春になると毎年聴きたくなる曲がある。
モーツァルトの「フルートとハープのための協奏曲ハ長調 第二楽章」。
モーツァルトの音楽は美しい。ただひたすらに、美しい。そして明るくて軽やか。
聴いてると、モーツァルトがうっとりとした瞳で、「ほら、このメロディー、綺麗でしょう。ね?」と無邪気に語りかけてくるような気がする。
私のお気に入りのCDは、「アダージョ・モーツァルト」。モーツァルトの曲の第二楽章ばっかりを集めたCDである。買ったきっかけは、中学のときに出会った一冊の本。
「モーツァルトの伝言」という童話。お調子者でタワシみたいな頭をした「モーツァルト」というあだ名の少年と、その少年の親友である「ぼく」の物語。クラスではいつも笑っておどけてるモーツァルトはピアノの天才。溢れる才能と、ひそかな心の闇をかかえている。モーツァルトに振り回されながら、その才能に惹かれていく「ぼく」。いつもおどけているばかりだったモーツァルトが、東京の音楽の学校に行く前に、静かな表情で「ぼく」にピアノを聴かせる。それがモーツァルトの「ケッヘル467番」。
図書館で借りたこの本に感動した私は、どうしても「ケッヘル467番」が聴きたくて、このCDを買ったのだ。
それまで、モーツァルトといえば、美しくて楽しい音楽だとばかり思っていたけれど、このCDを聴いた時、そればかりでないことを知った。
モーツァルトの音楽は、うちに秘めた悲しさを、温かく包んで微笑んでいるかのような優しさがある。ベートーベンみたいに激情を表にだすのではなく、チャイコフスキーみたいに親しみやすい派手さはなく、ただ悲しみを潜めて、優雅に美しい。つつくと壊れてしまいそうなくらい繊細なのに、どこにも隙がない。完璧な美である。
「モーツァルトの伝言」に出会って、このCDを買ったのは春。よく聴いていたのも春。だから春になると、このCDを聴きたくなるのだ。
特にお気に入りの曲は冒頭にも書いた「フルートとハープのための協奏曲」。フルートが素晴らしい。これを聴くたびに「この音何かに似てるんだよね」と思いつつ、思い出せなくて聴くたびにむずむずしていたのだけれど、この前「は!」っと思いあたってすっきりした。
コーヒーにいれるミルクに似てるのだ。あの少しとろみのある乳白色。すごく抽象的だけど、これを聴いたら多分誰もが「まさしく!」と思ってくれるはず。
のどかな春のまどろみをうたっているような、温かで可愛くて繊細な曲。私もいつかこの曲を吹いてみたい。
高校時代、実家で気持ちよくフルートを吹いていたら、姉に「黙れニワトリ!」と怒鳴られたくらいだから、コーヒーにいれるミルクには程遠いけど…。(ひでぇ…)
まだ春には遠いけれど、待ち焦がれた春が来たら、そのときはぽかぽかと暖かな陽だまりの中で聴こう。
あなたにも、ぜひ(^^)
(※以前別の場所で書いた記事の転載です)