圧され、搾取され…。


特にヒトラー率いるドイツ、スターリン率いるソ連はあまりにもひどい。


ナショナリズムは大事だ。愛国心だって、大抵の人にはある。

でも、根本的に、国家はなんのためにあるのか。


人間のためではないのか。

国家のための人間ではなく、人間のための国家のはずなのに、国の権力争いのために、罪の無い多くの人間が犠牲になるなんて、本末転倒ではないか。


それに、ヒトラーやスターリンは、小国を蹂躙して心の底から幸せだったのだろうか?

物欲や名誉欲は、満たされたときに一時的な満足を与えてくれるかもしれないけれど、際限がない。


ヒトラーが、オーストリアを手に入れたら次はハンガリー、次はチェコ、次はポーランドと、見境無く襲い掛かったのは、満たされることのない欲望を抱えていた証だ。

常に飢餓感に苛まれ、暴力と脅迫で飢えを満たし、一時的な満足を得る。

そんな人生はあまりにも貧しく、不幸だと思う。


そして、もし自分がその時代に生きてたらどう振舞ったか…否応無く考えさせられた。

平和な時代、平和な国に生まれたから、自分は自分をそこそこ善良な人間として振舞わせることができる。


だけどもし世界が闇に包まれ、弾圧の恐怖にさらされたら…内心では反対しつつも、危険を恐れて表面上はナチスに迎合してしまっていたかもしれない…。


どんな時代にあっても、どんな状況でも強くあれる自分に、心をもっと鍛えなくては…。


あとね、平和は単純に戦争がないっていう消極的な状態のことではなくて、人類が恒久的に意識して勝ち取っていかなくてはいけないものだなってこと。

そのために自分には何ができるのか。生涯忘れずに、心がけていきたい。


さてさて、これで図書館から借りてきた本は全部読みきったぞと。

検索してる内にあれもこれもと7冊も借りてしまい、止まらずに1週間で読んでもうた…ガーン


試験が終わるまでは、一度に借りるのは2冊までとしよう…。

次はシューベルトの伝記借りよっとニコニコ