部屋にいるときは、必ずと言っていいほど音楽を流す。
テレビをつけない日は多いけど、音楽を聴かない日はない。
イージーリスニングやポップス、映画音楽、クラシックなど、ジャンルはその日によって様々。
楽しい日は軽快な音楽を、勝負事の日は力強い音楽を、悲しいときは優しい音楽を。
音楽はいつも様々な記憶と共にあり、私の人生を彩ってくれた。きっとこれからも一生。
そんな音楽、大好きな曲は多々あるが、私の中で宝物のように大事にしている曲がある。
そのときそのときで好きな音楽は変わるけれど、一番好きな曲はと聴かれたら決してその座を譲らない曲。
そしてこれから先どんな名曲に出逢ったとしても、きっと変わることはない。
パッヘルベルの「カノン」
初めて出逢ったのは中学のとき。
「アダージョ・カラヤン」という、クラシックでは異例のヒットを飛ばしたCDがある。
なんでかは忘れたけれど、恐らくは興味本位で購入し、カノンに出逢った。
初めて聴いたときの震えるほどの感動は忘れられない。
一つ一つの音がとても上質で、ヴァイオリンは小川のせせらぎのように透き通った輝きを放ち、チェロは全てを抱く大海のようにゆったりと根底を流れている。
それらが一糸乱れず繊細にからみあい追いかけあう様は…なんと表現していいのか分からないほど美しい。
特にゆっくりとした出だしからはじまって、途中でヴァイオリンが「タンタタ♪タンタタ♪タタララララララ♪」と下から上へと駆け上っていく音のまばゆいばかりの響き。
何度聴いても鳥肌がたつ。
この曲は出逢ってからずっと私のそばにあり続けた。
聴いていると、私が私で無くなって、心が溶けて大いなる地球にそっと抱かれるような、全ての人間が生まれ、還っていく場所で安らかに眠らせてもらっているような、そんな気持ちになる。
広々と凪いでいる海。寄せては返す波。沈み行く夕陽。オレンジ色の空。
生命は海に抱かれてひとときの休息を得、温かなまなざしに見守られながら永遠に生死を繰り返す。
カノンを通して、目には見えないけれど、確かに存在している、何か普遍的な宗教的なもの、宇宙を貫く本質のようなもの、善や美の結晶のような、そんなものの欠片に触れる。
天上の芸術を生み出す人間の心は、無限に深く、美しい。
カノンはもともとカルテットで演奏される曲だが、私は最初に出逢ったのがこちらのオケ版だったので、断然オケ派。
より「海」を感じさせてくれるから。
明日は多分小澤征爾指揮のウィーンフィルのニューイヤーコンサートのCDが届く。
しばらく我が家のBGMはワルツ三昧になりそうだ。楽しみ楽しみ。