「東京島」ギャグマンガですか……。 | 本の話がメインのつもり

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気まぐれに選んだ本を読みながら、何となく見つけたジャンクな菓子ばかり食べます。

東京島 (新潮文庫)/桐野 夏生

エゴむき出し:涙3涙3涙3涙3 /5

妙なおかしみ:☆☆☆☆ /5



マロさま さんが読まれていたので

気になって読んでみました。


桐野夏生さんの「東京島」です。



クルーザーで世界一周の旅に出たものの、

嵐にあってしまった隆と清子の夫婦は

無人島にたどり着く。


2人はわずかな荷物をクルーザーから持ち出し、

苦しい無人島生活をはじめた。


数日後、23人もの若者が島に漂着し、

さらに数日後、中国人11人が島に置き去りにされた。

やがて、無人島は「トウキョウ島」と名づけられる。


清子は多くの男の中、たった一人の女性であった。

40代半ばという年齢にも関わらず、

彼女は自らの体を武器にたくましく生き抜こうとする。



何となく、

そんなに期待せずに

読んだのですが、

これが意外にもおもしろかったです。


もっとドロドロとした人間関係とか

恐怖とかがリアルに描かれていて

嫌な気分になるかと思ったのですが、

全然、そんなことはありませんでした。


むしろこのノリはどこかしら、

「ギャグマンガっぽい」、と感じました。


無人島で追い詰められた人たちの

行動は短絡的で、

客観的に見ていると「そんなバカな……」の

連続です。


平気でウソをついて、

他人を騙す。


自分だけが得をしようとして、

ひどい目に遭う。


都合の悪いことは忘れる

(忘れたことにする)。


狂気に駆られて奇行にはしる……。


背中がかゆくなるような

「愛」も「友情」もない。


むき出しの人間のエゴが

描かれているのに、その短絡すぎる行動に

妙なおかしみを感じます。


これは「喜劇」かもしれません。


地の文でも登場人物たちが

あだ名で書かれているからなのか、

リアリティが見事に消失しています。


たまに日本人らしい本名が出てくると

その生々しさに一瞬ドキリとするほどです。


だから映画の予告を見て、

生身の人間が必死で島を

走り回るという「リアルさ」に

ちょっとガッカリしてしまいました。


これはギャグマンガ家の「しりあがり寿」さんあたりに

マンガ化して欲しい……

なんて思ったりして。


アマゾンの書評などでは

かなり評価が割れているのです(むしろ評価が悪いようです)が、

ラストシーンは特にいいと思います。


いいオチがついた、

本作中最高のブラックショークのように感じます。